51話
陽一さんの見た目を書いていなかったことを思い出したので、ここに書いておきます。陽一さんは後ろの髪だけ長いです。そしてその長い髪を簪で留めています。服装はチャイナ服です。
「え!?」
有心が大きく声を上げる。それを見て、陽一は照れたような笑みを浮かべた。
「実は、僕の名前は瑞花ちゃんに付けてもらったんだ」
陽一は照れたように零を見る。
「ありがとね、本当に。名前ができたおかげで僕は、安心感っていうか・・・僕の輪郭がより鮮明になった気分がしたんだ。例えるなら、そう、僕というイラストにペン入れをしてもらった気分」
「私は何もしてない。やったのは瑞花」
零はプイッとそっぽを向いた。しかし、感情があると分かった今はその行動は照れ隠しにも取れる。
「そうだね」
朗らかに笑う陽一。だが、朗らかに笑っている時ほど陽一は信用ならない。
「だからー」
「瑞花ちゃんはどこ?」
髪の結び目に留められた簪を引き抜き、陽一は流れるように零の首元に簪を突きつけた。
「っ!」
あまりの速さに零は対応できなかった。
「僕はね、零ちゃんも、君の中にいる他の人格も興味ない」
低く、響く声。
しかし、陽一はどんなに低い声を出しても表情は笑っている。声と表情の乖離に有心と菊は人知れずゾッとした。
零は生唾を飲み込み、陽一を見据える。
「私たちの過去はまだ終わってない。ちゃんと全部見てから言ってくれる?」
そして零は簪を人差し指で指差し言う。
「そして私を殺したら瑞花がどこに行ったか一生知らないままだよ?」
冬の氷のような視線と冬の日差しのような視線が絡み合う。
先に視線を外したのは陽一だった。簪で自分の髪を結い直し、ニコッと笑った。そう、夏の日差しのように。
「じゃあさっさと教えてくれない?僕が君に近づいたのは瑞花ちゃんの情報を得るためなんだから」
「教えてあげる代わりに、私の要求にも応えてくれる?」
「いいよ」
零は陽一を見据えて言う。
「・・・瑞花に恋してるの?」
陽一を軽く首を振る。
「恋なんて軽いものじゃないよ。これはね、狂愛」
細められた瞳の奥は蕩け、とろっとした甘さが漂っている。
名付けられるとこうなってしまうのか。
有心は見たことのない陽一の姿に戸惑った。
「恋はさ、浅はかな人間のする行為でしょ?でもね、愛は違う。愛は・・・もっと、もっと高尚なものなんだ。なんていうのかなぁ、生まれた瞬間から出会うことが、愛し合うことが決まっていたんだ。こういうのを浅はかな人間どもは『運命の赤い糸』って言うんだっけ?でもね、僕と瑞花ちゃんは『運命の赤い糸』なんて浅はかな人間が思いつくようなもので結ばれているんじゃない。もっと、深いところで繋がってるんだよ」
「気持ち悪っ」
吐き捨てられた言葉に場は一瞬にして固まった。言葉の主は零だ。
「お前みたいなのに愛されて瑞花も可哀想」
蔑んだ目で零は陽一を見続ける。
「てか、あんたが瑞花を殺したんでしょ?」
「は?」
その陽一の声は深く、浅く、聞こえた。




