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零の愛寵  作者: Lilly
44/57

42話

「零っ!」

 菊が叫び、誰よりも先に動き出す。肩に手を置き、優しく揺さぶる。

「あ・・・えっと・・・」

 焦点のあった目で、零は菊を見つめる。震えも、何もかも消え、辺りを見回した零は有心に尋ねた。

「どうしたの?」

「零・・・」

 菊が悲しげに呟く。

「菊?私、何かした?」

「何もしてない。ただ・・・過去を思い出してたから」

「私が?」

「うん」

「それは・・・その、ごめん」


「いいや?」

 陽一が嬉しそうな目を零に向けた。

「僕の目に反応してくれて良かったよ」

「は?」

 零は敵対心を露わにしながら、陽一を見た。

「僕の目に反応してくれるってことは、少なくとも心があるってことだ。同時に人に言い出したくない過去も・・・」

「それは、異能力なの?」

 有心が聞く。

「そうだよ」

「じゃあ、陽一は異能力が二つあるの?」

 有心がさらに聞く。

「違う」

 あっさりと否定した陽一に有心は首をかしげる。

「あぁ、そうだ。ちゃんと説明しなきゃね。僕の異能力」

 一度言葉を区切り、陽一は泣きそうな表情をした。その表情は、飄々としている普段の姿からかけ離れ、どこか年相応に感じさせた。


「僕の異能力は、人格を別の体に移動させることができる。そしてその、反動と言うか・・・応用と言うか・・・なんて言ったらいいのか、僕も分からないけど、人の目を見つめると、その人の心の奥深くに巣食う嫌な記憶を引っ張り出せるんだ」



◆◆◆



「今頃、零は何をしているかな」

 執務室に座るボスは呟く。そして机の引き出しから手鏡を取り出し、三回鏡面を擦る。すると、鏡に零の様子が映し出された。

「この異能力って便利だけど、メルヘンだよねぇ」

「そうですね」

 ボスの目の前には長い青髪の女性がいた。

「鏡を擦れば見たいものが見れる異能力の元の持ち主って、キミがボクの秘書になってから初めて殺した異能力者だよね?」

「そうだったと思います」

 青髪の女性は青い瞳を持っている。その瞳は光が入っていない。

「流石の記憶力。全く、欲しいよ」

「ワタシの命は、ボスとともにあります。いつでも殺していただいて構いません」

「まだ、殺さない。キミは生きてる方が有能だからね。それに、ボクにキミの異能力を使いこなせるとは到底思えない」

 ボスの物言いに青髪の女性は首をかしげる。

「できると思いますが」

「脳の処理が追いつかないよ。ボクはただでさえ、たくさんの異能力を操るのに・・・見たもの聞いたもの感じたものを全て覚えられる異能力なんて、脳がオーバーヒートしちゃう。しかもその異能力、自分の意思でオンオフ切り替えられないんでしょ?無理無理」

 そう言いながら、ボスは鏡を見る。そこには、初めて会ったときよりも表情豊かな零がいた。

「菊もいるね」

「確か零と菊は同じ実験施設出身ですよね?」

「そう」

 青髪の女性の目が光る。

「菊を逃がしたあと、零は実験施設の科学者を殺した。そして実験施設を出て町中を彷徨っている時にボスと出会った」

「よく覚えてるね」

「ボスが話してくださったことは、一言一句漏らさず覚えてます」

 青髪の女性を満足そうに見ながら、ボスは続きを促す。

「続きも覚えてる?」

「もちろんです」

 そう言い、青髪の女性は再度目を光らせながら答える。

「菊も零を組織に加入した3ヶ月後に見つかった。任務中だった零が菊を見つけ、保護し、ボスに打診して、組織に加入させた」

「うんうん、合ってるよ」

「でも、菊は厄介だな・・・」

「殺すのですか?」

「菊の異能力は魅力的だよね。それに菊という心の支えを失った零も気になる」

「菊の異能力を手に入れれば、ボスが過去に殺せなかった異能力者の異能力も手に入る・・・。素晴らしいことです」


「よし、どうにかして殺そう」

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