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【書籍化・コミカライズ】自分を押し売りしてきた奴隷ちゃんがドラゴンをワンパンしてた  作者: 溝上 良
第1章 やばい奴隷とやばい貴族編

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第23話 転移者の勇者

 










 森の中で激しい戦闘音が鳴り響く。

 戦っているのは、二人の人間と一体の魔物。


 魔物は巨大な木の怪物であった。

 木の根や幹を自在に操り、鋭い先で串刺しにしてやろうと襲い掛かる。


 とくに厄介なのが、地面からの唐突な突き出しである。

 どのように動いているか見ることができないため、ちょっとした一瞬の振動を受けて、人間たちは避けるしかない。


 普通の人間なら、とてもじゃないがそんなことはできない。

 あっけなく串刺しにされて死んでしまうことだろう。


 だが、彼らは特別だった。

 見事な身のこなしでその不可視の攻撃を容易く避けていく。


「はあああああああっ!」


 その二人のうちの一人。

 アイリスと呼ばれ、勇者のパートナーとして知られている。


 彼女は魔法で強い暴風を産みだす。

 本当なら炎で一気に燃やし尽くしたいのだが、そうすると森全体がとんでもない火事になってしまうので、使用できない。


 しかし、風の刃は木の根や枝を容易く破壊する。

 すると、完全に無防備な魔物が出来上がる。


「優斗、今よ!」

「ああ! これで、終わりだ!」


 アイリスの呼びかけに、勇者――――望月 優斗が応える。

 言われるまでもない。


 彼はすでに動き始めていた。

 アイリスの能力を信頼しているからこそである。


 木の枝による刺突が来ないと分かっているため、魔物よりもさらに高い場所に跳ぶ。

 掲げるのは、勇者に使用が許される聖剣である。


 切れ味などは、そこらで売られている鉄剣とは比べものにならない。

 加えて、優斗の優れた技術によって、巨大な木の魔物は一刀両断され、見事討伐されるのであった。


 それを見届けた優斗は、聖剣を鞘に納めると、ふっと気を抜いて笑顔になる。


「ありがとう、アイリス。君のおかげで、またこんなにもスムーズに魔物の討伐ができたよ」

「何言っているのよ。あたしの力なんて大したことないわ。優斗の力があってこそよ」

「そう言ってもらえると、僕も嬉しいよ」


 お互い称え合う二人。

 理想的なタッグになっていた。


「しかし、魔物というのは恐ろしいね。僕たちの世界には存在しない、人類に仇為す魔性の生き物。この世界の人たちを救うために、何としても駆逐しないと」

「でも、あっちの世界で言う動物みたいなものなんでしょ? 全部を絶滅させるって、相当難しいと思うけど……」


 苦い顔をするアイリス。

 それに対し、コクリと頷く。


「確かにそうだね。絶滅は難しいかもしれない。でも、こうして魔物を討伐して依頼をこなし、人々を助けていれば、この世界の人たちも僕たち転移者を認めてくれるようになるよ。今もこの世界にいる同胞、そしていずれやってくるであろう後輩たちのためにも、頑張らないとね」

「……そうね」


 神妙な顔をして頷くアイリス。

 優斗は、転移者の地位向上という大きな目標を持っていた。


 何も知らないこの世界にいきなり放り投げられ、困惑し、つらい思いをしている転移者がいることは知っている。

 だから、彼らの立場が少しでよくなるよう、彼はこの世界の人々に認めてもらえるよう、熱心に依頼を受けている。


「ところで、最近転移者を探しているみたいだけど、どうしたの?」

「今、この世界で生きている転移者の人たちと連絡を取り合いたいと思っているんだ。連絡網みたいなものができれば、お互い助け合うことができるんじゃないかと思ってね。いずれは、互助会のようなものを作ってみたいと思っている」

「それはいいことね」


 自分の意志で他人に連絡を取れるような状況に転移者がいる可能性は、限りなく低いだろうが。

 アイリスは、わざわざそんなことを言うことはなかった。

 優斗はそれを聞いても決して決意を変えないだろうし、たとえ言っても何も事態は好転しないからだ。


「それに、最近は危険な連中が暴れまわっている。転移者も、それに巻き込まれないようにしてほしいと思ってね」

「ああ、禍津會だっけ? 仰々しい名前よね」


 迷惑極まりない連中だ。

 二人そろって眉を顰める。


 元の世界で言う、テロリストと言われる連中だ。

 いや、明確な大義が伝わってきていない分、それよりも質が悪いかもしれない。


 まあ、たとえ大義があったとしても、あまり聞きたくないと優斗は思っていたが。

 無為に人々を殺し、何かを破壊するような連中のことを、知りたいとは思えないからだ。


「どのような理由があろうとも、世界を破壊したいだなんて、とんでもない連中だよ。転移者ももちろんだけど、この世界の人々も守ってあげなくちゃいけない。僕に力があるのは、それを為すためだと思うんだ」

