♯4,君のせいだ
書くのは楽しいのですが、高校入学前の課題のせいであまりかけませんでした。
あとバニーつかさっちが当たらない。
ねぇ、律君。
律君だったらトロッコ問題をどう答える?
「今度は答えが無いというか、有っちゃ駄目なやつだな。」
時計が午前八時を示す二人の生徒が独占する教室。
いつものように早く登校し仮眠を取る俺に、前に座る少女、黒井心は風呂場で考えたらしい疑問を俺に投げかけてくる。
「人間、そんな状況になれば何もできず逃げ出すのがオチだ。」
そういう答えは求めてない…
「じゃあ逆に黒井ならどうするんだ?」
私?私は…そうだね。
黒井は二分程目を瞑って考えやがて答えを出したらしい。
レバーガチャガチャさせて脱線させるかな?
トロッコのレバーはそんな高速でガチャガチャできる物では無いと思うが、まぁ奇天烈な彼女らしいと言えば彼女らしい。
しかし一体何クラフトを連想しているのだろうか。
皆目見当もつかない。
そういえば、確か今日は選抜リレーの選手の発表だよね?
うちのクラスは陸上部多いし強そうだよね。
「ん?あぁそういやそろそろ体育祭か。」
入学してからあまり日数は経っていないように感じるが、
どうやらもう行事が始まるらしい。
リレー…ね。俺にとってはあまり喜ばしい物では無い。
運動は苦手だ。実際に体育の授業で既に二回倒れている。
これから暑くなるのだから、虚弱に加え熱中症の危険も迫る訳だ。とてもじゃないが総勢何百人で運動しようとは思えない。
「黒井は、どうなんだ?やっぱ最初の行事は楽しみか?」
彼女もまた、運動は得意ではない。
クラスに馴染めている訳でもない。
そんな彼女は今回の体育祭をどんな感情で迎えるのだろうか。
個人的に興味が有った。
私は楽しみだよ?それより律君がちゃんと参加出来るかが心配でしょうが無いね。ヤレヤレ。
人畜無害な顔してよくもまあ一番言われたくない事を…
「というかそもそも…」
ここまで言ってこれ以上は言うべきでないと気付き、咄嗟に言葉を飲み込んだ。
「いや、何でもない。お互い頑張ろうって話だ。」
午前八時十分、教室の後ろ扉が静かにスライドした。
長身長髪ロングスカート。堅い雰囲気を纏い、黒髪が日差しで輝き色白の肌がより透き通って見える少女。
恋澄色芭。
百人一首と花札をこよなく愛しており、入学式の日にいつの間にか着替えた袴姿で有名になった。
文学少女と辞書で引けば、類義語で恋澄色芭と出てきそうな程の彼女だが、運動も得意なようで中学時代は様々な部活を兼部して回った、The才色兼備である。
律君。あんまをなごの顔をじっと見ないの。
「何時代の人だよ。小生は左様なことをした覚えはない。」
その後は特に変わったことのない世間話に花を咲かせた。
朝のHRの終わりにいつもなら担任が話をして終わる所を、
今日は体育委員である橋李虎古が話をしていた。
「じゃあ今から、体育祭での選抜リレーの選手を発表します。」
誰が選手になるかの予想でクラスが騒然とする中、やはりいつまでも話さない人は話さないらしく、今回の体育祭でなんとかそこら辺の人もクラスと打ち解けてほしいものだ。(自分は棚に上げる事にする。)
そういえば、律君は記録測定の時は授業に出てなかったんだよね?どう?もしかして意外と速かったりする?
「俺はどこぞの器用貧乏主人公じゃないんだ。
別に遅い方では無いがかと言って現役陸上部に勝てる程じゃ…」
ん?もしやこれフラグか?
