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14.どうしてこうなった



 第一王子派、第二王子派とされる貴族の家はいくつかある。


 その筆頭が、王子それぞれの母方の生家となるローエン家、ランバル家だ。

 建国以来から続く由緒正しき前者に対し、ランバルはほんの百年前に興った新興貴族の家柄である。


 俺から見て先代の異世界人、彼が当時の国王との間にもうけた幾人の子の内、末子がランバルに嫁ぎ子を成した。その子孫である現当主ドミニクと王家のエクス王子は、高い魔法の素養を持ち、魔物との戦闘にも秀でていた。


 百年前にもたらされた異世界人の血を、最も花開かせた軍閥貴族の大家。それが貴族社会におけるランバル家の立ち位置であり、第二王子派はほぼこの家を中心とした一枚岩でまとまっている。


 つまりだ。第一王子やその派閥の筆頭である俺が、ランバルに気にいられ良好な関係を築くことさえ出来れば。エクスが国王に即位した後の、第一王子派閥の迫害を防ぐことも現実的になる訳だ。


「で、その第一歩にオーク討伐を成功させて、俺自身に箔をつけてからランバル卿に謁見願おうって話になってた筈だが……」


 何か物々しくない? ごうごうと土煙の巻き上がる中、響き渡る人間の怒声と悲鳴。

 不意に殺気を感じ、空に浮かび上がる大きな物陰に向け、杖をかざし呪文を詠唱する。


 けたたましい爆音の後、飛び散った魔物の血や臓物がこちらにまで飛んできた。大きな塊がごとんと横に飛んできて転がる。横目に見れば、そこには皺くちゃの猿にも似た顔付きをした、巨大な獅子の頭の残骸。マンティコアと呼ばれるその大型の魔物は、大規模な群れになれば小国一つ滅ぼすとさえ言われる人類の脅威だ。


 ああ、どうしてこんなことになってしまったのか。


 激しい戦闘の最中、俺は数日前のヴェイルセル王城での出来事を脳裏で振り返った。




「今のユウマ様の腕前でしたら、オークどころかミノタウロス数体の討伐はカタいかと」


 柔らかな淡褐色の髪に、薄青色の目をした青年。ロミアス・ペーリエはそういって、にこりと父譲りの美しい笑みでこちらに笑いかける。

 彼は少し前から俺に魔法を教えてくれている教師であり、なんとあの宮廷魔法使いフラミスの長男である。今年で24歳になるそうで、シュルツと同い年だ。親に似て温厚な人柄の好青年である。


「はあー……初討伐かぁ、緊張するな」

「今回は私も同伴しますし、護衛も何人か用意しております。安心してお務めを果たされてください」

 

 それはそれでちょっと大袈裟なのでは。何だか申し訳ない気持ちになりつつ、ロミアスに感謝の言葉を伝える。


 フラミスと話をしたあの日。俺は二週間前からぼちぼち練習を続けていた魔法の成果を周りにアピールすべく、王都近隣に出没したオークの討伐を引き受けることとなった。


 魔法はさまざまな用途に用いられる。しかしその中で最も重要なのが「魔物」との戦闘だ。

 この世界はかつて、強大な魔王や魔物の支配下にあった。異世界の勇者の活躍により、人類が主導権を握った後もそれらは人々の生活を脅かしており、弱き民に代わり魔物を討つのがこの世界の貴族の義務とさえいえる。


「ユウマ」


 こちらの名を呼ぶ男の声に、振り返る。城の廊下から中庭へと歩み出る男の姿は、自身が恋しく思ってやまない想い人のそれだった。


「シュルツ様!」

「魔法の訓練は順調か」

「ええ、先生の教え方が上手なので。ねえ、ロミアスさん」

「め、滅相もない! たわむれはおやめ下さいユウマ様。ですが、実際ユウマ様の魔法の腕前の上達ぶりには、目を見張るものがあります」


 せっかくですので見ていかれますか。そう語りかけるロミアスに、シュルツが頷く。

 三人で中庭の一角まで移動し、そこに立てかけられた練習用の的へと向き合った。


 乾いた地面の上に立つ、みっしりと詰まった藁で作られた筒状の的。練習用の杖を的へと掲げ、そうしてロミアスから教わった呪文を詠唱する。


 魔法は、身に巡る魔力と呪文。力の指向性を定める杖によって発動する。初めは魔力を操作する感覚に慣れなかったが、コツを掴めば簡単だった。


 呪文に合わせて、練り上げた魔力が杖の先へと渦巻き溜まっていく感覚。キーとなる呪文を発声すると同時、目の前の的に向けて魔力を放出する。


 勢い良く杖の先から飛び出した火球が、的を直撃し破壊した。焦げた破片が辺りへと散らばり、的全体をごうごうと燃える炎が取り巻く。

 ロミアスが水の魔法で消火を行う最中、シュルツが呆然とした面持ちで口を開く。


「火の魔法か……いつ見ても凄まじい威力だ」

「一通りの属性は扱ってみましたが、やはり火が一番魔力の消費に対する効率が良いですね。俺は魔力量がそこまで多くないので、実戦では節約しないと……」


 言いかけて、シュルツの顔色がどこか悪いことに気付く。そういえば俺は、彼が魔法を使っている姿を一度も見たことがない。


「……シュルツ様?」

「あ、いやすまない。考え事をしていた……ユウマはすごいな。ほんの短期間で、ここまで精度の高い魔法を扱えるようになった」


 そういって、シュルツは口元に笑みを浮かべた。彼にしては珍しい、貼り付けた様な微笑み。


「翌日のオーク討伐の折には、私の護衛のダミアンも付けよう。彼も優秀な魔法使いだ。ロミアスと合わせれば、万全の守りとなるだろう」

「え……いや良いですって! そんな大層な。俺のために、シュルツ様の警備がおろそかになるのはダメです」

「そうさせてくれ。本当なら私自身が着いていきたいものだが……私では足手まといになる」


 そう語るシュルツの口元には、自嘲の笑みが浮かんでいた。

 時折、いや結構な頻度でシュルツはこうした卑屈な言動をとることがある。何が一体彼をそうさせるのか。その理由はまだ分からないものの、いつか彼自身の口からその理由を聞いて、自分がその支えになれる日がくれば良いと。心からそう思った。

 


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