7話
有心は自分の部屋で目を覚ました。まだ月は空高く煌々と辺りを照らしている。ベッド脇に置いていた時計を見ると、時刻は午前二時を指していた。
「喉が、乾いたな」
有心はベッドから立ち上がり、フラフラとしながら台所へ向かった。
レイの部屋は有心の部屋の隣だ。空き部屋だったのをレイのために急いで片付けたのを思い出し、有心は優しく微笑む。というか、はにかむ。
部屋を出るついでにレイが寝れているか確認しようと思い、有心はレイの部屋のドアノブに手をかけた。
ドアを開けると、そこには誰もいなかった。
「え、レイ・・・?」
窓は開いたまま、有心を優しく撫でる風だけが、吹いていた。
「任務を与えても、いいんだね?」
ボスは零に確認をする。
「はい、ボスの望むままに」
零は頬を染め、とろんとした顔をする。
「じゃあ、追って連絡するよ」
「ありがとうございます。それでは、私は失礼しますね。そろそろ”先生”が気づいてしまいそうなので」
零はぺこりとお辞儀をして、窓から飛び降りた。
すると。闇の異能力で作り出した板に乗り、ひらひらと手を振っている。
「じゃあね」
「はい」
すぅっと零は上昇し、有心の家へと向かった。
そしてニコニコしていた零は、すぅっと表情を消した。
「全く、感情というのは理解できない」
レイよりも冷徹な声が、レイと同じ口から発せられた。
闇の板の上に正座をしながら、零は独白を続ける。
「ボスも、感情がないように振る舞っているけれど、本当は私に感情を持ってほしいと思っている」
月を仰ぎ、ふっと目を細める。
「結局、ボスも人の子」
零は後ろを振り返り、組織のビルを見た。
「だから私は演じる。私は私を演じる」
月に照らされ、零の白髪は輝いた。
「ボスにだけ心を許しているかのように、ボスの思い描く私に演る」
有心の部屋に着いた零は大きく深呼吸する。
「おやすみ、私」
そう言うと、零は目を閉じた。
目を開けたとき、少しだけ感情を見つけたレイが、そこにはいた。
「あれ?ここは・・・?ワタシ、なんで外に」
すると家から、ドンドンドンと誰かが走るような音が近づいてくると、勢いよく目の前のドアが開いた。
「レイ!!」
「うわお・・・先生」
「なんで勝手に外出た!?危ないだろ!?」
「ワタシだって、外出た理由は覚えてないよ。目を覚ましたら、ここにいたの」
レイは必死に説明をする。
「そっか・・・。何をしていたのか、なんとなく想像はつく?」
「うん、ついてる。でも、教えない」
確固たる物言いに、有心はうろたえた。
「なんで、教えてくれても・・・。もしかしたら、人の心を知る第一歩に繋がるかもしれないじゃん」
必死な有心を見て、レイは驚きに満ちた。
「教えたくないことだって、ワタシにもある。それに、今日思ったんだけど・・・ワタシは誰かに影響されて、人の心を知れるんじゃないかな。だから、ワタシは自分のことを話すんじゃなくて、誰かの話を聞かなきゃいけないと思うの」
レイはなんとか有心を説得するために熱弁する。零にはない、理解していない感情を、己の考えを語る。
「分かったよ、話したくなったら話してくれる?」
「・・・うん」