53話
零の見せた映像は終わった。
「ごめん」
零が菊のもとに近づき、謝った。
「菊が、怖がるのは分かってたんだけど・・・見せないと話が進まなかったから」
「大、丈夫。もう、科学者は・・・いない、から」
カタカタと震えながら、菊は強引に口角を上げる。
「零が・・・殺して、くれたから、平気」
「・・・うん。・・・ごめん」
「謝ら、ない・・・で?」
零は無言で菊の頭を撫でた。菊の震えは次第に止まっていき、零は安心したように手を離し有心を見た。
「あの科学者は、私や菊に異能力を目覚めさせるように実験したやつ。かなり前に・・・レイが話してなかった?」
「あぁ、話してたね」
零は菊の手を握り、息を吐く。そして、陽一を見据える。
「その簪・・・まだ入ってるんでしょ?瑞花が」
「もちろんだよ」
陽一が微笑む。愛おしそうに簪を指先で撫でると、優しく口づけを落とした。
「どうして?」
零が問う。
ゆっくりと、端的に。
瑞花の幸せを奪った元凶は、こぼれが生まれた元凶は、零が苦しめられた元凶は、さも当然のように答える。
「瑞花ちゃんは僕のモノだから」
有心が目を見開いた。昔から、何かが欠落している男だと心の何処かで感じていた。それでも、その欠落を上回る彼の優しさが、有心の疑惑を封じ込めていた。しかし、疑惑はここで開け放たれた。疑惑はものの数秒で確信へと変わり、そして恐怖に染まる。得体のしれないものへの畏怖にも似た恐怖に。
「でもね・・・この瑞花ちゃん、完璧じゃないんだよ」
陽一は簪を留め直し、零に聞く。
「人の精神を物に移すと、フツーは僕の脳内に語りかけてくれる。僕にしか聞こえない声、僕だけに届く声。それが欲しくてわざわざ物に移したのに、瑞花ちゃん・・・うんともすんとも言わない。こんなの不完全だったからに他ならないよね?」
有心は納得した。陽一は零に聞いていた。瑞花はどこにいったのだ、と。でも零の見せてくれた記憶によると、瑞花は陽一の簪に移されている。そこの不和を有心は疑問に思っていたのだ。
陽一の疑問に、零は鼻で笑う。そして壊れたかのように笑い出した。
「ハハハハハハハハハハっ!ばっかじゃない?」
今まで見たことのない零の姿。
感情の制御をやめた零の姿。
どこか、強がっているとも感じ取れる零の姿。
有心はそんな零の姿に、見惚れた。
「瑞花の意思で話してないの。あんたのことが嫌いだからっ!」
「零、お、落ち着いて」
菊が零を制御する。
「なん、だと・・・?」
陽一が簪に触れる。
「瑞花ちゃん、本当なの?僕のことが嫌いだから、話しかけてくれないの?ねぇ、瑞花ちゃん!8年・・・8年間も、声を出さないでいたの?ほんとに・・・?」
陽一が崩れ落ちる。簪は陽一の手から滑り落ちた。
陽一にだけ聞こえるという声は、陽一の状態を見る限り、何も話していないようだ。
滑り落ちた簪を零が拾う。そして穏やかな微笑みを見せた。
その微笑みに有心の心は、跳ね上がる。
「瑞花姉さん、はじめまして。あなたに会えて、嬉しいです。私やこぼれ姉さんは体験してないのに、ずっと脳内にあった瑞花姉さんの想い・・・ようやく達成できましたよ」
零は一筋の涙を零した。
「手元に瑞花姉さんが来るまで、姉と呼べないでいました。でも、触れることができて直感しました。あなたは、私たちの姉です。話せなくても、声が聞こえなくても、分かります。瑞花姉さんの感情」
瑞々しい花からこぼれ落ち、零となり、絶対レイ度になった少女たちは、ようやく再会を果たした。




