52話
「続きを見よう」
陽一から目を逸らし、低い声で零は続ける。
「ね、ねぇ・・・零」
有心が声をかけた。今の零には、どこか怒りが垣間見えたのだ。
冷ややかな目、真一文字に結ばれた口。
それは、いつもの零と何も変わらないー
ーように見えるだけ。
わずかながらに寄せられた眉、ほんの少しだけ強張った頬は怒りを表している。
何に怒っているのか。
零は陽一が瑞花を殺したと言った。確かに陽一は零を見て「3人」と言った。3人、入っていると。
その3人とは、零、レイ、こぼれだろう。
陽一は零たちの体の中から瑞花を追い出した、それとも消したのか。
有心は思考を巡らす。
「次は、少し飛んで瑞花が死んだ時の記憶を見せるね」
◆◆◆
「・・・瑞花ちゃん」
左に目を向けると険しそうな顔をした陽一がいた。
さっき見た過去から時間が進んだからか、陽一の髪は腰辺りまで伸びており、甘い顔のせいもあって、女の子のようにも見えた。
「なぁに?陽一」
「・・・僕、やっぱり耐えられない」
「え?」
視線が合う。
絡みつくような、それでいて怪訝そうな陽一の瞳。
「耐えられないんだ。瑞花ちゃんが僕以外の人間を見ているのも、僕の意思とは無関係に動くのも・・・」
「陽一、どういうこと?」
瑞花が震えた声で聞く。
「瑞花ちゃんを僕のモノにしようってこと」
天井が、見えた。
瑞花の困惑した声が聞こえる。言葉にならない声。
次いで陽一が見えた。恍惚とした瞳は、瑞花を捉えている。
「よっ、よ、ようい、ち」
呼吸が荒くなっていく。
「瑞花ちゃん」
陽一が手を伸ばす。
瑞花が暴れ出した。なんとか逃れようともがく。しかし、陽一に手を押さえられてしまったのか動けなかった。
「無駄だよ、瑞花ちゃん」
「い、いやっ!離して!」
「やだよ、瑞花ちゃん」
陽一は手を瑞花の胸元にかざした。何かを掴むように捻ると、勢いよく引きずる。
「っ!」
瑞花の声にならない悲鳴が聞こえた後、視界が真っ暗になった。
◇◇◇
「おはよう」
陽一は1つの簪を握りながら、そう声をかける。
「お、は・・・よう?」
「はじめまして、こぼれちゃん」
陽一がニコッと瑞花にーこぼれに向かって言った。
「僕は望月陽一。君の名前はこぼれ」
「こ、ぼれ?」
「そう。記憶がなくて混乱してると思うけど、僕は君の味方だよ。安心して」
「うん」
陽一が簪を髪につけた。
「よういち、さん・・・女の人?」
「違うよ、僕は男。この簪が完璧な状態になってから付けたかったから、頑張って髪を伸ばしてたんだ」
「そう、なんだ」
「いい?こぼれちゃんは、現在10歳。つい1週間前に両親が死んじゃった。僕はそこから君を助けた。僕が見つけたとき、君は意識を失ってて、さっき目覚めた。でも、事件のショックでこぼれちゃんは記憶喪失になった。ここまではオッケー?」
「うん」
「で、僕はこぼれちゃんとは一緒にはいられない」
「なんで?」
「僕のお仕事がとても危険だからだよ。だから、こぼれちゃんを引き取ってくれる人を探したんだ」
陽一の言葉に合わせたかのように、誰かが店に入ってきた。
科学者のような見た目をした男だった。
「・・・陽一さん、あの人誰?なん、か・・・怖い」
「大丈夫だよ、こぼれちゃん」
陽一が優しく呟く。
「だから、ほら、いっておいで」
「い、や・・・だ。危険、でもいいから、陽一さんとー」
「それは駄目だ」
低く威圧する声で陽一言う。
「え・・・」
「早く行きなさい。そして僕のことは忘れなさい」
陽一がこぼれのことを睨みつける。こぼれは、言われたとおりに科学者のもとへ行った。
そこが地獄とも知らずに。




