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零の愛寵  作者: Lilly
12/57

10話

「っ!触らないで!!」

 手をはたけば、零は無表情のまま自分の手を見つめた。

「ジブンの体に触れられるのは嫌い?」

 気づけば、抑揚も消え、絡みつくような視線から、凍てつくような視線に変わっていた。

「そ、そういうわけじゃ・・・」

「怒ってない。私に感情なんてないから」

「え?」

 零には感情がないの?

「ないわよ。アナタは、段々と感情を知っていくのね」

 どこか微妙に個性を残した語調。だけれど、声の抑揚なんかどこにもなくて、そこがとても怖かった。

「今のアナタは、まだ感情をすべて知っていない。微妙に知ってるだけ。だから、なんでも怖がる」

 すると、零は口角を無理やり上げた。

「そういうアナタも愛おしいわ」

「愛おしいなんて感情、ないくせに」

 するりと、ワタシの声からいつの間にかそんな言葉が出ていた。多分、これはワタシの意志。

「あら、バレちゃったわ」

 感情を感じさせるような振る舞いに、どちらが本物の零なのか分からない。

 時間間隔がどんどんなくなっていく。永遠の時を過ごしているような、雫が落ちるぐらいの一瞬のような。

 すると、零の近くに雷のようなものが落ちた。

「うわお。あはは、これは”先生”の仕業かな。あの人は、治癒系の異能力者の中でもトップクラスに強い人だからなぁ。私自身、あまり戦いたくない」

 苦虫を噛み潰したような表情をしていたけれど、きっとそれも嘘。多分、零は何も怖くない。

「う〜ん、じゃあ返してあげるか。ほい、レイは行っておいで」

 零は指をぱちんと鳴らしてた。

 意識は遠のき、ワタシは気を失った。



 レイが目を開けると、有心は飛びつかんばかりに喜んだ。

「起きてよかった!!僕の治癒能力で頑張ったんだけど、なかなか起きてなくて・・・」

 有心は喜んでいるが、表情はかなり悪い。

「けほっけほっ」

 そう咳き込んでいる。

「先生・・・大丈夫?」

「あ、あぁ、うん、けほっ。大丈夫」

 有心は肩で呼吸していて、レイの目から見ても体調が悪いのは確かだった。

「とりあえず、休んで?」

「そうだね、そうする」

 そう言って、有心は自分の部屋に向かった。


「なんで、先生苦しそうなんだろ・・・」

『そりゃあ、異能力を使ったんだから当たり前だよ?』

「え!?誰?」

『私だよ〜。零だよ』

 レイの頭の中に、零からの言葉が響いていた。

「なんで、零の声が・・・」

『まぁ一つの体に二つの人格が入っている時点で、こうなることは予想できるよね』

「いや、できないよ」

『え〜?そうなの?』

 レイの頭の中には、零があの精神世界で優雅に紅茶を飲んでいる姿しか浮かばない。

『ん〜じゃあ、話を戻すけどね?異能力って使いすぎると体に支障をきたすの。今回、レイを目覚めさせるために、かなりの異能力を使ったんじゃないかな?だから、咳き込んだし、苦しそうなんだよ』

「でも、自分の治癒能力で治せばいいのに」

『そうしたら、余計に症状が重くなるに決まってるじゃん』

「あ、そっか」



 有心は自分の部屋のドアを開け、ベッドに転がり込んだ。

 視界がぐるぐる回り、焦点が合わない。まるで、カメラのピントが合わなくて、なんどもぼやけたり、いきなりピントが合ったりする、あの現象みたいな視界。

「これは、重いなぁ・・・」

 有心は自嘲気味にそう漏らす。

「こんなになったのは、いつぶりかな・・・」

 クラクラする視界に瞼で蓋をして、過去を思い出す。

 思い出そうとすると頭が痛くなり、思い出すのをやめた。

 ただ、瞼の裏に浮かぶのは彼の姿。

 泣きぼくろが印象的で、いつも悲しげな目をしていた彼。笑うと、イメージがガラリと変わる。口を開けば、見た目と相反した言葉遣いで。

「懐かしいなぁ・・・」

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