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11.めっちゃ傷ついた


 

 ヴァリエ王国とゼルフィ王国の親交は深い。特に前王時代のそれは蜜月といっても過言でなく、両家の長子の婚姻により、連合王国を築こうという話が出ていたほどだ。


 だが結局その話は頓挫し、アリエスは国内から二度夫を迎えて子を成し、シュルツは異世界召喚により俺を呼び出し、今に至る。


「ユウマ……私が悪かった」


 頼むから出てきてくれと。弱り果てたシュルツの声が、被ったシーツ越しに聞こえてくる。


 あの後アリエスは満更でも無さそうな顔で、しかし一旦シュルツの話は保留にさせてもらうと、翌朝ゼルフィに帰っていった。


 異世界人の血には価値がある。稀有な「天」の属性を持つ他、魔物を倒す為の優れた資質を秘めているからだ。


 その血を家に取り込もうと目論む勢力は数知れず、ゆえにヴァリエ王国では異世界人との子が生まれた場合、その子を自国の人間と番わせる。例外でゼルフィへの輿入れもあったそうだが、ごく少例だ。


「国王の子は、跡継ぎや万が一の備えで他国には嫁がせづらい。異世界人の血を取り入れるなら、シュルツ様が一王族である方がアリエス様にとっても都合が良い」

「…………」

「合理的な提案だと思います。アリエス様もきっと、前向きに考えられることでしょう」

「……お前に何の相談もなく、勝手に動いて悪かった」


 全くもってその通りだ。


 自分や、生まれてもいない子供を交渉材料にしたことはまだ良い。


 シュルツは王族で、ゆえに彼自身の身は彼だけのものでなく、国のものだ。そうしてシュルツの伴侶となる時点で俺もまた同じ立場になる。そのことも理解はしていた。


 理解は、していたつもりだが。納得できているかというと話は別だ。結論は変わらなくても良い。せめて一言、シュルツの口から自分に話をして欲しかった。


 胸中に湧き上がる怒りと悲しみを、うまく処理できないままシーツを深く被る。そばで何かが身動ぐ音がした後、俺の肩に布越しから大きな手が触れる。


「なんの弁明にも、ならないかもしれないが」


 低く心地良い、シュルツの声がする。


「アリエスがお前を攫うと口にした時、ひどく気が動転したんだ。あの男なら本当にやりかねない。それに、ユウマも私を見限ってアリエスの元に行ってしまうかもと」

「……シュルツ様を置いて行く訳ないじゃないですか」

「そうだな、疑った私が悪かった。だがあの時の私は、アリエスにユウマを取られたくない一心で、気持ちだけが先走っていたんだ。子供を嫁がせるから、ユウマは私の元に留めて欲しいと。そう言えばアリエスは聞き分けると知っていた。彼は異世界の力に興味と野心を抱いているが、ユウマ本人にはさして執着をしていなかったから」

「良かったですねー……俺がシュルツ様みたいに若くも、カッコよくも、背が高くもなくて」

「そうむくれるな、ユウマは今のままが一番魅力的だ」


 我ながら現金なもので。こちらを口説くシュルツの言葉に、沈んでいた心が瞬く間に浮き上がっていくのを感じた。惚れた弱みとはまさにこのことだ。


「……俺に、出てきて欲しいですか?」

「ああ、お前のかわいい顔を見せておくれ」

「タダじゃ出てきませんよ。今回は俺も、本当に傷ついたので」


 口にして、改めて自分の本音を自覚する。

 聞き分けたようでいて、やはり嫌だったのだ。仕方ないこととはいえ、シュルツの口から俺や俺たちの子供を、まるでモノのように扱う言葉が出たことが。


「本当にすまなかった。私に出来る償いがあれば、何でもする」

「じゃあ俺のこと、抱いてください」

「っ、それは」

「何でもするって言いましたよね」


 俺の言葉に、シュルツはしばし沈黙を続ける。十数秒の後、自身の肩に置かれていた男の手が、すっと外れる感触を覚えた。


「…………準備がいる。少しの間待ってくれたら、お前の望みに応えよう」


 こころよいとは到底言えないシュルツの、だが確かに待ち望んでいた言葉にシーツを跳ね除けとび起きる。

 

 そんな俺の様子を見てシュルツはぎこちなく、しかしどこかホッとしたような表情を、その美しく精悍な顔に浮かべた。


 

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