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【書籍化・コミカライズ】自分を押し売りしてきた奴隷ちゃんがドラゴンをワンパンしてた  作者: 溝上 良
最終章 自分を押し売りしてきた奴隷がドラゴンをワンパンしてた編
122/124

第122話 ナースコール

 










 俺が入院している病院には、愛梨だけでなく、舞子さんや雪もいた。

 再会を喜ぶと同時に、やはりどうしてこういう事態になっているのかということが、余計に気になってくる。


 そんな俺たちは、テレビの報道番組を見ていた。


『それでは、昨日に引き続き同じニュースをお伝えします。行方不明になっていた人が、数百人突如として発見された事件です。中には、数十年行方不明になっていた方もいらっしゃいます』

『いったい何が起きたのか、専門家の私でもよくわかりません。組織的な犯罪に巻き込まれていた可能性が高いと思いますが……』

『警察もかなり慎重に捜査を進めているとのことです。多くの方々が混乱しているようです』

「……というのが、今の状況みたいよ」


 テレビを消しながら、愛梨が言う。

 アナウンサーと専門家――――いったいなにの?――――が話しているのを見た俺の感想はというと……。


「テレビなんて久しぶりに見たわ」

「僕もだよ。事情も事情だから、外に出ることもできないしテレビくらいしか見ることできないよね。まあ、今出たらマスコミにすっごくしつこく付きまとわれそうだから、出ないけどさ」


