第二章 影の正体
王宮は騒然とした。
アメリが狙われているという事実。
そしてそれを守っていたのが、誰もが「悪女」と呼ぶミレーユだったという真実。
しかし、誰もが信じられないまま数日が過ぎる。
その夜、私は図書館の奥深くに足を踏み入れた。
ここは禁書区画。
一般人の立ち入りは禁止されている。
「……来ましたね、ミレーユ・エリューズ・シャリエール」
闇の中から声が響いた。
現れたのは黒いローブをまとった老人。
魔導院の長、グレイム・ザ・アーク。
「あなたはなぜ《影呪》の存在を知っている? なぜアメリが狙われているとわかった?」
「簡単です。前世でそれが起きたから。前世ではアメリは暗殺され国は混乱。反乱軍が蜂起し、マクシミリアン王子は悲しみに暮れて独裁者となり国は滅びました。そして私は──その責任をなすりつけられ、処刑されました」
「……そんなことが?」
「はい。でも今回は違います。私は記憶を持って生まれ変わりました。そして気づいた。アメリが狙われているのは、彼女の血に秘められた力のためだと」
「《星詠の血》……か」
グレイムが納得したようにうなずく。
「アメリの祖先は古代の星の巫女。その血には世界の均衡を保つ力がある。だがそれを使うには、魂の代償が必要。だから、誰かがその力を奪おうとしている」
「そして、その誰かは──王宮の内部にいます」
私はグレイムの目を見据えた。
「あなたも気づいていますよね? 宰相ルイガンが影の魔術師の首謀者だと」
「……証拠は?」
「三日前、ルイガンの屋敷の地下で《影の祭壇》が発見されました。でも、その報告書は王宮に届いていません。なぜなら、あなたの部下がそれを隠したから」
「……!」
「あなたはルイガンの手先ですか? それとも、何か別の目的で動いているのですか?」
グレイムは長い沈黙の後、静かに言う。
「私は……過去の罪を償おうとしている。かつて私はルイガンと共に《星詠の血》を奪おうとした。だが失敗し、一族は滅びた。アメリはその生き残りの末裔だ」
「……だから今度は守ろうとしている?」
「ああ。だがルイガンはすでに王太子の側近に《影の契約》を結ばせている。マクシミリアン王子も操られている」
私は拳を握った。
「……ならば私は、すべてを壊す。悪役令嬢として、すべての罠を暴き味方を救う」