10話
「っ!触らないで!!」
手をはたけば、零は無表情のまま自分の手を見つめた。
「ジブンの体に触れられるのは嫌い?」
気づけば、抑揚も消え、絡みつくような視線から、凍てつくような視線に変わっていた。
「そ、そういうわけじゃ・・・」
「怒ってない。私に感情なんてないから」
「え?」
零には感情がないの?
「ないわよ。アナタは、段々と感情を知っていくのね」
どこか微妙に個性を残した語調。だけれど、声の抑揚なんかどこにもなくて、そこがとても怖かった。
「今のアナタは、まだ感情をすべて知っていない。微妙に知ってるだけ。だから、なんでも怖がる」
すると、零は口角を無理やり上げた。
「そういうアナタも愛おしいわ」
「愛おしいなんて感情、ないくせに」
するりと、ワタシの声からいつの間にかそんな言葉が出ていた。多分、これはワタシの意志。
「あら、バレちゃったわ」
感情を感じさせるような振る舞いに、どちらが本物の零なのか分からない。
時間間隔がどんどんなくなっていく。永遠の時を過ごしているような、雫が落ちるぐらいの一瞬のような。
すると、零の近くに雷のようなものが落ちた。
「うわお。あはは、これは”先生”の仕業かな。あの人は、治癒系の異能力者の中でもトップクラスに強い人だからなぁ。私自身、あまり戦いたくない」
苦虫を噛み潰したような表情をしていたけれど、きっとそれも嘘。多分、零は何も怖くない。
「う〜ん、じゃあ返してあげるか。ほい、レイは行っておいで」
零は指をぱちんと鳴らしてた。
意識は遠のき、ワタシは気を失った。
レイが目を開けると、有心は飛びつかんばかりに喜んだ。
「起きてよかった!!僕の治癒能力で頑張ったんだけど、なかなか起きてなくて・・・」
有心は喜んでいるが、表情はかなり悪い。
「けほっけほっ」
そう咳き込んでいる。
「先生・・・大丈夫?」
「あ、あぁ、うん、けほっ。大丈夫」
有心は肩で呼吸していて、レイの目から見ても体調が悪いのは確かだった。
「とりあえず、休んで?」
「そうだね、そうする」
そう言って、有心は自分の部屋に向かった。
「なんで、先生苦しそうなんだろ・・・」
『そりゃあ、異能力を使ったんだから当たり前だよ?』
「え!?誰?」
『私だよ〜。零だよ』
レイの頭の中に、零からの言葉が響いていた。
「なんで、零の声が・・・」
『まぁ一つの体に二つの人格が入っている時点で、こうなることは予想できるよね』
「いや、できないよ」
『え〜?そうなの?』
レイの頭の中には、零があの精神世界で優雅に紅茶を飲んでいる姿しか浮かばない。
『ん〜じゃあ、話を戻すけどね?異能力って使いすぎると体に支障をきたすの。今回、レイを目覚めさせるために、かなりの異能力を使ったんじゃないかな?だから、咳き込んだし、苦しそうなんだよ』
「でも、自分の治癒能力で治せばいいのに」
『そうしたら、余計に症状が重くなるに決まってるじゃん』
「あ、そっか」
有心は自分の部屋のドアを開け、ベッドに転がり込んだ。
視界がぐるぐる回り、焦点が合わない。まるで、カメラのピントが合わなくて、なんどもぼやけたり、いきなりピントが合ったりする、あの現象みたいな視界。
「これは、重いなぁ・・・」
有心は自嘲気味にそう漏らす。
「こんなになったのは、いつぶりかな・・・」
クラクラする視界に瞼で蓋をして、過去を思い出す。
思い出そうとすると頭が痛くなり、思い出すのをやめた。
ただ、瞼の裏に浮かぶのは彼の姿。
泣きぼくろが印象的で、いつも悲しげな目をしていた彼。笑うと、イメージがガラリと変わる。口を開けば、見た目と相反した言葉遣いで。
「懐かしいなぁ・・・」




