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ドエ…アマットヒロインなんですの!!

初投稿です。ドキドキです。

よろしくお願いします!

 これってドアマットですわ!

 

 汚水をかけられた衝撃で悟った瞬間、わたくし泣きましたの。

 

 嬉しくて。


 ドアマットヒロイン——所謂ところの不幸な生い立ちで踏みつけにされ、いじめられても蔑まれても、逆境に負けず耐えて耐えて咲き続け、やがて幸せになる……そうした物語の主人公。


 わたくし、メアリ・フォーチューン。


 フォーチューン伯爵家の長女たるわたくしはまさにそれ。

 

 美しく優しかった伯爵家のお母様と男爵家から婿入りしたお父様、生まれてきましたこのわたくし。

 幸せだったのは五つまで。

 美人薄命お母様はあわれ雪のように儚くなられ、実は爵位も頭脳もなにもかも、妻にかなわぬと妬心を抱き続けたお父様。

 これ幸いと涙をぬぐう振りすらみせず、長く囲った愛人を、平民女をいきようよう、後妻に迎えてさらにまた、わたくしと同い年の娘をば、これぞ本当の娘だと、妹として連れてこようとは……厚顔無恥のこの所業……


 こちとら笑顔も止まらず妙な節回しにもなろうってもんじゃあございませんの!!!


 といいますのもお察しでしょうがわたくし前世の記憶がありまして。


 ありましてといいますか義母が来て以降のテンプレいじめの中、メイドに汚水をぶっかけられて思い出したのですがこの世界は前世で読んだネット小説「聖なるいびられヒロインは聖女でした!」という素晴らしい作品の世界であり、わたくしこそが主人公、いびられヒロインことメアリ・フォーチューンだったのです!

 

 内容としてはまさにテンプレ、いびられ倒してスパダリに見そめられてざまあするやつです。

 気づいた瞬間わたくし嬉しさのあまり昇天するかと思いましたの。

 あたおかとお思いでしょうか。あまりの境遇に叶わぬざまあの夢を抱いたとお思いでしょうか。


 違うのです。


 わたくし嬉しかったのです。


 大好きな……本当に大好きなこの作品の、大好きな大好きな主人公の境遇になれたこと……。


 決して人気のある作品ではありませんでした。

 というかあんましでした。


 ドアマット部分が長すぎたのです。延々いびられ続けるのです。ざまあ回どこだよってなるやつだったのです。


 だからこそ……


 愛していたのです……



 

 わたくし、どMなのです!!!




♡…♡…♡…♡…♡…♡…♡…♡…♡…♡…♡


 わたくしの朝は早い。


 薄暗く冷え切った屋根裏に日が射す前、床板にそのまま、ボロ布一枚かけて寝ていたわたくしは冷え切って軋む体を起こします。


 きっついですわ〜たまりませんわ〜わたくしかわいそうですわ〜


 わたくし健気な清らかヒロインなのでそんな境遇でも「んっ♡」という笑顔を浮かべ、いまだ暗いままの窓を見上げます。


「ちゅうちゅう」

「おはようネズミさんたち!今日も素敵な朝ね!」

 わたくし清らかヒロインなので屋根裏にお住まいのお友達のネズミさんたちにおはようの挨拶をします。


「ちゅうちゅう」

「あら!そんなお顔をしないで!

 昨日はそれはあまりいい一日じゃなかったかもしれないわ。だけどそれなら、今日がよりよい一日になる可能性がそれだけあるってことじゃない!」


 ♪「「「こんな嬉しいことってないわ〜〜〜」」」


 ネズミさんたちと唱和して、はつらつウキウキとハシゴを降りて皆を起こさぬよう「シーッ!」のポーズで廊下を渡り、古びたお仕着せ一枚に素足のままで外に出て、冷たい井戸水をくんでは運びくんでは運び、屋敷の中の瓶に入れの重労働を重ねます。アカギレシモヤケにビシビシきます。


 わたくしかわいそう〜〜〜!たまらんですわ!


 水を溜めたらお掃除です。ここはお屋敷。

 広い邸内を灯りのない暗い中、たった一人でお掃除します。

 はいて拭いてはいて拭いてしているうちに朝日が射して、使用人たちが起きてきます。


 そしてイジワルメイドが床を拭くわたくしの手をぎりっと踏みつけ叱責します。


「まあこのノロマ虫!掃除一つまともにできないなんて!」

 あざーーーーーーーーっっっす!!!!わたくしかわいそう〜〜〜〜〜〜!!!!


 こうしてやる!こうしてやる!とほうきやハタキで叩かれます。


「私たちが起きるまでに終わらせておけと言ってるでしょう!毎日毎日同じこといわせるんじゃないよノロマ虫!」


 ヒュー!わたくしかわいそう〜ッ!!

