3話
「殺した?」
有心の疑問にレイは頷いた。
「うん。目を覚ましたら、目の前で倒れてた」
仕方ない。話してあげる。ワタシが精神系の異能力者を殺したときのこと。
精神系の異能力者、ここでは仮にAさんとしておく。
ここからはワタシの推測。
Aさんとワタシはきっと戦っていたんだ。その時、ワタシはAさんに致命傷を負わせた。Aさんは死にそうになりながらも、ワタシに異能をかけた。Aさんにとって一番強いやつだったんじゃないかな。その分、自分への負担も強かったんだろうけど、もうAさんは死にかけだったしそこらへんは問題じゃなかった。ワタシは殺し屋として強かったのか知らないけど、どんな殺し屋も精神系の異能力には弱い。Aさんの思惑通りワタシも倒れた。
そこからは覚えている。
目を覚ましたら、目の前でAさんが倒れていてワタシに言った。
『どうだ?記憶を失った気分は?過去を取り戻したければ、人の心を知れ。ハハ、俺があの殺し屋零に一泡吹かせられた。これで、俺が最強だ!』
そう言って、死んだ。いや、ワタシがとどめを刺した。なんか、気づいたらワタシの手に闇が握られてて、それで殺せばいいって本能で分かった。
「どう?なにかの参考になった?」
レイの語りが終わり、有心はメモを取っていた紙から視線を上げた。
視線を上げた先にいたレイは夕日の輝きを白髪で反射しており、とても神秘的で、有心は満足げに口角を上げた。
「うん。人の記憶にまで干渉できる異能力者はそう多くない。しかも、君に殺されているとなると、特定できるだろう」
有心はほぼ無意識に立ち上がり、レイに近づいた。先程まで浮かべていた警戒の色は瞳から消え失せ、少年のような好奇心が、有心にあった。
「ん?なに?」
有心は神秘的な白髪に触れ、まるで神にでも触れたような背徳感と興奮を噛み締めた。
「この白髪は、生まれつき?」
「知らない。過去を取り戻せたら、教えてあげる」
「じゃあ、なんとしてでも人の心を教えてあげなきゃだな」
「うん、よろしく」
「じゃあ、そろそろこの家の案内をしようかな」
「あれ?カウンセリングはやらないの?」
「今の君に必要なのはカウンセリングじゃない」
「じゃあ、何?」
「君が、人の心を知ることだ」
「人の心を知るのに、カウンセリングは必要じゃない、と?」
「ああ」
「なんで?」
「人の心を知るなら、君自身のことを聞くのではなく、君自身が感情を知っていこうとすればいいんだよ」
「受動的ではなく能動的ってこと?」
「そう」
「ふぅん」
興味なさげにも思える仕草だが、レイは視線を彷徨わせ一瞬だけ考え込んだあと、頷いた。多分、彼女の中で解釈できたのだろう。
「じゃあ、家を案内して」
「うん」
有心が一通り家を案内している間、レイはぼけーとしながら有心の説明を聞いていた。
ふと、洗面所を案内したときだった。
「ねぇ、髪長すぎるかな」
「え、そう?」
レイは自分の髪をいじりながら、有心に聞いた。
実際、レイの髪は腰辺りまで伸びており、邪魔そうだ。
「いっそのこと、ボブぐらいにしちゃってもいいかと思うんだけど」
「僕はそのままでいいと思うけどな」
有心の返答を聞きながら、レイは引き出しから髪切狭を取り出した。
「駄目だっ!!」