32話
拾われた私は、ボスの家に居候として住み始めた。当時の私はこぼれ姉さんの中に生まれて間もなく、右も左も分からなかった。
そんな私に、ボスは美味しいご飯に紅茶の味、食事の作法や表社会を生き抜くためのマナーに至るまで教えてくれた。
「僕は将来、君を駒みたいに扱うだろう。それは致し方のないことだと、諦めてくれたら嬉しいよ」
それが、ボスの口癖。
一緒にご飯を食べてるときも、異能力の使い方を教えてくれたときも、そう言っていた。
それに寂しさを覚えていたのは、もう遥か彼方昔の話。
それは、ある日いきなり始まった。
ボスが、言霊の力を使いこなせるようになろうと言った。
最初は思い通りに使える訓練を。
途中からは、私が言う言葉も強みを増して、いつの日からか【死ね】や【殺し合え】などという言葉になった。
そして、ある時ー
生きている人間に言うようになった。
嫌だと、私は抵抗した。でもボスは冷ややかな目で「殺れ」と告げた。
自分に害をなさない人を、どうして殺さないといけないのか。その時は、そんなふうにも思っていた。
泣きながら、言霊の力を使った。
ごめんなさい、ごめんなさいと。
嫌だと思いながら、申し訳ないと思いながら、殺したからか、異能力の反動は思ったよりも強く・・・私を蝕んだ。
体が重くなり、指を一本も動かせなくなり、訓練に行けなかった日。
ボスは私の部屋に入ってきて、鏡を見せてきた。
「訓練をしないなら、今ここで死ぬんだ。言霊の力を使って、自分を殺しなさい」
「私、もう人を殺したくありません」
そう言うと、ボスは部屋中を凍らせた。気道が凍ってくるのを感じ、吐く息は白くなり、助けてとボスに縋った。すると、ボスは二択を出してきた。
「じゃあ、ここで死ぬか、訓練で人を殺すか、どっちかをやりなさい」
私は、我が身可愛さに訓練で人を殺すことを決めた。
きっと・・・どこかで私も疲れたんだと思う。
でも、いつの日からか心が軽くなった。
それ以来、私が何かを思うことは・・・想うことはなくなった。
だけど、この出来事だけは夢に見る。
あの冷ややかなボスの目と、恨み言を言いながら死んでいく元同僚。
思い出すだけで、震えが止まらない。
思い出すだけで、感情が収まらない。
なら、殺せばいい。なら、現況をなくしてしまえばいい。
良い夢を見たい。あんな気持ちにもうなりたくない。
最初に提案したのは、こぼれ姉さんだった。そして、私はそれに賛同した。こぼれ姉さんの望むままに私は動く、と。
そして、彼女は・・・彼女たちは復讐を心に決めた。




