31話
「それで・・・その・・・」
ボスの執務室から帰ってきた有心とこぼれ。しかし、有心の目の前にいるのは・・・。
「どうして零?」
「疲れたって言ってた」
「こぼれさんが?」
「うん」
家のキッチンに立ち、お湯を沸かしながら零は答える。
「う〜ん・・・ほら、異能力って使えば使うだけ、跳ね返ってくるでしょ。この相手を思い通りに操るー言霊の力は、強い言葉を言えば言うだけ負担が大きい」
茶葉を入れ、沸騰したお湯を入れる。すると、部屋に紅茶の匂いが充満し、有心は口角を上げた。
「だから、寝るって」
「次はいつ頃起きる?」
「明日とかじゃない?」
ミルクも砂糖も入れずに、ティーカップを持って零はソファに座る。
「そっか・・・。でも、ボス言ってた」
「何を?」
「ボスを倒せるのは、零だけだって」
紅茶を一口飲み、ふぅっと息を吐いて外を眺める。
「ま、こぼれ姉さんには言霊しか使えないからね」
零は紅茶に映る、自分の目を見る。
「言霊は目を逸らせば力が利かない。ボスはそのことに昔から気づいてた」
「ねぇ、零」
零の目を見るように座りなおした有心は疑問をぶつける。
「零は・・・ボスに、何されたの?」
「何も」
ティーカップをソーサーに戻し、零は目を瞑る。
「何も、されてない」
「じゃあ、なんでボスに復讐しようとするの?」
「こぼれ姉さんに聞いて」
「ねぇ零、こぼれさんはこの前ボスと初対面だったんだよ?なのに、こぼれさんがあそこまで怒るってことは、零が何かされたんでしょ?ボスに」
「何もされてない。こぼれ姉さんが勝手に怒ってるだけ」
「そんなはずない。ねぇ、教えてよ。零」
「何もない」
「ねぇ・・・零」
「だからっ!!!」
ここに来て初めて大声を出した零は肩を震わせながら、答える。
「何も知らない!何もされてない!私は!何も・・・」
息を切らしながら、零は感情のこもった目で有心を見る。
「何も、されてない」
それが、嘘だというのが有心には何故か分かった。
「嘘」
真実を知りたい有心は残酷に暴く。
「嘘だよ、零」
「違う」
「僕、知りたいんだよ。零が何をされたのか」
「私は・・・」
「零の感情、初めて見た」
有心は優しく語る。
「零も感情あるんだね。ないとか言ってたのに」
「・・・」
「零にそこまでさせたボスは、何をしたのかな」
「・・・」
「こぼれさんに聞けば、教えてくれる?」
「・・・」
「教え、ない」
絞り出した零の声は、十八歳に見合ってて。
「こぼれ、姉さんは、何も教えない」
「私、から、教える」
ポツリポツリと呟く零が、小さく見えて。
有心は、ギュッと零を抱きしめた。