 こんな広い家ハナからできないとわかってて言ってんだから憎いねもう〜!!よっ!ハンナ(メイド)!でも罵倒にもうちょいバリエーションほしいかな。


 バジャーンと仕上げに雑巾水をぶっかけられてビシャビシャのわたくしを嘲りながら去っていくメイド様たち。

 ポツンと冷えた床に哀れ倒れ伏したわたくしを、物陰にいたネズミさんたちが心配そうに伺います。


「大丈夫よ。心配してくれたの?ありがとう。わたくし優しいお友達を持って世界一幸せよ!」


 はあ〜〜んわたくし健気かわいそう〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!


 ったまらんですわ!


 

 ♡…♡…♡…♡…♡…♡ …♡…♡…♡…♡…♡


 朝食の場にわたくしの席はありません。

 広い食堂の豪華な食卓についているのは父と義母、そして義理の妹です。

 

 母が亡くなってからはや5年、悲しみを胸に閉じ込め、いつまでも泣いていたらお母様だって安心して天国へゆけないわ!なんつって新しい家族を迎えた(まだ目覚める前の)わたくしでしたが、家族の食卓に形だけでも席があったのはほんの僅かの間だけ。


 まあテンプレですわ。

 もとよりあちらに受け入れる気はなく、わたくしの味方たる以前からの使用人追い出しーの古参の家令追い出しーの持ち物うばいーのであっという間にこの様ですわ。わたくしかわいそう〜〜。ヒュウ!


 なもんで家族の接触といえばこの広いお屋敷、そうそうかち合うこともないでしょうにわざわざ呼び出しては嘲笑ったり、掃除やなんやしてるところへやってきては罵倒したり、穴掘って埋めるみたいなお仕事頂けたり、暇だからと鞭打って下さる皆様には毎日頭があがりません。踏んでください。


 ただ残念なのが、わたくし前世の記憶を取り戻したのがつい最近で、お母様亡くなりーの冷遇されーのの大イベントを直接体験してないんですのよね。ほんと憎たらしい以前のわたくし。

 代わってほしいですわ。本人ですけど。



 そんなわけで、ご家族様がお食事をお召し上がりになり、使用人たちが交代交代食事を摂る間、わたくしは邸を追い出されます。

 おめーに食わせるメシはねえ!ということですの。

 おこぼれもやるもんかってんで調理場立ち入り禁止ですの。

 馬車から邸まで芋袋なんかの重量物は運んだりはしますけどくすねたり致しませんのよわたくし清らかですから。


 わたくし健気でかわいそう〜〜〜〜〜〜!!!!ラブ!!!


 なので、その間は森へつづくお庭にでて、木苺なんかをお友達の小鳥さんたちと摘みます。

 これがご飯ですの。原作通りの清らかヒロインです。飢餓は辛い。あの作者は玄人ですわ〜〜。あざます!


 束の間穏やかな時間を過ごしていると、思わずため息が溢れます。


「お母様……どうしていってしまわれたの……」


 思わず涙が溢れます。

 覚醒したのは最近ですが、以前の記憶もあるのです。


 お母様が徐々に弱っていかれ、ついに召されるまで…あの辛い日々、そしてその時はいま思い出しても胸が張り裂けるように痛みます。

 葬儀に目も合わさず、早々に愛人を連れてきたお父様、同い年の妹、おいだされた乳母、優しい庭師のお爺さん……


 マジで序盤のいいとこ全部損した!!!!!


 記憶はあるんですのよ〜〜〜。あるですのよけど覚醒してたらどんだけ……どんだけ……


 はあ…。

 原作ヒロインかわいそうでかわいそうで読んでて羨ましくてヨダレズビズバてめえちょいそこ代われやと思ってましたけども本当に代わってまでこんな気持ちになるなんて……。


 いえいけませんわ。

 わたくし原作通りに心から清らかで不当に虐げられるヒロインでいなければ……!!

 望んで虐げられるなど飽き飽き……じゃなくてあってはならない、まして己の行いから罰せられるなど当たり前。それってほんとにただの罰。


 なんら瑕疵のないままひたすら不当に虐げて頂けるからこそ、辛くたって苦しかったって大丈夫、きらり笑顔のやせ我慢。

 艱難辛苦の波を越え、そばかすなんて気にしない、てへぺろ笑顔の心を持って、耐えてこらえて明るく元気に涙を拭い、なぜわたくしがの悲痛をのみこみ笑顔で前を向いてこそ、このわたくしは…!

 このわたくしは、より純粋に哀れで情けなく、芯からかわいそうな存在へと昇華して、ああこんなに頑張ってるのになのになぜ!こんなに愛らしくかわいらしく心清らかで正しく頑張り屋さんのこのわたくしがなぜに、こんなにも道理を外れたひどい目に!!!

 ……という心引き絞るような悲しみを得られるのですから…!


 わたくしが清らかであればあるほどに、心美しくあればあるほどに、何も悪くないのになぜ!という世界の仕組みから虐げられているような……っつーかそうなんですけどもいかにも哀れな、神よなぜ!

