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第5話 これ、ドラゴンやんけ……

 










 ワイバーンの討伐依頼。

 それが、スタルトによる指名依頼の内容だった。


 ワイバーン。

 四足歩行の空飛ぶトカゲ。


 一般的には、ドラゴンと同一視される凶悪な魔物だ。

 ドラゴンとの違いは、高い知性を持つドラゴンに対して、ワイバーンは他の魔物と同じ程度の低い知性しか持ち合わせていないということ。


 ドラゴンなら話をして解決するということもあるのだが、当然ワイバーンには言葉すら通じないので、その解決策はない。

 つまり、倒さなければ絶対に解決しない。


 と言っても、ドラゴンの中でも種類があり、長く生きていればいるほど知能が高くなる。

 人間の言葉を理解し、話ができるレベルとなると、少なくとも数百年は生きていないと無理だろうが。


 だというのに、ワイバーンは非常に強い。

 天災そのものとして語られるドラゴンには遠く及ばないが、魔物の中では最上級の危険度と強大さを誇っている。


 硬い鱗は簡単に刃物や魔法を通さず、鋭利な爪と牙で人体なんてたやすく引き裂ける。

 そして、焔のブレスを吐くことができる。


 一体でそれなりの規模の街が潰れるという事例すらあったほどだ。


「なぁんでそんな化け物の討伐依頼に、俺しか指名しないんだよ、スタルトさんさぁ……。国に言って軍隊動かしてもらえよぉ……」


 俺はどんよりと肩を落としながら歩いていた。

 つらぁい。


 ワイバーンなんて化物、国軍が動くべき事案だろう。

 なんで一冒険者、しかもろくに活動していない俺にパスしてくるんですかねぇ……。


 すると、奴隷なのになぜかズンズンと前を歩く奴隷ちゃんが言う。


「国は動きが遅いですからね。迅速に動いてくれる冒険者に依頼したのでしょう、マスター」

「だとしても一人に依頼するのって絶対に間違っているよな?」


 最低でもパーティー。

 できれば、複数のパーティーで対応するべきなのが、ワイバーンである。


 まあ、俺も奴隷ちゃんと行動しているから、パーティーと言えなくもないんだけど……。

 でも、違うじゃん……。


「いえ、間違っていません。私なら片手で捻り潰せますから」

「ワイバーンを片手で捻り潰す奴隷ってなに? もう全然俺から離れられるじゃん」


 今歯向かわれたら、俺絶対に死ぬ。

 ワイバーンを片手で瞬殺する奴隷とはいったい……。


「奴隷は奴隷ですよ。いつまで経っても。だから、私はずっとあなたのものです、マスター」

「奴隷から解放させてあげようか?」

「嫌です」


 なんでぇ?

 無表情でバッサリ切り捨てられて、俺は激しく困惑する。


 奴隷から解放されるって、めっちゃ嬉しいことじゃないか?

 ……まあ、俺は虐待とかしていないから、そう言う意味では暮らしやすいのかもしれないけど。


 俺は奴隷から解放されるとき、すっげえウキウキだったもんなあ。


「それで、今回のワイバーンはどういう生態なんだ?」

「どうやら、街と街をつなぐ道の近くに巣をつくってしまったようです。そこを通る旅人や商人を食べて、人間の味を覚えてしまったんですね。このままではあの街にも人が集まらなくなるので、その処理を頼まれたということです」


 奴隷ちゃんからの報告を聞いて、心底嫌になる。

 人間を食べ物として認識した魔物や動物は恐ろしい。


 それがワイバーンともなればなおさらだ。

 そんな奴と殴り合いなんてしたくない。


「これって領主の仕事だよな? なんでスタルト家がやっているんだ」

「超お金持ちですからね。商人とのつながりもあるのでしょう。こういう危機的な状況に動いてこそ名家という箔が付きますから」


 俺に指名依頼をしたスタルト家は、この地域の領主ではない。

 一般に、名家と呼ばれる金持ちの家だ。


 ノブレスオブリージュだっけ?

 そういうのを発揮したみたいだ。


「結局動かされるのは俺たち零細冒険者なんだけどな」

「札束ビンタですよ、マスター」

「みっともねえ。けど、逆らえねえ……」


 お金、欲しいからなぁ。

 やっぱ、世の中お金なんだな。


 施しを受ける側の俺は、それを強く思い知った。


「スタルト家に逆らって不興を買えば、少なくともあの街では生きていけませんしね」


 奴隷ちゃんの言う通り、断ることもできない。

 指名依頼を断るということは、依頼者の顔に泥を塗ること。


 そして、スタルト家にそんなことをしてしまえば、金の力で潰されるだけだ。

 まあ、家全体が俺を……というよりかは、【あの女】が俺を指名したんだろうけど。


 どちらにせよ、スタルト家で絶大な力を誇っている彼女の機嫌を損ねればいいことは一つもないので、結局俺は従うことしかできないのだ。


「しかし、巣を探さなくてもいいのか? ただ歩いているだけだが」

「人間の味を知って狩場を覚えてしまったので、こうして歩いているだけであちらから寄ってくると思います。いざ来たら、マスターが一撃で殺せますしね」

「俺を魔王かなんかだと思ってんの? 勇者パーティーなら倒せるだろうが、俺は無理だぞ。ドラゴンほどにないにしろ、ワイバーンも化け物みたいに強いし」


 奴隷ちゃんはやけに俺を高評価してくれているが、無理である。

 ワイバーンを片手間のうちに捻り潰せるのなんて、この世界でどれほどいるのだろうか?


 それこそ、俺を軽蔑していたアイリスたちならば、何とでもなるのだろうが……。

 しかし、奴隷ちゃんは何を勘違いしたのか、肘で突いてくる。


 フランクすぎない?


「またまたー」

「謙遜なんてしてねえよ。俺の身体を見ても、戦う奴の身体じゃないだろ」


 自慢じゃないが、俺は痩せ気味だ。

 まあ、この世界で太っているのなんて、よっぽど裕福な奴しかいないが。


 しかし、冒険者なんていう現場職は、激しい動きに耐えられるようしっかりとした肉付きの奴が多い。

 優斗やアイリスもスラリとしながらも肉付きはいいし、ルーダなんてゴリゴリだ。


 ゴリラみたいにゴリゴリだ。

 だが、俺はヒョロヒョロだ。


 だから、ルーダが軽く触ったつもりでも、俺にとってはかなりの衝撃になるほど。

 そんな身体を自慢げに披露すると、奴隷ちゃんはじっと見てくる。


「……それは――――――」

「ゴアアアアアアアアアアアアアアア!!」


 奴隷ちゃんが何かを言おうとした瞬間、とてつもなく巨大な咆哮でかき消された。

 彼女の言う通り、わざわざ巣を探さなくても、あちらから見つけてくれたらしい。


「……本当、何でスタルト家は俺に指名依頼なんて出したんだよぉ」


 そう嘆く俺の眼前に降り立ったのは、探していたワイバーン……ではなかった。

 これ、ドラゴンやんけ……。




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その聖剣、選ばれし筋力で ~選ばれてないけど聖剣抜いちゃいました。精霊さん? 知らんがな~


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