 俺の言葉に、雪が同意する。

 あっちの世界では、当然テレビなんてものはなかった。


 どうでもいい報道番組が、こんなにも恋しく感じられるなんて不思議だ。


「で、どうしてこんなことになっているのか、分かるか?」


 やはり、こっちの世界では行方不明扱いになっていたようだ。

 まあ、毎年数万人単位で行方不明者が発生しているらしいし、俺たちはその一部になっていたのだろう。


 ……もしかして、発見されていない行方不明者たちの多くが、あの世界に飛ばされていたのではないかと思うと、ゾクッと背筋が凍り付く。


「分からないわ、本当に。そもそも、あっちにどうして行ったのかもわからないし、戻ってこられた理由も分からないわ。気が付いたらこうなっていた感じよ」

「あたしは、何かすっごく怖い思いをした気が……」


 舞子さんと愛梨が答える。

 舞子さんはまったく分からないという状況で、愛梨は何かがあったということはかすかに覚えているらしい。


 確かに、俺もどうしてあっちの世界に行ったのかはさっぱり覚えていないしな。

 ……こっちに戻ってきたきっかけは、もちろん覚えているが。


「ああ、舞子さんは非戦闘員だし、愛梨も戦うことはできると言っても近接戦闘タイプじゃないから、気づけなかったんだね」


 雪がヘラヘラと笑いながら言う。


「僕たち、あの奴隷にぶっ殺されたんだよ」

「えぇ……?」


 愛梨が呆然とする。

 ああ、やっぱり奴隷ちゃんに殺されたのがきっかけか。


 禍津會を皆殺しにしたって言っていたし。

 ……いや、あれマジだったのか。


 こいつら、マカの力を奪っていなかったら、俺よりもはるかに強いはずなのに、たった一人で。

 やっぱり、えげつない。


「いやー、やばかった。僕も数合しか打ち合えなかったし。はっはー……本当、何なのあの子……?」

「いや、俺に言われても……」

「あんたが飼っていた奴隷でしょうに」


 呆れたように俺を見る愛梨。

 いや、飼いたくて飼っていたわけじゃないというか……。


 奴隷ちゃんが既知であることは分かっていたが、あんなに強くなっていたのは、理由はさっぱりだ。

 本当、何なんだろう……。


「で、リヒトくんもぶっ殺されたんだよね!? いやー、仲間だね!」


 ニッコニコの雪。

 今生きているからだろうが、自分たちが殺されたことをこんなに明るく話せるのは、彼女の性格故か。


 人を嫌な気にさせないのも凄い。

 そして、殺されたという表現で、ふと思い至る。


「奴隷ちゃんに殺された転移者が、こっちの世界に戻ってきている……? そんなことできるはずが……」


 言葉に出すと、すんなりと頭に入ってくる。

 転移者を殺すことで、元の世界に戻す。


 どんな魔法を使っても不可能に思えるが、それをしたのが奴隷ちゃん。

 彼女の姿が脳裏に浮かぶ。


「いや、できそうだな」

「できそうよ」

「できるでしょうね」

「できそうだね」


 ここにいる全員の意見が一致した。

 あの子に不可能なんてない。


 それこそ、神が相手でもぶっ殺してしまいそうだしな。

 俺は苦笑し、そして思い出す。


 奴隷ちゃんが、やたらと俺を助けるということに固執していたことを。

 俺を助けるっていうのは、こういうことだったのか……。


 あっちにいた時は、禍津會を皆殺しにしたということがどうつながるのかさっぱりだったが……。


「じゃあ、やっぱり禍津會のメンバーはこっちに戻ってきているのか?」

「そうみたいだよ。全員同じ病院にいるわけじゃないし、ある程度連絡も制限されているから分かりづらいけど、少なくともあの子に殺された子は、全員戻ってきているみたいだ。響たちも元気だよ」


 雪の言葉を聞いて、思わずほっと胸をなでおろす。

 ただ殺されただけなら、やっぱり悲しいからな。


 しかし、今の言葉から逆説的に考えると、奴隷ちゃんに殺されなかった転移者。

 あっちの世界で騒動が起こる前に殺された彼らは、戻ってくることはできなかったということか。


 つまり、あっちの世界で死んだらこっちに戻ってくるというわけではなく、死は死ということだ。

 奴隷ちゃんが特別だということだろう。


「あと驚いたのは、こっちに戻ってこられた転移者たちの怪我が、完治していたことね。最初から夢だったみたいに」

「……ああ、やっぱり治っているよな」


 舞子さんの言葉に頷く。

 重傷だった自分の身体が、失われていた身体の部位が治っている。


 ずっと体調不良で重たかった身体も、軽くなっている。

 失っていた臓器も回復しているようだった。


 それは、俺だけでなく他の転移者たちもそうらしい。

 基本的にあっちの世界ではロクな目に合っていないから、俺ほどではなくとも、後遺症のある者も多かった。


 それも、全部治っているらしい。


「響が凄く喜んでいたわ。ウキウキでこっちの病院に……というか、リヒトに会いにこようとして止められているみたいだけど。杠も、蒼佑が抑えているようだわ」

「そうか、あいつらも……」


 愛梨の言葉に、俺は頷く。

 響は、とくに重傷だった。


 全身を生きたまま焼かれたわけだから、あの包帯で隠していた。

 それをなくして、元のきれいな肌に戻った彼女。


 どれほど嬉しいかは、本人にしか分からないだろう。


「本当に、あの子に助けられたのか……」


 頭に浮かぶのは、奴隷ちゃん。

 俺のことを助けると言ってくれた彼女。


 本当に、俺は……いや、俺たちは助けられたのだ。


「まあ、怪我もないからやることもなくて暇よね。私も暇だったの。とりあえず、ここでも出来ることをしましょうか」

「……なんで脱いでんの?」


 舞子さんの豊満な胸が躍る。

 おかしいな? 今、しんみりしたいい雰囲気じゃなかったっけ?


 どうしていきなりピンク色の雰囲気を醸し出しているの?

 俺、分からない。


「あ、あたしはまだ精神的に不安定というか……」


 そう言って、愛梨も脱ぎだす。

 舞子さんほどではないが、十分に実った胸も露わになる。


 ……ここ、病院だぞ?

 何を仕出かそうとしているんだこいつらぁ!


 病院でエッチなことができるのは、フィクションだけだぞ!

 まだ唯一残っている常識人に助けを求めることにした。


「……雪、何とかしてくれ」

「え?」

「…………」


 視線を向ければ、いそいそと自分の衣服を脱ぎ捨てている雪。

 ふっと笑う。


 俺はひっそりとナースコールを押すのであった。



次回で最終話です。

最後まで読んでもらえると嬉しいです!


新作投稿しています。

クズな主人公貴族くんがちょっとヤバいメイドたちに振り回されるコメディ小説です。

良ければユーザーページか、下記から飛んで読んでもらえると嬉しいです!

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