9話
目を覚ませば、今度こそ自分の部屋でレイは恐怖した。
これが夢か現実か、区別がつかないからだ。
「今のは、夢?」
声を出せば、震えていて自分が本当に怖がっているんだと知った。
カーテンを開け、窓の外を見るともう朝日が輝いてて、眩しくなりレイは目を細めた。
どこか眠い。だるさが抜けない。昨日早く寝たのに。
そうレイは思いながら、リビングへ向かった。
「おはよう。今日は遅起きだね。おそようというべきかな」
爽やかなに笑いかけてくる。その笑顔にうまく反応できずにいると、有心がレイに近づいてきた。
「大丈夫?何処か具合でも悪い?」
「いや、少し悪い夢を見ただけ」
レイは明らかに具合の悪そうな表情をしている。
目を閉じれば、瞼の裏にあの血の光景が蘇る。目を閉じたくなくて、レイは頑張って目を開け続けていたが、それも耐えきれなくなり、目を閉じた。
するとぐらりと体が傾いた。
「レイっ!!!」
すっとしゃがみ込むようにして倒れたレイに有心は慌てた。
「ごめん、先生・・・」
うわ言のようにつぶやいて、レイは意識を手放した。いや、誰かに手放されたのかも知れない。
夢を、見ている。
きっと、これは明晰夢。
でも、夢かどうかは分からない。
今まで見てきた夢も、果たして夢なのか、それとも現実か。
ワタシが目を開けると、そこにはもう一人のワタシがいた。
もう一人のワタシは腰辺りまで伸びた白髪で、髪を切る前のワタシだった。
「こんにちは、レイ」
「アナタは誰?」
ワタシの問いかけに、目の前のワタシはニヤッと笑った。
「私は零」
「零?」
「そう。私は、アナタが過去を失う前のアナタ」
ワタシの目の前にいるワタシは過去を持っている?
「早く起きなきゃ、先生が心配しちゃう」
そう言って、ワタシがその場から離れようとしたら、ぐっと足に力がこもり、体がその場に引き止められた。
「もうちょっとお話してようよ」
零はいつの間にか、椅子を作り出し座っていた。
「どこから椅子が・・・」
「あ、聞くのそれなんだ。まぁいいんだけどさ」
零は、またどこからか紅茶を取り出し一口のんだ。
「ここは、私とレイの精神世界。だから、どんなことでもできる」
紅茶の匂いを楽しむようにしたあと、零は指をぱちんと鳴らしワタシの目の前に椅子を作り出した。
「さぁ座って」
零の言う事を聞きたくなくて、ワタシは立ったままでいると、体が勝手に動き椅子に座らされた。
名前のわからぬような恐怖を感じて、ワタシは零を見た。すると、ワタシと同じ色、同じ形の目が赤く光っている。
その赤さに驚いて、マジマジと零を見つめようとすると零はまぶたを閉じた。
「好きな飲み物は?」
目を閉じたまま、零は言う。
「特に、ない。零は紅茶が好きなの?」
零の趣味を知れば、先生が喜ぶかも。
そう思って、零に聞けば零は緩く首を振るだけ。
「紅茶が好きな私をイメージしていそうだから」
まぶたを開き、零はワタシを見てきた。
「違った?」
ワタシと零の距離は、手を伸ばしても届かないぐらいの遠さ。なのに、零の絡みつくような視線のせいでそんな距離を感じられなかった。
「全然、違う。ワタシが、イメージしてた、零は、もっと、感情が、なくて、冷徹で」
零の視線が怖くて、途切れ途切れに言っていると、零は肩を震わせて笑った。
「そんなに怖がらないで。私はアナタと話してみたかったのよ?それに、アナタだけかもしれない。本当の私に気づいたのは」
零が声のトーンを落とし、言った瞬間、ワタシと零の距離が縮まった。そう、お互いの手が届く距離に。
紅茶を空中に投げ出し、零はワタシの頬に触れてきた。
「アナタも心を知っていくのね」
そう氷のような声で言ってきた。