何故か数秒後には進捗達成の文字が右上に出てきそうだが、
「じゃあまず女子から、逢川さん、足達さん、恋澄さん、私です。何か意見もしくは私を除いた三名の中に棄権を望む人が居たら挙手してください。」
勿論手を挙げる人は居ない。
逢川が「うち凄くない?凄いよね?」みたいな事を言っているみたいだが、三名の中に棄権する人も俺を含めこの四名より適材は思いつかない。
橋李もその事を熟知しているようで笑顔を浮かべ話を進めた。
「では、次は男子の選手の発表です。」
因みにこのクラスには男子の陸上部員は4名居る。
飛貴、坂井、暮茅、羽々滝の4名だ。細かい話をするなら暮茅と羽々滝は兼部しているだけで、本業は陸上ではない。
ここに居る全員が、俺すらも選抜にはこの4名が選ばれると思っていた。
「暮茅君、坂井君、羽々滝君、宮古君です。では同じように…」
「ちょっと待てよ!!!」
声を上げたのは飛貴だった。
「なんで俺じゃなくて宮古なんだ!?」
まぁ当然その事である。何なら俺も物申したい。
「飛貴君の今回の記録は6.8、宮古君は6.6。勿論飛貴君が高飛びの選手だって事とか、普段はどれくらいかは知ってる。その上で今回は宮古君に頼みたいって話で…」
「チッ!」
飛貴は舌打ちをして勢いよく椅子にふんぞり返った。
しかし、どういう事だ?俺は確かに飛貴より…
手を上げようとした時、HRの終了を告げるチャイムが鳴った。
後で個別に話す必要があるな。
「橋李さん、少し時間良いかな?」
放課後になり直ぐに俺は橋李の下へ向かっていた。
「宮古君?あぁそっか、朝の…良いよ、移動しようか。」
話が早くて助かる。
俺達は少し離れた廊下の隅へ移動した。
「 」
「 」
「 」
「 」
「無視しないでよ!?」
いきなり振り向いたと思ったら、物凄い表情で大声を上げている。
どうやら移動途中に何か話していたらしい。
「申し訳ない。考え事をしていた。」
移動途中に話し始めるって事は、あちらも迅速に終わらせたいのは同じらしい。
「で、朝の件って事で良いのかな?」
「あぁ。それで合ってる。」
明らかに不機嫌だ。やはりこの耳はこういう時に足を引っ張る。
「はっきりと言うなら、俺は選抜リレーを走るつもりは無い。」
やっぱか。なんてぼやきながら橋李は窓の外を見つめている。
黄昏れているのではなく、部活が始まっていないかを気にしているようだ。
「確かに飛貴君は今回の記録測定ではかなり不調みたい。
記録のみで選ぶならそこで即決だけど、信頼と期待と経験で考えるなら飛貴君に任せたいんだけどね…」
憂いを隠しきれていない言葉と表情から察せられる程、俺はイケメンに生まれていない。
「こう言うと印象悪いから言いたく無いんだけど、宮古君が走った方が都合が良いんだよ。」
流石にここまで言ってもらえれば、俺でも大方察しはつく。
「今回の体育祭は、只の行事じゃない。今のギスギスしたクラスの雰囲気を改善する必要な物なのは理解してくれてるよね?だから宮古君も協力してほしい。」
橋李は俺と黒井が友好的である事を知っている。
今回黒井の一件で壊れかけたクラスを改善するには、普段孤立している俺を目立たせ、尚且つそこに黒井を巻き込みたいようだ。
そうなるといくら記録測定で坂井が不調だったとしても、坂井を選ばず俺を選んだ理由が分かる。
つまり、クラスに黒井を馴染ませれば俺が走る必要は無い。
という事だ。
「因みに、補欠は飛貴ってことで良いのか?」
少しの長考から話を変えた事で少し不信がられたが、そこは人格者。怪しみながらも質問に答えてくれた。
「そうだよ。流石にそうしないと不自然だからね。」
そこまで聞けば十分な為、俺達はそこで解散した。
「成る程ね。橋李さんがそんな事を。」
橋李と別れた後、俺は保健室に寄っていた。
「俺は飛貴が態とタイムを落としたと思ったんだが、俺は後日測った。高校1年の男子の平均は7秒を超える。飛貴が7秒を切ったタイムを出してるって事は狙った結果じゃない。」
ここが唯一不思議な点だ。
飛貴の不調という予想外と俺のタイムという予想外が重なった故の行き当たりばったりの計画という事だろうか。
考えても解らないし、俺の苦戦する表情でニヤニヤしている矢部が不愉快だ。
「でも、橋李さんと宮古君は中学時代の同級生だろう?君はよく倒れこそするが運動神経は優れている方だ。橋李さんが認知していても不思議ではないだろう?」
宮古律として認知されているとは思えないが…
「まぁ君が何をするつもりなのか、大方予想はつくがね。
でも止めるつもりはないよ。おそらく君の行動は周りからしたら0点だが、私にとっても君にとっても満点だ。」
唯一のデメリットと言えば。と皮肉と嫌味満面の笑みで
「愛しの黒井さんとは絶縁するだろうね。」
そう呟くのだった。
某日(体育の授業でクラスリレーの練習を行う初日)
