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第7話


 新入生の歓迎パーティーと校外学習が終わり、しばらくは通常の学園生活が続くという時期に入った。ひとまずは特にこれといったイベントのない今のうちに学園での過ごし方に慣れつつ、状況を整理しようと思っていた。いたのだが。



「つ、疲れる……!」



 休日の昼下がり。私は疲労した体を半ば引きずるようにしながら、すっかりお気に入りとなったベーカリーでパンを選んでいた。

 正直に言おう。舐めていたのだ。やんごとない身分のご令嬢ご令息が集うこの学園生活、どうせ大した内容ではないだろうと高を括っていた。

 ところがいざ蓋を開けてみれば基礎的な学問はもとより、スポーツや芸術、さらには社交の場で必要な礼儀作法やダンスなど、将来国を背負う立場になるべき者たちに必要な多くの分野の知識と技術の研鑽を求められる。ついでに言うなら先日の反乱分子騒動が私の実家であるグラジオラス家の耳にも入っているので、再三のように寮を出て自邸へ戻るよう促されるのにも辟易していた。

 たまの休日には毎度のように、昼頃まで寝ていたい欲求と朝食を食べそびれるのは嫌だという欲求の板挟みになる生活である。今日も今日とて何とか平日と同じ時間に起床し朝食を済ませ、数時間ほど死んだように眠った後、遅めの昼食を摂りに寮を出てきたのだ。


「あ、このバゲットサンド美味しそう。こっちのベーコンエピも買っちゃお」

「こんにちは! 今日もいらしてくださったんですね!」


 もはや顔馴染みとなってしまったお店の看板娘、マリカが今日も元気いっぱいの笑顔で挨拶してくれる。彼女の飾らない明るさにはこちらも元気をもらえるので、ここに来ればマリカがいるというのも私がこのベーカリーを贔屓にしてしまう理由の一つだ。


「こんにちは」

「何だかお疲れみたいですね」

「あら、そんなに顔に出てたかしら……」

「ええ。ちょっとぐったりしてるっていうか、もうどうにでもなれって感じの雰囲気が出てます」


 あははと笑いながら言うマリカを、バックヤードから出てきた恰幅の良い女性が「こらっ!」と叱りつける。


「お嬢様に何てことを言うんだい、あんたは!」

「うう。ごめんってば、お母さん!」

「謝るならあたしじゃなくてお嬢様にでしょうが! 本当にもう、うちの娘が申し訳ございません」

「いえ、お気になさらず」


 経営者家族と何人かの従業員でやりくりしているこの店の、こういうアットホームな雰囲気が私は好きだ。乙女ゲームの悪役令嬢に転生したとはいえ、もとはといえば一介の公務員だった私は、きらびやかな空気の中にいるよりかはこうやって温かく賑やかな場所の方が落ち着くのである。


「あ、お会計ですね! 少々お待ちください!」


 慌てて会計場所へと駆けて行くマリカの後ろ姿を微笑ましく見つめる。



 店を出たら出たで何故かすぐ外にいたリタが「お姉様!」と待ち構えていたかのように声をかけてくるが、こんな騒がしい日常にも慣れてしまっていた。

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