42話
「零っ!」
菊が叫び、誰よりも先に動き出す。肩に手を置き、優しく揺さぶる。
「あ・・・えっと・・・」
焦点のあった目で、零は菊を見つめる。震えも、何もかも消え、辺りを見回した零は有心に尋ねた。
「どうしたの?」
「零・・・」
菊が悲しげに呟く。
「菊?私、何かした?」
「何もしてない。ただ・・・過去を思い出してたから」
「私が?」
「うん」
「それは・・・その、ごめん」
「いいや?」
陽一が嬉しそうな目を零に向けた。
「僕の目に反応してくれて良かったよ」
「は?」
零は敵対心を露わにしながら、陽一を見た。
「僕の目に反応してくれるってことは、少なくとも心があるってことだ。同時に人に言い出したくない過去も・・・」
「それは、異能力なの?」
有心が聞く。
「そうだよ」
「じゃあ、陽一は異能力が二つあるの?」
有心がさらに聞く。
「違う」
あっさりと否定した陽一に有心は首をかしげる。
「あぁ、そうだ。ちゃんと説明しなきゃね。僕の異能力」
一度言葉を区切り、陽一は泣きそうな表情をした。その表情は、飄々としている普段の姿からかけ離れ、どこか年相応に感じさせた。
「僕の異能力は、人格を別の体に移動させることができる。そしてその、反動と言うか・・・応用と言うか・・・なんて言ったらいいのか、僕も分からないけど、人の目を見つめると、その人の心の奥深くに巣食う嫌な記憶を引っ張り出せるんだ」
◆◆◆
「今頃、零は何をしているかな」
執務室に座るボスは呟く。そして机の引き出しから手鏡を取り出し、三回鏡面を擦る。すると、鏡に零の様子が映し出された。
「この異能力って便利だけど、メルヘンだよねぇ」
「そうですね」
ボスの目の前には長い青髪の女性がいた。
「鏡を擦れば見たいものが見れる異能力の元の持ち主って、キミがボクの秘書になってから初めて殺した異能力者だよね?」
「そうだったと思います」
青髪の女性は青い瞳を持っている。その瞳は光が入っていない。
「流石の記憶力。全く、欲しいよ」
「ワタシの命は、ボスとともにあります。いつでも殺していただいて構いません」
「まだ、殺さない。キミは生きてる方が有能だからね。それに、ボクにキミの異能力を使いこなせるとは到底思えない」
ボスの物言いに青髪の女性は首をかしげる。
「できると思いますが」
「脳の処理が追いつかないよ。ボクはただでさえ、たくさんの異能力を操るのに・・・見たもの聞いたもの感じたものを全て覚えられる異能力なんて、脳がオーバーヒートしちゃう。しかもその異能力、自分の意思でオンオフ切り替えられないんでしょ?無理無理」
そう言いながら、ボスは鏡を見る。そこには、初めて会ったときよりも表情豊かな零がいた。
「菊もいるね」
「確か零と菊は同じ実験施設出身ですよね?」
「そう」
青髪の女性の目が光る。
「菊を逃がしたあと、零は実験施設の科学者を殺した。そして実験施設を出て町中を彷徨っている時にボスと出会った」
「よく覚えてるね」
「ボスが話してくださったことは、一言一句漏らさず覚えてます」
青髪の女性を満足そうに見ながら、ボスは続きを促す。
「続きも覚えてる?」
「もちろんです」
そう言い、青髪の女性は再度目を光らせながら答える。
「菊も零を組織に加入した3ヶ月後に見つかった。任務中だった零が菊を見つけ、保護し、ボスに打診して、組織に加入させた」
「うんうん、合ってるよ」
「でも、菊は厄介だな・・・」
「殺すのですか?」
「菊の異能力は魅力的だよね。それに菊という心の支えを失った零も気になる」
「菊の異能力を手に入れれば、ボスが過去に殺せなかった異能力者の異能力も手に入る・・・。素晴らしいことです」
「よし、どうにかして殺そう」