 という罪一つなければこそ味わえるこの甘美な苦しみを……じゃなくて煉獄の悲痛を噛み締めることができるのですから……!


 なもんでこの奇跡の世界を維持すべく、原作踏襲して動物と話したりしてるのですわよ。キヨラカキヨラカ。


 とはいえ序盤の垂涎イベント「欲しがり妹の奪い尽くし」もすでに…あああれを直に味わえたならどんだけ……どんだけ……うう……わたくしかわいそう……


 でも


 キラリッ☆

 わたくし涙を堪えて明るい笑顔で空を見上げます。


 まだ婚約者がいます!!


 正確にはまだいません。これから婚約するのです。政略で。そして勿論盗られます!!!ウヒョーーーーー!


 実は婚約者とは母が存命の頃旅先で偶然出会っておりまして、互いに一目惚れしたわたくしたちは、幼いながらに未来を誓い、しかし当時事情があって、互いに身分を明かさぬままにさようなら。

 身なりからしてお貴族同士、いずれどこかで会えるだろうと淡い期待をそのままに、どこの誰ともわからずに、ただ焦がれるままに早や数年、母を亡くしたわたくしは、辛い日々の中にもただひと匙、彼への想いを光とし、婚約者もまた遠い遠い空の下、わたくしを思い続けていたものでした。

 ところがなんの運命のいたずらか、これがたまたま玉袋、政略からの結婚とあいなりましては果たして運命の再会なるやと思いきや、わたくしはすぐにあっあの時の…!と頬を赤らめ気づいたものの残念無念、母を亡くして様子の変わった今のわたくしこの姿、初恋の君とは彼はつゆほど思いもせずに、自分に惚れてわがままに、無理に婚約ねだった強欲女と思い込み、嫌いに嫌い嫌いぬき、そこへ妹がいざしゃしゃらんとその女の子って実はあたし!とあざとく可愛い笑顔でド嘘をついて、まんまと運命の君となり、長年辛い日々を支えてくれたあああの思い出すらも失って、どうしてなぜと絶望するわたくしに、二人揃って恋を引き裂く悪魔めと、今から楽しみチクチクわやわや正義と信じて嫌がらせ、いいえあれはわたくしですと言ったところで信じぬばかりか妹のものを奪おうとする言うた通りじゃああこの嘘つきめこの姉め、と虐める姉と虐められる妹大定番のご褒……ごほっ……ほうほうホラ吹き頂き貴族皆行く学院入れば(入るんですよ)噂は蔓延学園中からイビリイビリのイビリ倒しの三年間から婚約破棄の大糾弾!

 こいつは今からヨダレがとまらんたまらんやったぜわたくし最高ピョンピョンかわいそう〜〜〜〜〜〜!!!!!

 ヒュウ!ズビッ!


 たまらんですわ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!



 ……

 ……

 …はあ…


 問題はその後なんすよね…


 スパダリが…


 スパダリが来る…


 ぽっと出のスパダリが逆断罪してわたくしを「幸せw」にしようとしてきやがるんですのよ…。


 許せませんわ!!!!!


 マジ多様性とか知らんのでしょうかあの方は。けれどマジでぽっと出なので回避方法が思いつきませんの。

 だって全300話のうち298話いびられ話なんですけどもラスト2話で伏線なしにいきなり出てきますのよあれ。

 マジノー伏線。


 てかわたくし…というか原作ヒロインもマジでいびられる以外なんもしてないんでどうしようもないっつーか隣国の王子かなんかつってましたけど何人いると思ってますの。どこの何様ですの誰ですの。


 大好きな小説でしたけれども最後2話だけはなかったことにしておりますの。なんですのあれほんま。やっとれんですわ。


 まあ今から考えたってしょうがないですわよね…


 わたくしはまた空を見上げます。

 まだまだ先は長いのです。


 いまはただ、この幸せな毎日を享受するだけ…!!!


 この世界のかわいそうは、この世界の苦痛はただ一人、わたくしだけのもの…!!!

 

 甘酸っぱい木苺をもぎとって、元気いっぱい噛み締めます。


 くう〜〜〜っ!!

 ったまらんですわ!!!!


目にとめていただきありがとうございます!

不慣れで変なとこあったらすいませんm(_ _)mご指摘頂けましたら幸いです。

たくさんの素敵な作品に憧れて夜中の勢いのままぽちぽちしたものの読むのと書くのじゃ大違いで(当たり前〜!)改めてすごいなあ〜てなりました。

ありがとうございました!

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[良い点] ドM主人公大好き侍です 散々虐められてるのにアヘアヘして喜んでるのを見るのは堪らんのです つまり私もドM …!?
[良い点] 「これがたまたま玉袋」 もうこの一言に全て持って行かれました。 [一言] ヒロインに幸あれ!
[一言] そう言えば、小公女セーラも最後の一話くらいがざまー回だったよなとふと思い出した
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