20話
「こぼれちゃん」
「なぁに?」
フォークの使い方を会得したこぼれはスプーンの使い方も学んだ。今は、箸に苦戦しているところだ。
「こぼれちゃんは、どこから来たの?」
「ん〜わからない。でも、零ちゃんはわたしより後に来た」
「零のこと”零ちゃん”って呼んでるの?」
「うん。だって、零ちゃんは・・・昔、わたしと同じ年齢だった」
こぼれは零のことについて語りだす。
「この世界はね、最初わたしだけだったんだよ。いつからか、零ちゃんが来た。零ちゃんは、わたしと違って体だけが大きくなっていって・・・そして、レイちゃんが来た」
こぼれはレイを見る。まだ使い慣れていない箸を手にしたまま。
「零ちゃんはわたしのこと、“こぼれ姉さん”って呼ぶの」
「じゃあ、ワタシもこぼれ姉さんって呼んだほうが良い?」
「どっちでもいいよ。零ちゃんにも強制はしてないから。勝手に呼び始めたの」
少し変な文法。そのくせ、十歳が使うには難しそうな言葉。だけれど十歳らしい舌足らずな話し方。
しかし、レイはそのことに気付けない。
「じゃあ、”こぼれお姉ちゃん”って呼ぶね。こぼれお姉ちゃん」
「うん、いいよ。レイちゃん」
「呼び捨てにしないの?」
「呼び捨て?レイちゃんのこと?」
「うん」
こぼれは少し考え込む。
「うん、呼び捨て、いいね。わたしが二人のお姉さんなら」
こぼれはニヤッ笑った。
「こぼれお姉ちゃん、箸は使えそう?」
「うん、あとちょっと」
「そっか」
その頃、有心は零にひたすら質問していた。
「どこから来たの?」
「さぁ?」
「本名は?」
「さぁ?」
「名字は?」
「さぁ?」
有心はなかなか自分のことを教えない零にイライラしていた。
「僕が話した分のことは、話してよ」
「私は自分の過去を話すから、有心のこと教えてって言った覚えはないけど?」
「それはそうだけど・・・」
零は諦めたように、目を閉じた。
「じゃあね、有心」
「は?おい、ちょっと待て・・・!」
次に目を開けたとき、そこには零はいなかった。
「あれ?センセ・・・」
「レイ」
有心はレイを不安にさせないために、笑顔を貼り付けた。
「ケーキを買ってきたんだ」
「食べる!!」
有心は初めて会ったときに比べて懐いてきているレイに、喜びと戸惑い、そして苛立ちを抱えながらレイにケーキを渡した。
「あ、零!!」
こぼれは白い世界ーつまり、レイ、零の精神世界に帰ってきた零を呼びかけた。
「こぼれ姉さん・・・?なんで、私を呼び捨てにするの?」
「レイがね、呼び捨てにしたら?って言ってくれたの。今までちゃん付けしてて、どこか疎外感があったから、これで家族って感じがするね」
「家族?こぼれ姉さん、私達家族なの?」
零の疑問にこぼれは可愛らしく首を傾げる。
「違うの?もう私には零とレイ、二人しかいないのに」
こぼれの言葉に零は黙り込む。
「レイに会ったの?」
「うん!それにしても、零とレイ、ほんっとに似てるね。髪の長さしか外見の違いないよ」
「そうだね」
零は穏やかに笑う。こぼれの前でだけ、零は本当の自分でいられる気がした。
「おいで、零」
こぼれは両手を広げた。
「こぼれ姉さん・・・」
零は声を震わせて、こぼれの名前を呼ぶ。
「わたしに感情、全部ちょ〜だい」




