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【書籍化・コミカライズ】自分を押し売りしてきた奴隷ちゃんがドラゴンをワンパンしてた  作者: 溝上 良
第3章 転移者の報復編

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第69話 どうか、生き残ってほしいですね

 










 結局、俺はこの踏み絵に従って禍津會と戦う羽目になった。

 心の底から嫌で、嫌すぎて嘔吐しそうになるという元居た世界での日常を思い出させるが、仕方ない。


 あの状況で拒否すれば、どうなったことか。

 全員が奴隷ちゃんに皆殺しにされる可能性もあったのである。


 俺は、彼らのことを未然に救ったということになる。

 感謝してほしいものだ。


 そして、望月は当然のことながら禍津會との戦いに参戦する。

 むしろ、望むところだという感じだろう。


 もともと、転移者の地位向上のために禍津會のことを追っていたのだ。

 姿を隠していた彼らが表に出てきて、好都合と言えるかもしれない。


 一方で、乗り気でない転移者もいる。

 俺とか、俺とか、俺とか、アイリスとかだ。


 望月のパーティーに参加している彼女は、当然リーダーである彼が参戦を決めたのであれば、それに従う。

 だが、内心は複雑なのだろう。


 名前まで変えて転移者ということを隠そうとしてきた彼女だ。

 幸い、望月が転移者であることは公然の事実だとしても、彼女が転移者であることは、ほとんどばれていないように見える。


 知っていたとしてもギルド側くらいだろうが、職員のどこまでそれを知っているのかは不明だ。

 久しぶりに会えたこともあるし――――いや、割と頻繁に俺の家に来ているな、こいつ――――少し話すことにした。


「お前、大丈夫なの?」

「……ええ。いつかこういう日が来るって言うことは分かっていたもの。あたしもこの世界の人間のふりをしているけど、いつかバレるでしょうね」


 笑っているアイリスだが、顔は青ざめている。

 転移者であることから、彼女はかなり悲惨な目に合ってきた。


 一種のトラウマなのだ。

 そこを刺激されて、愉快でいられるはずもない。


「まあ、しばらくは隠しておいた方がいいだろうがな。今、この世界の転移者に対する感情は最悪だから」


 俺から言えることは、その程度だ。

 禍津會との戦いが目前に迫っている中、事情を知った冒険者や兵の中では、転移者への感情は恐ろしいほどに悪化している。


 今まで数々の功績を上げてきた勇者パーティーだとしても、転移者とカミングアウトすると、やはり色々と弊害が生じることになるだろう。

 禍津會との戦いに参戦すると決めた俺にさえ、心のない言葉はもちろんかけられたし、何なら実力行使してこようとする者すらいたのだから。


 なお、そいつは奴隷ちゃんの手によって叩きのめされた模様。


「この戦いで功績を上げれば、後でカミングアウトしてもダメージは最低限にできるだろ。頑張れよ」

「あたしのメンタルケアをよろしく頼むわ」

「……胸張って誇らしげに言うことじゃないんだぞ、お前」


 大きな胸を揺らすアイリス。

 メンタルケアは望月に頼め。パーティーだろ。


 そんな会話をしていると、俺たちは目的地に着く。


「さて、頑張るか」

「……そうね」


 場所は、滅ぼされた主要都市。

 俺たち冒険者は複数に分かれ、いまだ都市にのさばる禍津會のメンバーを討伐する作戦に出ていた。










 ◆



「さすがの姫様でも、この展開は想定外だったんじゃない?」


 ユーキがニヤニヤしながら聞いてくるので、ベアトリーチェは表には出さず、しかし内心では割とイラっとしながら答えた。


「一応、想定はしていましたよ」

「あれ、そうなんだ?」


 意外とばかりに目を丸くするユーキ。

 誰も想定していなかったからこそ、今禍津會によって主要都市がほとんど落とされるという異常事態になっている。


 しかし、ベアトリーチェは時期こそ見誤ったものの、いずれこういうことが起きるであろうことは想定していた。


「転移者の置かれている立場というのは、非常に厳しい。復讐心を持つのは当然と言えるでしょう。奴隷という立場ではどうすることもできないでしょうが、自由を手に入れた状態だと、いずれ爆発するのではないかと思っていました」

