5話
「どうだい?このところの零くんは?あぁいや、違ったね。零ではなく、レイくんだったな。今の彼女は」
有心やレイが所属している組織のボスは、有心を呼び出しそう聞いた。
「どうと言われましても・・・。なんというか、何もしていないといいますか」
「何もしていない?」
ボスは怪訝そうな顔をした。
「はい。強いて言うなら・・・適当に異能力を操っているぐらいで」
有心の言っていることは、本当であった。
有心の家に来てから1ヶ月が経過し、レイは暇さえあれば左手に異能力で作った闇を出し、まるでペン回しのように操ったあと、意味もなく闇を消す、を繰り返している。
「まぁ、それは彼女の本能みたいなものだから、気にしないで」
「本能、なんですか?」
「ああ。異能力は先天性のものと、後天性のものがあるけれど彼女の闇の異能力は先天性なんだ。そして彼女は先天性ゆえに、物心がつく前から闇を作り出しては、いたずらに変形させたり消したりを繰り返していてね。過去を失った今でも、それは変わらないことなんだろう」
ボスの話を聞いて、有心は思わず質問をした。
「物心つく前のレイを・・・零を知っているんですか?」
「ああ」
あっさりとした口調のボスに拍子抜けしながら、有心は言った。
「え?それって、どういう・・・?」
有心の頭の中には、レイがボスの子供であるかも知れないという可能性が出てきた。
「あぁいや、違うよ。レイくんはボクの子供じゃない」
有心の考えに気づいたのか、聞き慣れている質問なのか、ボスは口元だけ笑いながら答えた。
「レイくんはね、知人の子供で預かってほしいと頼まれたんだ」
すっと目元を細めながら話すボスに、有心は今日の目的を思い出した。
「あ、ボス」
ボスと話していると、毎回目的を忘れてしまうのが困ることだと有心は常々思う。
「ん?なんだい?あぁ、もしかしてレイくんのことに関して話があるのかな?」
そんな有心を見透かしたのか、ボスは朗らかに笑う。
「そうなんです。レイが過去を取り戻すまで、レイに任務を与えるのはやめていただけませんか?」
この前、レイと話していたときのことレイが思い出したように言ったのだ。
「もしかしたら、ボスはワタシに任務を与えてくるかも」
その台詞に有心はヒヤヒヤし、急いでボスのところへ行ったのだ。
「あぁそういうことか。ボクは別にいいんだけれどね?彼女は、なんというかな」
「彼女?」
「ああ」
そう言ってボスは有心の後ろを見た。
「どうしたい?レイくん」
ボスの視線につられるように、有心が後ろを向くといつの間にかレイがいた。
「え、レイ・・・」
「やっほー、先生」
すごく棒読みで挨拶をしたレイに有心は苦笑いをした。
棒読みで挨拶をやる意味があるのか分からないところだが、挨拶をしてくれたことに喜ぶべきか、と有心は感情をシフトチェンジした。
「ワタシに任務を与えるか与えないかは先生とボスに任せるよ。ワタシはどっちでもいい」
レイは真顔でそう答える。
「ボクは、任務を与えたいところだけれど・・・専門家はどう思うのかな?」
そう言いながら、ボスは有心を見た。専門家というのは、きっと有心のことを指しているのだろう。
「僕は、レイに任務を与えないでほしいです」
ボスがすぅっと目を細めた。