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1. 何か聞いてた話と違う



 目が覚めた時には、薄暗い室内にいた。


 赤、青、緑、黄、白と五色の灯火に囲まれる中、倒れていた床の一面には白く発光する幾何学の模様。ひょっとして魔法陣か何かか? と思い周囲を見渡すと、そこにはいかにもファンタジー風の貴族衣装を纏った人間の姿。


 直感的にピンと来た。これはいわゆる異世界召喚モノというやつだと。


 異世界ファンタジー。昨今ではその世界の登場人物に生まれ変わるいわば「転生」系が主流と聞くが、自身が巻き込まれたのはきっと「召喚」系だろう。


 鏡は見ていないが、自身の服装や見た目が、現代の慣れ親しんだそれと変わらないことが分かった。こういう展開のお約束は決まっている。


 トラックに轢き飛ばされたり謎の神との交信を果たした記憶はないが、おそらくこの後、自身はチートスキル的なものを授かる。その力を元に、強大な魔王を倒す使命を果たすなり、優雅なスローライフを楽しむなり……。


「異世界の者、そなたの名はなんという」


 しまった。非現実的な状況につい現実逃避を……。

 気を取り直し、目の前の豪華な衣装を纏った中年男を前に、口を開く。


「金成勇真。ユウマです。すみませんが、ここは一体どこで、どういった状況なんでしょうか?」

「ユウマ殿……ああ、すまない。こちらとしても思ってもみない事態でな、私も少し混乱している」


 そう言って目の前の男は片手で顔を覆い、数秒後、意を決したようにこちらへと向き直る。


「よくぞこのヴァリエ王国に来てくださった、異世界の邦人ユウマよ。私はこの国の摂政をしておるハラルド・ローエンだ。貴殿の来訪を心より歓迎する」

「おお……ハイ」


 何だかよく分からないが、ハラルドという男の口ぶりから察するにここはやはり異世界で、彼は俺が別の世界から来たことを認識している。


「あの。俺は何か用があってこの世界に呼ばれたということで、合ってるんでしょうか……?」

「おお、ユウマ殿は話が早いな。左様、貴殿にはぜひこの国で最も重要な役割を担って貰いたい」


 段々と、見知ったような展開になってきた。困惑から一転、胸の内にわくわくとした期待が湧き上がる。ああ、一体どんなファンタジーが自身を待ち受けているのか。


 心踊る冒険、胸のすく爽快な展開。近年の異世界モノ作品は、気楽にノーストレスで楽しめるものが王道と聞く。さあこいチートスキル。一見ゴミスキルのように見えて、その実何だかんだで使い勝手の良いご都合チート能力こい。


「この国の王族はかつて、異世界の邦人と婚姻しその血の神秘を受け継いできた」


 チート……待った、なんだか話の成り行きが怪しい。


「今は昔の話だ。最後の召喚が成功したのは百年以上も前。しかしこの国の第一王子、シュルツ殿下の名と血を持って行われたこの度の儀で、ユウマ殿はこの世界へと呼ばれた」


 待って、聞き間違いじゃなければ今。


「カネナリ、ユウマ」


 部屋の奥から、低く重い声色と共にコツコツと靴音が鳴り響く。

 五色の灯りに照らされた薄暗い部屋の中、浮かび上がる男の姿は大きい。


 重く垂れ込めた灰色の髪。切れ長く鋭い青灰色の瞳。どこか陰鬱な雰囲気を帯びていて、しかしその面立ちは目が覚めるほどに美しかった。作り物のように整った顔が、じっとこちらを見下ろしている。


 ごくりと生唾を飲んだ。彼が一体何者なのか、言葉にせずともそのオーラで分かる。


「私はシュルツ・ヴァリエ・ローエン。この国の第一王子だ」

「ということは」

「これからお前を、私の伴侶として迎え入れる」

「……あの、ちょっと待ってもらって、いいですか」


 今度は自身が、顔を手で抑える番だった。あまりに想定外の出来事すぎる。いや謎世界に召喚されてる時点で想定もなにもないのだが。ひとまずこれだけは確認すべきだろう。


「……シュルツさんの性別は、男で間違いないでしょうか」

「ああ、そうだ」

「ですよねー……もし勘違いしてたら。いや、してる筈ないと思うんですけど」


 一拍置いて、口を開く。


「俺も男で、なんなら33歳のオジサンなんですが」

「この世界の婚姻には性別も年齢も関係ない」

「……は、ハハハそうかぁー……マジかぁー……」


 もはや笑うしかなかった。

 

 金成勇真。33歳独身。いきなり召喚された謎の異世界で、どうやらこのデカくて顔が良い第一王子の伴侶にされるそうだ。



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