意気込む人も面倒に感じている人も、はたまたポーカーフェイスを貫き何を感じているかも解らない人。
実に様々な様子がうかがえる。
その中に飛貴樹の姿は無かった。
この日の放課後に聞いたが、この時矢部と飛貴は保健室で話していたそうだ。次の練習から参加するようになったのは、きっと矢部のお陰様ってやつなのだろう。
しかし有り難いのはまた事実である。
これで俺が心置きなく計画を実行出来ると言うものだ。
(当時の俺はこの事を知らないが)
「然し全く驚くことに、宮古君が案外すんなりと受け入れる事には驚いたね。もしかして満更でもなかったりするのかい?」
「大分面倒な話し方をするな。読み取りにくいからやめて欲しい。」
「読み取る?」
「何でもない。気にしないでくれ。」
因むとデメリットが一つ増えた。
この通り橋李が普通に良い人なので罪悪感が少し増えた。
少しの心情の変化はあれど、やはりこの日も特になにもなかった。
帰宅といってもバイト帰りの為二度目の帰宅途中。
例の公園に今夜も見たことのある人影が一つ。
「飛貴?何してるんだ?」
飛貴樹。話に聞くと、三時間目の体育の授業の途中で早退していたようだが。
「宮古か。気にしないでくれ。厨二病拗らせた無気力系主人公様と話す事は無え。」
随分酷い言いようだ。
お前がお悩み相談した奴も、いい歳して人にライトノベル勧めてくるような奴だが。
恐らくここで引き下がらずに飛貴に寄り添い、クラスと一致団結皆仲良しこよし。なんて√が望ましいのだろう。
実際、飛貴が自らこの場を離れようとしない。
つまりそういう事だ。
「飛貴。」
声を掛けると飛貴は顔をあげずにくぐもった声で返事をする。
「な゙んだよ…」
「俺はーーーーーーーーーー。」
風は二人の間をすり抜け何処かへと流される。
ひいては返す波が同じ水とは限らないように、
ここが俺とこの1-Aとの大きな溝を作る
ターニングポイントと成った。
翌日
登校するや否や、飛貴は90度に近いほど体を倒していた。
「皆昨日はごめん!俺の自己中心的なプライドのせいで空気悪くした。俺もこのクラスで体育祭を盛り上げたい気持ちは同じだ。だから…」
「お、おう。取り敢えず顔上げよ?」
「そうだよ。皆心配はしてたけど怪訝には思ってないって。」
(角度的に見えたのはこの二人のみ)
これで準備は整ったな。
しかしながら、黒井の登校が遅い。
いつもなら俺が登校してから5分以内に来るのだが。
考えすぎな気もするが、何か嫌な予感が
「 !」
肩を揺すられ振り返ると、逢川が顔を赤くして何か言っている
「宮古!ちょっと来い。」
「あぁ、わかった。」
横目に一部の女子グループがクスクスと笑っている様に見えたが、やはり嫌な胸騒ぎがする。
教室から離れると逢川が振り向き、俺を呼んだ理由を話し始めた。
「心には今日は休んでもらってる。」
休みではなく、休んでもらってる。ということは何かトラブルが有ったのだろう。
「上履きが隠されていたって。多分また彼奴等だ。」
『彼奴等』とは黒井の虐待を教師に知らせる為、逢川が行っていた直接被害を与えないイジメに理由を聞かず本気で黒井をイジメていた人達とエスカレートしていった人達の事だ。
今回はそのどこか気まずい雰囲気を無くすのが目的だ。
しかし、本人達も周りの人も情報が上手く伝わっていなかったって事は知っている。
態々ここでイジメを再発させる意味は無い。
矢部に話すべきだろうか。
「頼む宮古。ヤブ医者にバレる前になんとかしてくれ。」
※ヤブ医者とは矢部のあだ名である。
「取り敢えず落ち着け。口調が変わってる。」
橋李は普段から少し男勝りな話し方をするが、
逢川は感情が高ぶると見た目も相まってヤンキーっぽくなる。
「先ずは証拠を集めるべきだろ?」
というか、ここで揉められると俺が困る。
あと一週間以内で体育祭なんだ。計画が乱れるのは避けたい。
「とにかく、少し様子を見よう。冷静さを欠くのは一番避けるべき事だ。」
「…そうだな。いや、そうだね。そうする。」
落ち着いてくれたようだ。
口調ももとに戻っている。読み取りにくくなるんだよな。
この件はもう結論から書くとしよう。
この日以降、黒井に被害は出なくなった。
イレギュラーさえ有れど、順調に進んでいる。
今日は久しぶりに寄り道せずバイト先に向かうことにした。
体育祭当日午前九時。
開会式が執り行われた校庭に、一つのクラスに暗雲が立ち込めていた。
無論比喩ではある。されど暗くギスギスした雰囲気である事は間違いない。
「黒井さん。宮古君は昨日何か言っていたかな?
少なくとも私は彼がこんな事をするとは思っていなかった。」
ごめんなさい、橋李さん。私も何も聞いてないの。
既に最初の競技、百メートル走が始まっている。
だのに、まだその場所に宮古律の姿は無かった。
一体、彼は宮古君は何をしているのだ?
