41話
「それだけはダメ」
怒りに染まった瞳で、零は陽一を見る。
「私の人格は何してもいい。でも、私以外の人格はダメ」
「分かってるよ」
陽一はおどけたように肩をすくめる。
「じゃあさ、零ちゃん」
「零ちゃん?」
零は陽一を睨みつける。
「うん、可愛いでしょ?」
「可愛さなんて求めてないけど・・・。それで?何」
「君の他の人格の名前と性格を教えてくれないかな」
「いいけど、でも見た方が早いんじゃない?」
「そんな簡単に入れ替われるの?」
「もちろん」
零の即答に陽一は顎に指を当て考えだす。
「でも、まずは零ちゃんの口から聞きたいな。その子が生まれたエピソードとか、零ちゃんの主観を交えて」
「主観、ねぇ・・・。主観を交えられるかどうか分からないけど、できる限り頑張る」
零の答えに陽一はニコッと笑い、菊と有心を見た。
「二人は出ていってくれないかな」
「え、どうして・・・」
有心は陽一に聞く。
「二人には聞かせられない話もあるんじゃない?」
陽一はニコッと笑い、零を見た。
「それに、僕たちだからこそ分かりあえるものもあると思うんだ」
「た、たとえば?」
菊が尋ねる。不安そうな表情をしながら。
「ん〜そうだね。僕と彼女たちは演じてるってところかな」
彼女"たち"。その一言は三つの人格のそれぞれを、まるで戸籍のある一人として扱っているように思えた。
零やレイ、そしてこぼれを的確に言い表した言葉に有心はドキッとした。僕なんかよりも、零たちのことを理解しているのではないか・・・と。
「演じる・・・ね」
零がボソリと呟く。
「演じてるつもりは、ないけどね」
「いいや、あるはずだよ」
貼り付けたかのような陽一の笑顔。その笑顔の先にある無感情に気づいてしまえば、もう後戻りはできない。心が釘で刺されたように動けなくなる。
陽一はふっと視線を零から外した。しかし、それは釘が引き抜かれただけで、心臓から血が、ドクドク出てくる。
ガシッと、零は陽一の腕を掴んだ。
「零ちゃん・・・?」
陽一が問いかける。
有心は目を剥いた。
菊は動けなくなった。
なぜなら、零の様子がいつもと違うから。
息は乱れ、手は震え、顔は苦しそうに歪められ、心臓は誰かに掴まれているかのように上手く動けず、肺は正常に呼吸することを忘れ、心は焦りと不安と憎しみと恐怖で支配され
零は昔の記憶に縛られていた。




