48話
「っ!」
零がハッとする。
「ごめん」
俯いた零の口から出た言葉は、謝罪だった。
「ね、ねぇ零」
意を決したように菊が零に問いかける。
「・・・何?」
「蓋をしなくて良いと思う。少なくとも、私たちの前では」
「え?」
有心が首を傾げた。
菊がおずおずと言葉の真意を教える。
「零は感情がないふりをしている」
ハッキリとそう言い切った菊に零は声を荒げた。
「菊!」
「なに?」
零を見つめる菊の目は芯が通っていた。
動揺した零はうつむき、唇を噛みしめる。
「そんなような気はしていたよ」
有心が言う。ハッと顔を上げた零。
「だって、いつも・・・零は辛そうだった。誰に見られているかを意識して、人によって態度を変えて・・・」
「悪い?」
零は聞く。首を振る有心。
「悪くない。でも、その姿がどこか痛々しくて。自分を守ろうとして守りきれてないっていうか・・・自分よりも他人を優先しているようで」
「違う。私は自分本位で行動してる」
「そんなことない」
「違う」
「じゃあどうして菊といつまでも一緒にいるの?」
「そ、れは菊の異能力は優秀だから」
「でも菊は決して明るい性格じゃない。しかも話すのも苦手だ。菊には申し訳ないけど、感情のない零からしたら明らかに切り捨てるべき存在だよね?」
「・・・」
「組織からやめないのはなんで?」
「生きていくのに必要だから」
「零ほど強いなら組織から抜けることも可能じゃない?」
「無理」
「当ててあげるよ。どうして抜けないのか。自分の体が自分のだけものじゃないからでしょ?自分が傷つくのはいいけど、こぼれが傷つくのが嫌だからでしょ?」
「違う!!」
「感情がないなら、どうしてそんなに声を荒げるの?」
「っ!」
有心は優しく問いかける。有心の持つ慈愛に満ちた瞳に慣れない零は何も言えない。疑問に満ちた目で有心を見つめ返す。
「つらかったでしょ?」
優しい声色、眼差しから零は目を逸らした。
「つらくない」
低く、覚悟を決めた声。
その声に菊は落胆する。有心でも零の心の壁を越えることはできなかったか、と。
「僕の目を見て言って」
でもー
でも、有心は諦めなかった。
零が顔を上げ有心の目を見て口を開く。
「あ、あ・・・」
声帯を頑張って動かしても言いたい言葉は出ない。
「つ、つら、く」
浅い呼吸を繰り返し、なんとか零は言おうとする。しかし舌が動かない。
演じろ、演じて自分の身を守れ。
信じるな、信じずに自分の身を守れ。
そう零の上辺の心が警鐘を鳴らしても、零の本心は、奥底に沈む心は上っ面な自分の心を拒んだ。
「つら、かった、つらい、有心・・・!」
涙を流しながら有心の目を見て言った零を、有心はそっと抱きしめた。




