22話
「ケーキは美味しい?」
有心は美味しそうにケーキを頬張っているレイに声をかける。
「うん!有心、ありがと!!」
最初に会ったときとは、比べ物にならないぐらい懐いてくれることに、有心は人知れず怒りを覚える。やっぱり、感情を教えないほうが良かったのではないか、ぐるぐる思考してしまう。
でも、幸せそうな彼女の姿を見ているとどこか怒りが霧散してくような気持ちにもなる。
そうやって、有心とレイは幸せな気持ちを噛み締めていると、レイがケーキを食べる手を止めた。
「どうした?お腹いっぱいになった?」
「呼ばれてる・・・」
レイはそう呟き、有心を虚な目で見つめた。
「零に、こぼれお姉ちゃんに、呼ばれてる・・・」
「こぼれお姉ちゃん?」
有心が首を傾げると同時に、レイが有心に倒れかかってきた。
「レイ?レイ!!」
ゆっくりと、レイが起き上がった。白い髪はどんどん黒く染まり、レイが切った髪は腰あたりまで伸びていく。そして、もったいぶるように開かれた双眸は赤くなっていた。
「え?」
「初めまして」
黒い少女は、その血のように鮮やかな赤い瞳を有心に向ける。
「こぼれと申します。短い間でしたが、レイの面倒を見てくださり、誠にありがとうございました」
嗤うように、歌うように、こぼれは有心を艶かしい瞳で見つめる。
「零も、お世話になったんですかね。全く、ありがたい限りです」
「あの、どういうこと・・・ですか?」
「この体は、もともとわたしのものなんです。それがとある組織のせいで、わたしは体の奥底に封印されてしまいまして、空っぽになってしまったんです。感情が全てなくなって、感情を溜める壺っていうんですかね。その壺が壊れてしまったんです。そんな時に零が生まれてしまいまして」
ニヤッと、口角を上げこぼれは有心の頬に触れる。
「零ができても、何とも思えなかったんですが・・・零は人の心をどんどん知っていったんです。零は新しく壺を作り出して、人の心を知れるような子に育って・・・。その時、わたしの中の何かが溜まっていくような、満たされていくような感覚がしたんです」
優しく有心の頬を撫でながら、こぼれは続ける。
「その時気づいたんです。もしかしたら、零が人の心を知っていけば・・・わたしの封印が解けるのではないかなって。それで、零に打診してみたんです。そしたら快諾してくれましたよ。それからは零が感じたもの全てをわたしに渡す形で、契約を交わしたんです」
「まさか、レイとも契約したんですか?」
「してないですよ。それにしても、綺麗な肌ですね〜。陶器のように滑らかです。お手入れ方法をお伺いしてもいいですか?」
話を逸らされて、有心は沸騰した水のように怒りが湧き上がった。
今まで、レイに対して抱いていた怒りなんかとは比べ物にならないぐらい本物のような怒りに有心は気づく。
レイに対して抱いていた怒りは偽物で、今抱いている怒りこそが本物なのだ、と。
「茶化さないでください」
怒りを押し殺したような声で、有心はこぼれの手を払った。
「アハ、面白い人ですね。それにしても、レイと零、どっちが好きなんですか?」
「え・・・」
「ん〜何年か前に、零に合ってますね?例えば、零が人を殺す瞬間を見てしまったとか。あの子、髪が白くて長いから、血が映えて素敵だなぁって思いますよね。ふふ、あなたの恋しちゃう気持ち、分かりますよ」
こぼれは大きくなった体に慣れようと、体のいろいろな部分をいじりながら有心の周りをぐるぐるとする。
「でも、レイはレイで一緒にいるのが楽しくなってきてますよね。ほら、一番最初に出会った時はまだ心を知らない状態でした。だけど、そこから自分と一緒に過ごしていくうちにレイはあなた好みに育っていった。おまけにレイの世界には、あなたとボスと零とわたししかいない。ふふ、優良物件ってところですかね」
有心は怒りを抑えきれずに、拳銃をこぼれに向けた。
「それ以上は、話すな」
「え〜わたし、人を殺すの慣れてないんですよ?人殺しに慣れてるのは、零だけですからね。でも〜そうだなぁ・・・わたし、零より強いんです」
こぼれは目を赤く光輝かせて言った。
【拳銃を下せ】




