プロローグ
腰辺りまで伸びた白髪、春の空のような淡い水色の瞳、白い肌に小さな唇。
白い体を包み込むようにタイトな黒ズボンを穿き、黒いブラウスを着て、黒い着物風の長いカーディガンを羽織っている。
とても美しいと、男は思った。
とても美しく、そして残酷である、と。
なぜなら、白髪の女の顔に赤い、紅い、液体が飛び散っていたから。
淡い水色の瞳は、全く持って感情がこもっていない。
温かみのある春の空の色というより、冷徹な氷のような色がその双眸にはめられていた。
“雪”
それが、彼の抱いた白髪の女のイメージだ。
形の良い唇は、真一文字に結ばれている。
氷のような瞳と相まって、余計に冷徹に感じられた。
白髪の女の周りには闇そのものが至るところに散っていた。
雷のような形をした闇が散っている。
それは白髪の女の異能力なのだろう。
己の周りに散る闇に手を伸ばし、そのうちの一つを手に取ると女は闇を刀の形に変形させた。
それを皮切りに次々と人間が女に襲いかかっていく。しかし、それは意味をなさなかった。
白髪の女は襲いかかってくる集団へ向かい、一歩踏み出し的確に人間の首を闇でできた刀で掻っ切ってゆく。
男は白髪の女が見えない位置にいた。白髪の女がいる部屋の外で、扉の隙間から白髪の女を見ていた。
絶対に見つかることのない安心感と、仲間が切られていく姿をただ傍観しているという背徳さ。
ただ、申し訳無さは抱いていなかった。
そこが、男の異様さであろう。
数分後には、白髪の女を殺そうとした集団は、壊滅させられていた。
白髪の女以外、誰も立っていない。
周囲には数え切れないほどの死体が転がっている。
なのに、白髪の女は表情一つ、変えない。
そこにまた男は美しさを感じた。
とても美しい。
とても美しく、そして残酷である。
白い肌に飛び散る紅は、白髪の女の白さを際立たせ、白い肌は飛び散った紅を際立たせた。
その残酷な美しさを目の当たりにし、男は
一つの感情が生まれた。
好きだ。