考えてもわからない。
それほどまで何か私が追い詰めてしまったのだろうか。
黒井さんも知らないという事は、後宮古君と親しい人は…
「矢部先生!宮古君が今どこに居るか知っていますか?」
ちょうどよく近くに居た矢部先生に話しかける。
確かこの人はちょくちょく宮古君を呼んでいたはずだ。
そんな淡い期待は泡沫の如く儚く消え失せる。
「宮古君?なんだ来てないのか?すまないが生徒と個人的なやり取りはできないからね。」
何故か芝居がかったようにも感じる。
この人が何か知っているのは明らかだ。
「あ、虎古先輩!」
近くから聞き覚えのある元気な声がした。
「百合花。久しぶり。」
重平百合花。私の中学時代の後輩だが、態々応援に来たのか?だが、今は宮古君と面識のある人を…
「宮古先輩が今何かしてるかなら〜、そうですね。頭よしよししてくれたら教えてあげます!」
百合花には申し訳無いが、一旦スルー…
「今何て!?」
「ん?だから、よしよししてくれたら〜宮古先輩が今どこで何してるか教えてあげましょうか?」
蠱惑的な笑みでそう言うが、何故百合花が宮古君と?
いや、今はそんな事を気にしている場合ではない。
「よ、よ〜しよし?」
「んふふふ。もう少しお願いします。」
何故私は高校の体育祭で中学生の頭を撫でているんだ?
「ん。もう良いですよ。堪能しました〜。」
「じゃあ、教えてくれるかな?」
まだ半信半疑だ。しかし、出してすら無い宮古君の名前を知っているのは少なくとも知り合いなのは確かだ。
「宮古先輩なら今何時通りバイトしてますよ。駅近のカフェに居ます。」
なんでそんなことを?
「電話」
「虎古ちゃん!早く並んで!不戦敗になるよ?」
名前を呼ばれ振り返ると、既に百メートル走は終わりかけており、私の出番の1000メートル走の選手が並んでいた。
自分が電話できなくても、百合花に頼むべきだったのだろう。
そうすれば結末は変わったのかもしれない。
それが結果論だとしても。
翌々日
土曜に行われた体育祭を終えた月曜
時計が八時を告げる時、俺は一人教室で本を読んでいた。
いつも通りならそろそろ黒井が来る時間。
ただ、もうそんないつも通りは訪れないだろう。
二日前の体育祭。
クラスの団結を深めるための物に、俺はあえて参加しなかった。
なんてことはない。中学時代もこんな感じだった。
だからあの扉が次に開くのは少なくとも15分後に登校してくる
恋澄か橋李によるものになるーーーーーー
ガラガラ!と勢い良くスライドしたドアの先に立っていたのは
「宮古君。体はもう平気なんですか?」
「恋澄さん。随分皮肉たっぷりだね。俺は昨日も一昨日も元気だよ。」
いつもより登校が早いな。
訳ありだろうか。
何を言われるのかハラハラしていると、そのセリフは余りにも予想外だった。
「先ずは感謝を。有難う御座いました。貴方様のお陰で私達のクラスは共通の敵を作り出す事でさらなる団結を深める事ができました。」
まさか矢部が根回ししたのか?
「何の事かな?それよりいつ他の人が来るかわからないのに、嫌われ者の俺と悠長に話していて良いの?」
「そうですね。では、またいつの日か。あぁそれと」
お辞儀をして立ち去ろうとした彼女がまた放った言葉も、
俺にとっては予想のしようがない物だった。
「飛貴樹がお世話になりました。」
今度こそ完璧に振り向き自席へと進む。
大きく口を開く話し方はまるで俺のことを見透かしているようで、どこまでも気味の悪い人物だった。
同日
帰宅しようと下駄箱へ向かうと
「これは酷いな。」
上履きはカッターか何かで切られており、蛙の死体やマッキーによる落書きがされている。
律君。
「黒井。何か用か?」
他クラスの下駄箱の影から現れたのは黒井心本人だった。
まさかいきなり初日から話しかけられるとは思っても見なかった。
もう少し距離を作れると思ったのだが。
なんであんな事したの?
「そういえば、トロッコ問題のやつ答えてなかったな。」
今はそんな話ししてないよ。質問に答えて。
「俺はダメ元でトロッコに体当たりするタイプの人間だ。」
もう彼女と話す事は無い。
今も背後で何か言葉を綴る彼女を置き去りにし、俺は今度こそいつも通りバイト先へ向かった。
鈴音の方でも困ったのですが、語尾とか口調で個性作るの本当に大事なんですよね。
そのせいで口調がちょこちょこ混ざるんですよ。
特に橋李と逢川。