14話
気づけば、レイは自分の部屋の布団の中にいた。先程の夢は妙にリアルだった。
いつの間にか震えている手で、レイは己の瞳に触れた。
瞼から漏れてくる温もりは、自分が生きている証拠でもあり、自分の目に何かが生じている合図でもある。今は、あの時みたいに痛くもなく、燃え盛るような熱さもない。
レイはふぅと息を吐いて、心を鎮め、いつもどおりの表情を心がけた。
レイはジブンの部屋を出て、リビングへと向かう。
「おはよう、レイ」
朗らかに笑いかけてくれる、有心に会うために。
そんな有心に会えるだけで、レイの心は落ち着き、余裕を持てた。
「おはよう、センセ」
「あれ?レイ、頬に傷が・・・」
「え?」
レイはそっとジブンの頬に触れた。確かにそこには、一筋の傷が走っていた。まるで、昨日の夢のときにつけられた傷のように。
「今、治してあげる。じっとしてて」
「うん」
有心の手から緑色の光が発せられ、レイの傷は治った。
レイとして行動している間、レイの目が熱くなることはなかった。
それに安堵するとともに、いつまたあの現象が起きるか分からない恐怖とレイは戦っていた。
有心はレイに付きっきりというわけではない。医者として、心理カウンセラーとして、働いている。その間、レイは家でお留守番をしているだけ。
昔は、何時間もお留守番はできていたのに、今のレイは、お留守番するのが嫌で嫌で仕方なかった。
「センセ帰って来るの遅い」
そう言っているが、まだ有心が家を出てから2時間ぐらいしか経っていない。
「暇、暇が暇で暇を暇してる」
とうとうよく分からないことをレイは言っていた。
むすぅと唇を尖らせている姿は、見た目よりも幼く感じられる。
『そんなに暇なら、私に体を貸して?』
「え・・・?」
そうレイの頭の中に響いた瞬間、レイの意識はなくなった。
零に変わった瞬間、家のドアの鍵が開く音がした。
「有心でも帰ってきたか」
そう思い、零はレイに演る準備をして、有心を迎えに行った。
「おかえり、センセ」
「あぁ、ただいま」
有心は朗らかな表情で答える。しかし、目だけは笑っていなかった。目が笑っていないことに気づいている零は、警戒心を緩めずに応対した。
ほのぼのとした雰囲気かと思いきや二人の間にはバチバチと火花が散っている。
「今日はケーキ買ってきたよ、一緒に食べようか」
探り探り有心は零に語りかける。
「うん、食べる」
「でも、その前に」
有心は零が後ろを向けた瞬間に、ジャケットのポケットから取り出した拳銃を零の頭に突きつけた。
「レイはどこだ?」
そう聞いたときの有心は愛しい人を見つめる顔をしていた。蜂蜜のように甘ったるさと、とろけた瞳に頬はどこか高揚し、口は緩んでいた。その表情だけを見れば、甘いシーンのように見えるが、本当は殺伐としたシーンである。
「ここにいるけど」
そう発した零の声は冷ややかで、有心から向けられた熱意を凍らせるような威力があった。
「ここに?」
有心は自分の思い描く零がそこにいて、嬉しさのあまり首元にふぅっと息を吹きかけた。
零はビクッと反応し、呼吸が乱れだした。
「なに、してんの?」
声は冷ややかなままだが、どこか怯えたような息遣いは余計に有心を満足させた。
「いや?零が僕の思いのままで嬉しいだけだよ」
その言葉に零は目を見開いた。
「そういうところ、ボスに似ている」
相変わらず冷ややかな声のまま零は左足を軸にし、右足で有心の持っている拳銃めがけて蹴り上げた。
その勢いを殺さぬまま、零は闇で刀を作り有心の首元に突きつけた。
「形勢逆転ってところ?」
呼吸はもとに戻り、声も視線も冷ややかに零は有心を見つめる。
「あぁ、そうかもしれないね」
形勢逆転されても、有心の表情は変わらない。
「でもー」
そう言って、有心は零に手を伸ばした。
「君に僕は殺せない。それに、僕は君に殺されたら、幸せだよ」