「結局、理由とかは分からないのよね。主要な構成員を誰も捕まえることができていないし、そもそも理由をペラペラと喋るような連中でもないみたいだし」


 禍津會は、ほとんど知られていない。

 分かっているのは、名前と世界を破壊するという目的くらいだ。


 どうしてそのような目的を掲げているのか、構成員は何人いるのか、どういうバックグラウンドを持つ構成員がいるのか、組織形態はどうなっているのか。

 そして、リーダーが誰なのか。


 これらがすべてわかっていない。

 そのため、世間一般にその名前が知られているというわけでもなかった。


 国家の治安を担う職種のごく一部が知っているという感じだった。


「愉快犯というわけではないんだろうね。だからこそ、余計に厄介で危険なんだけれど」


 何も分かっていないということは、どこを拠点にしているかもわからないということ。

 そもそも、資金源はどうなっているのかもわからない。


 神出鬼没なため、優斗も頭を悩ませていた。

 どうしても、自分とアイリスだけでは手が回らない。


「だから、強い人には僕と一緒に禍津會と戦ってほしいんだけど……」

「あいつはダメよ」

「い、いや、何も言っていないんだけど……」


 バッサリと斬り捨てたアイリスに、優斗は苦笑いする。

 誰とは言っていないのだが、彼女はお見通しのようだ。


「リヒトでしょ? あいつは嫌」

「ほ、本当にアイリスはあの人が嫌いなんだね」

「……まあ、そうよ」


 プイッとそっぽを向くアイリス。

 リヒト。冒険者であり、高い能力を持っている、とされている。


 実際、優斗は直接彼の戦っている姿を見たことがないので、あくまで結果から推測しているに過ぎない。

 依頼の達成率は百パーセントであり、確実にこなしている。


 名家スタルト家からも信頼されていて、時々指名依頼を受けている。

 指名依頼というのは、依頼されるだけでその冒険者の能力の高さと信頼度の高さを明確にする。


 すなわち、リヒトは非常に優れた冒険者というのは、間違いない事実だった。


「でも、力は確かなんだ。僕たちと同じ転移者で、あれだけ成功している。やる気さえあってくれたら……」

「ないわよ、あいつ」

「うーん、まあ……」


 直接見たことがないから、明確に否定できない。

 優斗が困っていると、さらにアイリスが言葉を続ける。


「それに、あいつというより、あいつの飼っている奴隷の方が凄いんじゃないかしら」

「ああ、あれは確かにすごかった。あんなに強い人が、世の中にいるなんてね。それも、奴隷。何があったのかは知らないけど、凄く興味があるよね」


 優斗はすぐに同調した。

 リヒトの戦いは見たことはない。


 だが、奴隷ちゃんの戦闘はあった。

 それは、たまたま依頼の帰りに見たという感じだったし、一瞬で戦闘が終わったから、詳細に力を把握できたわけではない。


 しかし、奴隷ちゃんはたったの一撃で魔物を屠っていた。

 しかも、素手で、魔法を使った様子もなく。


 優斗は、確かに彼女に手助けしてもらえれば、とてもありがたいと思った。


「確かに、あの奴隷の子の力を借りたいよね。なら、なおさらリヒトに協力してもらわないと」

「…………」


 苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべるアイリス。

 余計なことを言ってしまった。


 話題を変えたかっただけなのだが、奴隷となると、その主人に助力を求めるのは当たり前だった。

 この世界の常識であり、優斗はその常識に則った。


「それに、いい機会だ。話したかったんだ、リヒトと。奴隷を飼うということは、いけないことだよ。僕は、それを直接伝えたい」

「え、それを言っちゃうの?」


 ギョッとするアイリス。

 この世界の常識を、覆そうというのだ。


「うん。リヒトと話をして、奴隷を解放してもらって、僕たちと一緒に禍津會と戦ってもらう。それでいこう!」

「えぇ……?」


 キラキラと輝く表情で言う優斗を、アイリスは微妙そうな顔で見つめるのであった。




第1章は以上となります。

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その聖剣、選ばれし筋力で ~選ばれてないけど聖剣抜いちゃいました。精霊さん? 知らんがな~


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