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13.課題が見えてきた



「……という訳で、お願いできませんか」

「ええ勿論ですとも」


 俺の差し出した羊皮紙を受け取り、フラミスは美しい笑顔と共に了承の言葉を紡いだ。


 ヴェイルセルの王城の一室。俺は宮廷魔法使いのフラミスと向かい合い、週に一度のカウンセリングを受けている。


 目的はずばり『転性の儀』だ。同性同士で子を成すために必要だというこの儀式は、一定期間、一定回数の性行為を要する。進捗を見る為、その魔法の担い手となるフラミスは定期的に俺の心身を検査している訳だ。


「すみませんね……フラミスさんの貴重な時間を割いてもらってるのにこの体たらく」

「とんでもありません。むしろ、お二人の仲が順調なようで安心しました」


 フラミスにはこの城に来て一週間、俺とシュルツが両思いとなったことを伝えて以降、儀に向けての準備を色々と手伝って貰っている。


 特にシュルツと身体的に結ばれるための工程。目下の課題であるそれは、フラミスの持つ便利な道具やあれこれの世話になっていた。


 この世界において、転性の儀というのはそれほど珍しいものでもない。過程を成すための様々な道具が充実しており、それに頼るのは決して恥でも何でもないというのがフラミスの持論だ。


「苦痛は少しでも取り除かれた方が良いでしょう。ユウマ様の求めどおりの品を、誂えさせて頂きます」


 くるくると手渡された羊皮紙を巻くフラミスの手元を眺めながら、俺は口を開く。


「……ところでフラミスさん。これは別件での話になるんですが」

「私が力になれることであれば」

「貴方がアリエス陛下の、母方の叔父であると聞きました。陛下とは今でも親交が?」

「ええ。私はグロースの出でしたので、陛下のことは彼が赤子の頃からずっと存じ上げていました。今は実家との縁こそ切れましたが、アリエス陛下とは時折手紙のやりとりもしています」

 

 グロースは、アリエスの母方の生家であり、ゼルフィ王国屈指の大貴族の家柄だ。過去に何人もの王配を輩出しており、現に国王アリエスの母はフラミスの姉にあたるのだという。


「しかし何故そんな話を」

「以前アリエス陛下がこの国を訪れた際、たびたび貴方の名を口にしていたので」

「あの日は私も所用で、城を空けていましたからね。陛下にも悪いことをしました。あの方は畏れ多くも、私に親しみをもって接してくださりますから」

「帰り際、『叔父上によろしく』と言伝を預かりました。本当に仲が良いのですね」

「ええ……ところでユウマ様」


 フラミスの声色が、どこか平坦なものへと変わった。口元に浮かぶ穏やかな笑みはそのままに、しかしまとう空気が変わったのを肌で感じる。


「私の本分はあくまで『魔法』のみ。無為な腹の探り合いは、望むところではありません」

「……」

「単刀直入に、貴方が私に求めるものをおっしゃってください。魔法に関することなら何なりと。しかしもし、私の人脈や血縁をあてにしているのあれば話はこれまでです」


 温厚なフラミスにしては珍しく、きっぱりとした物言いだった。

 自分の話の運び方も不味かったのだろうが。それ以上になにか、彼の中での地雷を踏んでしまったのだと理解し、居住いを正す。


「……フラミス様、非礼を詫びさせてください。貴方にはこれまで大層世話になっている身にも関わらず、厚かましい真似をして申し訳ございません。おっしゃるよう俺はフラミス様の宮廷魔法使いとしての人望と、その背後にあるゼルフィ王国の威光を借り、国内の貴族にとりなしてもらうことを望んでいました」

「正直なのはよろしいことで……ええ、良いのですユウマ殿。あなたに限った話でなく、私に政治的な価値を求めて擦り寄る輩はごまんといる。もうすっかり慣れてますので……特段ユウマ様が気に病む必要はありませんよ」


 フラミスの声が柔らかくなる。彼はアリエスと同じ、宝石のような緑の瞳を細め、唇を開いた。


「ちなみにこれは、あなたの友人としてお聞きしたいのですが……ユウマ様は私に何をさせようと?」

「シュルツ様でなく弟のエクス王子を王位につけるため、貴族の方々への根回しをしてもらおうかと」

「ふふ。逆ならまだしも、自分が王とならないための根回しとはまたシュルツ様らしい」


 花がほころぶような笑みと共に、フラミスはシュルツの名を口にする。


「あ、いや。今回のことは俺一人の独断なので、シュルツ様は関係な……」

「でも彼の口から聞いたのでしょう? 愛する人の望みを叶えるための行動、私はとても好ましく思いますよ」


 愛する人のために。そう言われると背中がむず痒くなるような心地だが、まあ事実ではある。

 シュルツが王となることを望んでない以上、その手助けをしてやりたい。それが紛れもない自分の意志だった。


「友人として助言を。この国の貴族は今、第一王子派と第二王子派。そうして私のような中立派に三分されています。その勢力はおおよそ拮抗している。動かしやすいのは中立派、と思うやもしれませんが、あなたが今働きかけるべきは第二王子派です」

「……といいますと」

「我々貴族は義を重んじますが、それ以上に利害に敏感だ。中立派のほとんどは、第一王子派と第二王派子双方に血縁者が存在する。どちらかが王となった時、例えば第二王子の派閥が第一王子の派閥を害するような事態が予想されるなら、我々はシュルツ様を王に推すことでしょう」


 なるほど。要はその事態が予想出来てしまったため、先王亡き後の臣下の投票で、シュルツが王に選ばれた訳だと。まあ他にも理由はあるのだろうが。


「まあシュルツ様が王になれば、そういうことはなさそうですしね」

「ええ」

「……エクス様は、その。ありそうなんですか?」

「そういえばユウマ様はまだお会いしたことがありませんでしたか。マンティコア討伐の件が片付けば国に戻ると聞いていますが……」


 フラミスは一拍おいて、言葉を紡いだ。


「エクス様は勇猛果敢で決断力のあるお方だ。しかしそれ故、弱きものの心を解さぬところがある。何より彼は、実の兄であるシュルツ様すらも軽んじている。彼がそのまま王となった場合、第一王子派の貴族らの未来は暗いものとなるでしょう」

 


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