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零の愛寵  作者: Lilly
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1話

「そう、だから君にお願いしたいんだ。有心(ゆうしん)くん」

 有心と呼ばれた男は目の前にいる、白髪混じりの老齢な男を見た。

 鋭い眼光を兼ね備えた老齢な男は有心が働いている組織のボスだ。『お願い』と言っているが、その実は『命令』と言って差し支えないだろう。

「はい、お任せください」

 有心は恭しく頭を下げる。その頬は無意識に上がっていた。



 有心が勤める組織は、日の当たるような仕事はしていない。

 その組織は、殺し屋を集めた組織だ。初心者大歓迎と銘打っても間違いはないだろう。

 殺し屋希望の人間がこの組織の門戸を叩くことは、ままある。それだけ有心が住んでいるこの街は、組織のあるこの街は、危ういということだ。それだけ、危険なのだった。

 異能力者が蔓延るということは、そういうことなのだ。



『異能力』

 それは、一部の人間だけが持っている能力。

 それは、表の世界から一歩道を踏み外した世界にある能力。

 それは、裏の世界でのみ認識されている能力。

 それは、十人十色で異能力の数だけ種類のある能力。


 しかし、異能力は簡単に扱えるものではない。使いすぎれば身体に影響を及ぼす。


 精神系の異能力を持つ者、攻撃系の異能力を持つ者、治癒系の異能力を持つ者だっている。


 有心は治癒系の異能力を持っていた。それを買われて、この組織に入った。心理カウンセラーとして、また一介の医師として。





 

 有心は組織の居住棟にある一部屋に住んでいた。そして、組織のビルの一区画にカウンセラールームを持っている。

 いくら殺し屋を育成する組織とはいえ、殺しを繰り返せば心身に異常をきたす者が現れる。そんな人間のケアを担当するのが有心だ。

 今回任された仕事は、とある殺し屋の心のケア。というか、その殺し屋に『人の心』を教えること。

 どういう経緯かは知らないが、仕事中に相手の精神系の異能力にかかり、仕事続行不可能に陥ってしまった。きっと相手の異能力を解除するために人の心を知らないといけないということだろう。


 今日の午後、有心の家に来るらしいから、それまでに有心は準備を整えることにした。

 なにせ、一緒に住むのだ。共同生活だ。

 いや、そんな必要があるのかと問われれば、また別だが組織のボスが言うには、一刻も早く人の心を知らないといけないらしい。


 有心はウキウキ気分で、家具を揃えたり、小物類を揃えたり、部屋を掃除したりした。


ーピンポン


 無機質なインターホンの音がした。きっと、今日から一緒に住む殺し屋が来たのだろう。

 有心は人当たりの良さそうな笑顔を浮かべ、扉を開けた。


「いらっしゃい」

「本日よりお世話になります」

 扉を開けた先にいたのは、綺麗な白髪の少女だった。少し警戒していそうな表情をしながら、頑張って口角を上げている姿は、とても愛らしいものがある。


 有心は、彼女のことを知っている。否、この組織において知らないものはいないだろう。


 どんな仕事も必ず請け負い、必ず成功させる。史上最強の殺し屋。

 闇を扱う異能力を持ち、齢18ながらボスの右手として機能している。

 コードネームは(ゼロ)

 すべてを無に帰す、ゼロにすることから取られたコードネームだ。


 しかし、有心の記憶にある零は全く持って笑っていなかった。なのに、目の前にいる少女は少しながら口角を上げている。

 それが、有心は許せなかった。


「ようこそ、入って」

 有心は白髪の少女を招き入れた。

 少女は、はにかみながら、中へ入る。

「名前を、聞いてもいいかな」

 できるだけ緊張を解してあげるように意識しながら、有心は語りかける。

「レイとお呼びください。私は、なんと呼べば・・・?」

「なんでもいいよ」

 その言葉にレイは首を傾げながら、答えた。

「では、“先生”と呼ばせてください」


 もどかしさ。

 それがこの数時間で抱いた有心の感想だ。

 カウンセリングをすると言ってカウンセリング室に入ったはいいものの、レイは表面上のことしか答えていないからだ。

 何を聞いても、模範的な生徒の回答しか返ってこない。それが、非常にもどかしかった。

「では、次の質問。記憶を失った事件に心当たりは?」

「異能力で記憶を失ったということは伺っておりますが、自分では思い出せません」

 この調子で問答を繰り返しても、レイの本当の姿は見えない。

 そう思った有心は、レイの耳元へこう囁いた。

「それが嘘の姿ってことは、分かってるよ?」


「あれ?」


 レイは目をまんまるにしながら、首を傾げる。

 その瞳に、狂気的な光を覗かせながら。




「なんで、分かったんですか?」


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