「じゃあ、これも想定内?」

「いつか起きるであろうとは思っていましたが、このタイミングで、かつこれだけ大規模にとは思っていませんでした。だから、想定外と言えるでしょう」


 あまり認めたくないが……。

 そう内心で呟くベアトリーチェ。


「まず、これほど高度に組織化されているとは思ってもいませんでした。それに、構成員の絶対数が少ないので、しばらく動きようがないと思っていたのですが……まさか、個の能力がこれほど高いとは。ならば、少数でも行動を起こしたことは理解できます。ちゃんと勝算があるんですね」


 破れかぶれの暴走であるならば、まだ理解できる。

 しかし、そうなら主要都市がほとんど落とされるというようなことはなかっただろう。


 ベアトリーチェだけでなく、すべての人が禍津會の戦力を見誤っていた。

 その結果が、今の惨状である。


「で、どうするの? 姫様もやられっぱなしでいるような人じゃないし」

「私をなんだと思っているのですか……。そもそも、この事態に私が当事者となって対応することはありませんよ。お父様とお兄様がやられることでしょう」


 やはり、こういった緊急事態でもベアトリーチェが積極的に意見を言うことは許されない。

 しかし、ユーキは知っていた。


「でも、何か入れ知恵をしていたよね?」


 コソコソと、父である王に何かを伝えていたことを。

 直接的には何も言っていない。


 こうするべきだとか、そういう具体的な話は何もしていない。

 そんなことをしようとすれば、父はまともに取り合ってくれなくなるだろう。


 だから、抽象的に、遠回しに、誘導するように文章をつなげた。

 今頃、父は自分で思いついたと思い込んで色々と動いているが、ほとんどがベアトリーチェの考えに沿って動かされていた。


「……ちょうどいい機会だと思いました」


 相手がユーキなら、隠す必要はない。

 薄く微笑みながら言葉を続ける。


「転移者のすみわけをしましょう。禍津會に同調する危険因子と、そうでない転移者たち。後者には、当然手厚く報酬を支払い、これからも優遇することを約束しましょうと提言しました。転移者風情に、という考えはあったようですが、主として戦ってもらうのは転移者なのですから、当然ですね」


 理人の予想通り、転移者の踏み絵を用意したのはベアトリーチェであった。


「へー。転移者にそんな大盤振る舞いしてもいいの?」

「構いませんよ。この戦いに参戦する転移者の地位を向上させるだけです。これからやってくる転移者や敵となった転移者は含まれませんから」

「つまり、今と変わらない社会構造ってわけだ」


 うんうんと満足そうにうなずくユーキ。

 転移者を毛嫌いする彼女は、転移者が最下層にいる社会構造のままだと聞いて、ほっと一安心だ。


「もうこの構造は変えられません。それこそ、とてつもなく大きな変化がなければ」

「それこそ、革命とか?」

「そんなものを起こさせるつもりはありませんが」


 革命が起これば、王族は間違いなく排斥されることだろう。

 ベアトリーチェは別に王族という立場にこだわりがあるわけではないが、仮にそうなると諸外国に弱点をさらけ出すようなことになる。


 そのため、革命を起こさせるわけにはいかない。

 ベアトリーチェの孤児院出身の手駒を使って色々と暗躍しているため、革命の芽が出た瞬間潰している。


「姫様が全権を振るえたら、だよね?」

「お兄様も愚鈍ではありません。ある程度はうまくできると思いますが……まあ、何かなければ私が表に出ることはないでしょう」


 兄が完全にすべてうまくできるとは言っていない。

 愚鈍ではないが、ベアトリーチェに比べれば明らかに劣る。


 とはいえ、彼も優秀ではあるのだ。

 ベアトリーチェが異常なまでに頭の回転が速いだけで。


「それよりも、リヒトさんには申し訳ないことをしました」


 すっかり兄に対しての興味は薄まり、今は理人のことである。

 何とか自分の手駒になってくれればいいのだが……。


 しかし、必要なこととはいえ、戦場に無理やり引きずり出したということは、相手にいい感情を抱かせないだろう。

 それは、とても残念だ。


「転移者の選別にはとても効率的じゃん」

「理屈で分かっても感情で納得できるかは別ですよ」


 転移者嫌いであり、自分が負かされたこともあってか、ユーキは厳しい。

 そんな彼女に苦笑しながら、ベアトリーチェは理人に思いをはせた。


「どうか、生き残ってほしいですね」




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