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第16話 ご、ご臨終?

 










「――――――」


 フードを深くかぶっているせいで、こいつの顔は覗けない。

 しかし、少々驚いているような雰囲気は感じ取れた。


 まさか、間に合うとは思わなかったのだろう。

 俺も思わなかったもん。


 これ、絶対後で苦しむ奴だ。

 俺、知ってるんだ。


 一度魔法の壁ではじかれたフードは、ありえないほど身軽にぴょんぴょんと跳ねて距離を取った。

 よかった。連撃とかされていたら死んでいた。


「……助かったわ、理人。死ぬと思ったことは何度もあるけど、久しぶりだから怖かった」

「いやあ、ギリギリだったけどな。守りながら戦うのってかなり大変だし、俺から離れないようにしてくれな」


 俺はそう言いつつも、フードから目をそらさない。

 そらせば、瞬く間に殺される。


 そう思ったからだ。

 元国軍の兵士とはいえ、これほど強い奴が傭兵にいるとは思わなかった。


 実力からするとこいつがリーダーのポジションでもおかしくないはずだが……。

 まあ、能力の高さがそのままリーダーになるかと言われればそうではないか。


 ともかく、舞子さんを守護らねば……。

 そう思っていると、むにゅりと柔らかい感触が背中に。


「分かったわ」


 大きな乳房を背中に押し付ける……というか、もうこれ完全に抱き着いていない?

 そんな状態になっていた。


 ……うん、近すぎね?


「あなたが離れるなって言ったんじゃない」

「いや、まあそうだけど。……俺が奴隷ちゃんみたいな戦い方だったら、あんた振り落とされているぞ」


 拳で抵抗する系女子である奴隷ちゃんに引っ付いたら、一秒と持たずに吹き飛ばされることだろう。

 あと、この死線で他人に抱き着く余裕があるというのは羨ましい。


「そうじゃないことを見越して密着しているの。偉いでしょ」

「ついさっき死にかけたのにこういうことを言えるのは偉いと思う」


 煽りでも何でもなく、純粋に心から思っていることだった。

 まあ、俺の戦い方は奴隷ちゃんとは違い、魔法なんていうこのクソ世界特有の不思議な力を行使するものだから、これでも大丈夫なのだが。


「いちいち【命の危機程度】でうろたえていたら、身体が持たないわよ。あなたもそうでしょう?」

「……確かに、そうだな」


 元奴隷という立場だからこそ、俺と舞子さんは頷き合った。

 そうだな。元の世界ではほとんど感じなかった命の危険。


 この世界では、それはとても当たり前なものだった。

 一歩横に逸れれば、簡単に命を落とす。


 そんな世界で、あれこれ警戒していたら、メンタルが壊れてしまうだろう。

 俺はふーっと息を吐いて切り替える。


「よし、とりあえずどうやって見逃してもらうかだな」

「殺せないの?」

「多分、めっちゃ強い。俺、やられる」


 なんとなくだが分かる。

 油断なく見据えてくるフード。


 俺、絶対に勝てないわ。


「じゃあ、時間稼ぎと逃げしかないわね。多分、イビルがちゃんとした警備の私兵を遠ざけていたのでしょうけど、この騒ぎで駆けつけてくるはずよ。いくら強くても、数で押せば潰せるわ」

「……それで潰れてくれるような奴ならいいんだけどなあ」


 戦いは数だ。

 どれほど強い英雄と称される者でも、三日三晩襲われ続けたら一般人にも殺される。


 だが、もちろんスタルト家の私兵にそれだけの数はいないし、このフードから感じられる強さからすると、簡単にいきそうにはなかった。


「で、あんたはやっぱり舞子さんを殺すのか?」

「…………」


 フードは答えない。

 だが、そういうことだろう。


 さて、どうしたものかと悩んでいると……。


「マスター、終わりました」


 ふわりと俺の隣に降りたった奴隷ちゃん。

 刃物を通さない彼女の身体に、傷ついているところは見当たらない。


 しかし、メイド服は血だらけだ。

 チラリと周りを見れば……。


「うわぁお……」


 まさしく、死屍累々。

 襲いかかってきた傭兵たちが、見事に倒れ伏していた。


 うん、そのメイド服の血、全部返り血ですね。

 心配はしていなかった。


 だって、絶対そうだと思ったし。

 俺の視線を感じた奴隷ちゃんは、力強く頷いた。


「安心してください、峰打ちです」

「だから、殴ったり蹴ったりに峰打ちってあるの? 何かみんな弱弱しくピクピク痙攣しているんだけど」


 あっ、何人か痙攣が止まった。

 ……ご、ご臨終?


「大丈夫です。元国軍の兵士ともあろう方々が、奴隷一人のパンチやキックで死ぬはずがありません」

「瀕死だと思うんですけど……」


 ドラゴンをワンパンできる力で殴られていたら、元軍人でも所詮は人間、絶対に死ぬだろう。

 俺に奴隷ちゃんが合流したのを見たフード。


「…………」


 そいつは、一瞬で姿を消した。

 攻撃するためではない、逃げるためだ。


 事実、俺たちに攻撃が仕掛けられることはなく、何も起きることはなかった。

 ほっと一息つく。


 あんな化物と殴り合ってられるか。


「追いかけて殺しますか?」


 奴隷ちゃんがそう進言してくる。

 目にもとまらぬ速さで動けるフードにどうやって追いつくのかとも思うが、奴隷ちゃんはおそらくできてしまうだろう。


 追いつき、捕まえ、殺す。

 すべて完璧に。


 俺が望めば、こなすことだろう。

 ……あれに追いついて殺せると言っているのが怖い。


「あー……いや、いい。それよりも、これの始末をどうにかするか」

「そう、ですか」


 俺がひらひら手を振れば、奴隷ちゃんは一瞬納得いかなそうにするも、コクリと頷いた。

 それより、奴隷ちゃんがやった死屍累々である。


 どうすんだ、これ。


「そうね。これを機に、私を潰そうとしていた勢力を逆に潰してやりましょう。私の、私による、私のためのスタルト家とお金に換えてみせるわ」


 強い決意を抱いた舞子さんが言う。

 この血なまぐさい現場で、凄いことを言うなあ。


 あと、俺が気にしているのはこれからのスタルト家ではなく、目の前の死体一歩手前の物体たちなんだが。

 俺がそう思っていると、舞子さんがニッコリと笑って言ってきた。


「私を助けてくれてありがとう、理人。報酬は私の身体でよかったかしら?」


 何を言ってんだこいつ?


「お金でお願いします」

「マスター?」

「金だって言ってんだろ!!」


 じりじりにじり寄ってくる奴隷ちゃんから逃れる。

 そういうことはしないって言ってんだろ!!




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