50話
「俺に名前はない。適当にお兄さんとでも呼んでくれ」
「分かった、おじさん」
「おい!!」
そうツッコむおじさんを笑う瑞花の声が聞こえた。
「ったくよ〜、おじさんだって小さい子にぐらい見栄張りたいんだよ」
おじさんは、本当に困っているようには見えなかった。
◇◇◇
「瑞花ちゃん」
「なに?」
「瑞花ちゃんって異能力、あるの?」
「さぁ??」
意味ありげな答えをする瑞花に男の子は困り果てたような顔をした。
「え、どういうこと」
男の子との会話は続いていく。初対面のころより男の子の表情が増えたような気がする。
「ねぇ名前はなんていうの?」
ふと瑞花がそう聞いた。
男の子はさっと表情を曇らせ悲しげに笑った。
「名前は・・・」
「名前は?」
「ないんだ」
「ないってどういうこと?」
「僕には、名乗れるような名前はない」
暗そうな表情の男の子。瑞花は思い切って言った。
「私が名付けてあげる。フルネームで」
そう言うと、男の子は太陽のように笑った。
◇◇◇
場面はまた切り替わる。今度は誕生日会のようだった。バーの机に置かれたショートケーキ。男の子を見ると『本日の主役』と書かれたタスキをかけていた。どうやら、今日は男の子の誕生日のようだ。
「ねぇ」
瑞花が声をかけた。
「なに?」
本日の主役はケーキを食べながら瑞花を見た。近くからはおじさんがお酒を飲んでいる音がする。
「おめでとう、11歳の誕生日」
瑞花が言うと、男の子は笑った。
「ありがとう!瑞花ちゃん」
男の子はフォークを置くと瑞花の目を真正面から覗き込んできた。
「誕生日プレゼント、ないの?」
「え?」
「僕、生まれてから一度も誕生日プレゼントを貰ったことないんだ。・・・瑞花ちゃんに初めて会った日、瑞花ちゃんの誕生日会やってたんでしょ?」
「うん」
「羨ましかった。ケーキは毎年食べてるけど、プレゼントは貰ったことなくて。この家の子はプレゼント貰ったのかなって思うと、すごく・・・・・・イライラした」
「・・・ごめん」
「だから、ひどい殺し方しちゃったけど」
「気にしてない」
「でもね、僕・・・我に返ったあと後悔したんだ。僕はこの家の子の家族を綺麗な状態で残しておくことができなかった。それは、ひどい大罪だって。だから朝になったら通報してもらおうと思ってたのに、気づいたら」
一呼吸置いて、男の子は言う。
「一緒に逃げてた」
無邪気な子供の笑み。ふと、瑞花は指先を見る。すると少しだけ震えていた。
後ろから足音が聞こえ、視界をふさがれた。
「え、おじさん?」
瑞花が声をかける。
「こいつの無邪気な笑顔に心を病む必要はねぇぞ」
「私、大丈夫だよ?あの日から、まだ2カ月しか経ってないけど・・・私、後悔してない。二人に会えて良かったって思ってる」
「そうか?」
「だから、手を離して」
「・・・・・・おう」
開かれた視界。瑞花は無邪気な子供の笑みを浮かべる男の子を見据えた。
「私なりに誕生日プレゼント用意したんだけど」
そう声をかけると嬉しそうに男の子は笑った。
「え、いいの!?」
「もちろん」
表情は見えないが、きっと優しさに溢れた笑顔を瑞花は浮かべていることだろう。
「名前をプレゼントさせていただきます」
かしこまった口調で述べられた言葉に男の子は喜んだ。
「おじさん、紙とペンある?」
瑞花が聞くとおじさんはカウンターから紙とペンを出した。
「あるぜ」
「ありがと」
その紙に瑞花はせっせと文字を書いていく。まだ7歳である瑞花の字はお世辞にも綺麗とは言えないが、一生懸命なことは伝わってきた。
「じゃじゃーん!」
掛け声とともに紙を男の子に見せた瑞花は、名前を読み上げる。
「望月陽一!!」




