13話
「当たり前だ」
「私のことは嫌い?」
零は有心の確信をつくような質問を投げかけた。
「え?零のことを、嫌うわけないだろう?だけど、僕が前見たときの零はもっと」
「冷徹?」
「うん」
有心は零の姿にイライラしていた。自分が見たあの零じゃないことに、苛立ちを隠しきれない。
どこか甘えるような瞳、だけれど少し棒読みな言葉。思い描く零じゃない。
「なぁ、本当に零か?」
「零だよ」
「じゃあ、なんでそんなに感情があるんだ」
「私に感情がないと思ったの?あるに決まってるじゃん」
零は嘘をつく。本当の自分を隠したいとか、そういう考えを持っているわけではなく、ただただなんとなく嘘をついているだけ。もしくは、彼女の深層心理に何かがあるだけ。
「はやく、レイに戻ってくれない?」
「なんで?レイのほうが好きなの?」
「好きとか、嫌いとかじゃない!だって、本当は・・・!!」
「本当は?」
零は有心を見上げた。目を覗くようにして、じっと見つめる。
有心は零に何もかも見透かされてしまうような感覚がして、目をそらした。
「なんでもない。僕は医者なんだ。だから、早くレイの望みを叶える」
「過去を取り戻したいか・・・」
「そう」
「いいよ、変わってあげる」
零は眠りにつくように目を閉じた。
次に零が目を開けたとき、そこにはレイがいた。
「あれ?センセ、体調は大丈夫?チェントは?死んだ?」
「ああ。零が殺してくれたらしい」
「そっか、零が・・・。申し訳ないこと、しちゃった。ワタシがセンセを守りきれなかったから」
レイは申し訳無さそうに言う。
「でも、零がワタシの代わりにセンセを守ってくれて良かった」
にこやかに笑って、レイは答える。
違う。これは僕の思い描く彼女じゃない。
有心はレイを見つめた。どこか冷めた目付きで。
「どうしたの?」
レイは先ほどの笑みを絶やさぬまま、有心を見た。
「いや、零のことを信頼しているんだなと思って」
「信頼はしてないよ?でも、センセを助けてくれたんだもん」
「そう、か」
その日もレイは夢を見ていた。
たくさんの人を殺していく夢。レイは人が死んでいく姿を見たくないという気持ちのまま傍観していく。レイの意志でこの夢は終わらせられない。
今日はあまり人を殺していなかった。二人ぐらいだけれど、えらく苦戦していた。
「珍しいですね。あなたが、こんなに苦戦するなんて」
メガネをかけた理知的な風情の男が、レイに向かってそう言った。
「こんなにちゃんと戦うのは久しぶりだから、かな。少し体が鈍っている気がする」
「そうですか?僕がこんなに苦戦する相手はあなたぐらいしか、いないでしょう」
「そんなに強かったっけ?」
レイは肩で呼吸をしている。レイ自身は疲れていないのに、体が疲れていることを示していて、レイは軽く混乱する。
「無理はなさらない方がよろしいでしょう。・・・そろそろ、終わりにしますか」
その言葉を言うと、メガネをかけた男はレイに向かって、ガラスの破片を飛ばしてきた。
全てを避け切ろうとするが、避けきれずに一筋だけ頬に掠ってしまった。
「あなたに傷を与えられた人間は、どれだけいるのでしょうね」
「たくさんいるわよ」
そう言うと、レイの周りに闇が現れた。それを、先ほどのガラスと同じように相手へ飛ばす。
ガラスよりも鋭く、鋭利に。
「こんなの、避けきれますよ」
メガネの男が余裕そうに避ける。
「まぁ、避けられるのはやめてほしいかな。だからー」
レイの声帯がそんな声を出した後、目が、レイの顔に二つ嵌っている目が、熱くなり出した。
レイは体の底から何かが湧き上がってくるのを感じる。
「っ!!!!」
声にならない声をあげ、レイは目を覚ました。




