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16.悪く思うなよ



「マンティコアの死骸はこれで全てか!」


 ゲランのとどろく大声に、周囲の兵士が是の声を張り上げる。よ、ようやく終わった。


 マンティコア。本来であれば他の魔物と同様単独で行動するのだが、稀に生まれる『知能持ち』の個体が繁殖すると、群れを成し計画的に人を襲うのだという。


 報告されているマンティコアの個体数は百前後。スーデンの山奥で繁殖したのであろう彼らは、人里に降りて周りの村や都市を襲い、大小含む十三にものぼる集落に甚大な被害をおよぼした。


 こういった『知能持ち』の魔物が繁殖した場合、各国の王侯貴族が集い討伐隊を組むのが古からの慣習だそうだ。ここ一帯の王族は成人を迎えると『祖の誓約』を結び、有事の際であろうと魔物の討伐に人を派遣する、もしくは自ら馳せ参ずるのが、彼らに課せられた義務となっている。


「この戦果で残りの全体数は二十弱……いやぁ、ユウマ殿のおかげで今日は楽に済んだ! 間近で見ていたが、素晴らしい魔法の腕前と機転であった。ユウマ殿は元の世界でもさぞ、名のある武人だったのだろう」


 いや、元の世界ではバリバリ平和ボケした一般庶民だったし、なんなら今回の戦いが初陣でございました。

 

 そう言える雰囲気でもなく、あいまいな笑みを浮かべていると。ふと視界の端にふらふらと、一人の兵士がマンティコアの死骸に歩み寄るのが見えた。


「間違いない、この傷……こいつが、俺の女房と子供を食い殺しやがった」


 そう言って兵士はぶるぶると震えながら、手に持った槍を振り上げ、マンティコアの顔面に勢いよくそれを、何度も何度も突き立てた。


 兵の凶行を、止める者は周りに誰もいない。先ほども散々似たようなそれを目にしたものの、凄惨な光景を前に目を背けようとした時だった。


 ぴくりと死骸の山から何かが動く気配に、咄嗟に呪文を詠唱し、杖の先から火弾を放つ。間一髪まにあったようで、その炎は兵士に飛び掛かろうとした小柄なマンティコアの腹を直撃し、魔物の全身に火が回る。


 ぎゃあう! と甲高い悲鳴をあげて落ちた個体が、その身を炎に包まれながらもずるずると、先ほど兵士に顔面を槍で貫かれたマンティコアの方へと這い寄った。


 ふと、先ほどのゲランの言葉が頭をよぎる。『知能持ち』の魔物には、人間と同等の知能があるのだと。


 一呼吸おいて、腰を抜かして座り込む兵士の横を通り過ぎ、生きながら焼かれるマンティコアの幼体へと歩み寄る。頭も体も疲れているが、気力を振り絞り火と水の簡易な詠唱を完成させた。


「悪く思うなよ」


 お前達を殺さなきゃ、この戦いで死んだ兵士達や、この男の家族のように多くの罪なき命が奪われる。


 もはや自分が目の前の命を奪うことに迷いはない。

 だがせめて、一瞬で楽に死なせてやろうと。火と水の複合により編み出した、文字通り必殺の魔法を小さなマンティコアの頭上目がけて放った。

 


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