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零の愛寵  作者: Lilly
34/57

32話

 拾われた私は、ボスの家に居候として住み始めた。当時の私はこぼれ姉さんの中に生まれて間もなく、右も左も分からなかった。

 そんな私に、ボスは美味しいご飯に紅茶の味、食事の作法や表社会を生き抜くためのマナーに至るまで教えてくれた。


「僕は将来、君を駒みたいに扱うだろう。それは致し方のないことだと、諦めてくれたら嬉しいよ」


 それが、ボスの口癖。

 一緒にご飯を食べてるときも、異能力の使い方を教えてくれたときも、そう言っていた。

 それに寂しさを覚えていたのは、もう遥か彼方昔の話。


 それは、ある日いきなり始まった。


 ボスが、言霊の力を使いこなせるようになろうと言った。

 最初は思い通りに使える訓練を。

 途中からは、私が言う言葉も強みを増して、いつの日からか【死ね】や【殺し合え】などという言葉になった。

 そして、ある時ー


 生きている人間に言うようになった。


 嫌だと、私は抵抗した。でもボスは冷ややかな目で「殺れ」と告げた。

 自分に害をなさない人を、どうして殺さないといけないのか。その時は、そんなふうにも思っていた。

 泣きながら、言霊の力を使った。

 ごめんなさい、ごめんなさいと。

 嫌だと思いながら、申し訳ないと思いながら、殺したからか、異能力の反動は思ったよりも強く・・・私を蝕んだ。

 体が重くなり、指を一本も動かせなくなり、訓練に行けなかった日。

 ボスは私の部屋に入ってきて、鏡を見せてきた。


「訓練をしないなら、今ここで死ぬんだ。言霊の力を使って、自分を殺しなさい」


「私、もう人を殺したくありません」

 そう言うと、ボスは部屋中を凍らせた。気道が凍ってくるのを感じ、吐く息は白くなり、助けてとボスに縋った。すると、ボスは二択を出してきた。

「じゃあ、ここで死ぬか、訓練で人を殺すか、どっちかをやりなさい」

 私は、我が身可愛さに訓練で人を殺すことを決めた。

 きっと・・・どこかで私も疲れたんだと思う。

 でも、いつの日からか心が軽くなった。

 それ以来、私が何かを思うことは・・・想うことはなくなった。


 だけど、この出来事だけは夢に見る。

 あの冷ややかなボスの目と、恨み言を言いながら死んでいく元同僚。


 思い出すだけで、震えが止まらない。

 思い出すだけで、感情が収まらない。

 なら、殺せばいい。なら、現況をなくしてしまえばいい。

 良い夢を見たい。あんな気持ちにもうなりたくない。 


 最初に提案したのは、こぼれ姉さんだった。そして、私はそれに賛同した。こぼれ姉さんの望むままに私は動く、と。


 そして、彼女は・・・彼女たちは復讐を心に決めた。


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