表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化・コミカライズ】自分を押し売りしてきた奴隷ちゃんがドラゴンをワンパンしてた  作者: 溝上 良
最終章 自分を押し売りしてきた奴隷がドラゴンをワンパンしてた編
114/124

第114話 人のおもちゃ

 










「げほっ、げほっ! め、めっちゃ痛い……」

「え、あ……?」


 血だらけになりながら、ゆっくりと立ち上がる理人。

 目の前で何が起きたのかさっぱり理解できない少女は、唖然としていた。


 致命傷とまではいかないが、明らかに重傷である。

 それでも、理人は傍から見ればそれほどダメージを負っているようには見えなかった。


 ミムリスの元で鍛えられた結果である。

 そんな理人は、燃える女を見やる。


 正直、すぐにでも鎮火させなければ命の危険がある大惨事である。

 しかし、会話すらしたことはないが、目の前で燃えている女が普通でないことは、理人にも理解できていた。


 この程度で死なないであろうことも、だ。


「よし、逃げるか。こんなのとやり合えるわけないし」


 即決即断。

 よくわからない存在である女とまともにやり合えるとは到底思っていないので、逃走を決断した。


 逃げ出そうとする直前、呆然と見上げてくる奴隷ちゃんに手を伸ばす。


「……行こっか」

「う、ん……」


 あの地獄が始まってから初めて、奴隷ちゃんはかすかな笑みを浮かべた。

 優しい手を掴み、引き上げられる。


 数年にわたる虐待のおかげで、彼女は走るという激しい運動を長く続けることはできない身体になっていた。

 そのため、理人が背負い、走り出す。


 彼もかなりの重傷なのだが、これくらいミムリスの拷問に比べれば大したことはない。

 村を抜け出し、建物の中に隠れながら移動し……。


「で、私から逃げられるとでも?」

「ですよねー」


 当然のように目の前に現れた女を見て、死んだ目を向けた。

 炎に包まれていたはずなのだが、彼女の身体には一切の火傷はなかった。


 何なんだこの異世界本当嫌い、と内心で呪詛を吐くのは理人である。


「あんなちんけな攻撃なんて、効くはずないでしょ。お前の力でもないわね」

「うん、市販」

「し、市販……」


 魔法が込められたアイテムである。

 それなりに高価で使い切りという欠点はあるが、魔法を使えない者も魔法を行使することができる。


 ただ、自分を倒そうと市販のアイテムを使われたということに、なんだか衝撃を受ける女であった。


「私の力なんて、さっき身をもって体感したでしょう。……なんでその傷で平然としているのか知らないけど」

「慣れ、かな……」

「慣れ……」


 こんな重傷を負うのが慣れとはいったい……。

 ちょっと興味がわいてきたが、しかし罰を与えねばならない。


「ま、まあ、ともかく余計なことはしないことね。お前が何をしたところで、そのおもちゃは渡さな――――――」


 話の途中、まったく聞く気のなかった理人は、買い集めていたアイテムをポイポイ投擲した。

 女を中心に激しい爆発が何度も発生する。


 ふーっと一息ついてから、にっこりと奴隷ちゃんに笑いかける。


「よし、逃げるぞ」

「えぇ……」


 助けてもらっているのだが、あまりにもあまりな対応に、ドン引きしてしまった。

 炎の中から現れる女。


 相変わらずダメージはまったくないのだが、話を途中でさえぎられ、身体を煤で汚されたことにより、苛立ちは半端ではない。


「こ、の……! いい加減に……!」


 理人、凝りもせずアイテムを投擲。

 しかし、それは女ではなく、彼女の立つ地面に向けられていて……。


 それが炸裂すると、何度も爆発を受けていた建物は限界を迎え、女の立っていた場所が瓦礫となって崩れて行った。


「ああああああああああああああ……!!」


 悲鳴を上げて落ちて行く女を見て、やり切ったように額を拭う理人。


「うわ、ラッキー。下手をすれば全員生き埋めかと思っていたのに。俺もお前も、まだ死なない運命なのかもな」

「行き当たりばったり……!」


 奴隷ちゃんは戦慄した。

 そうなったら、女はノーダメで、おそらく理人と彼女は致命傷を負っていたことだろう。


 そんなイチかバチかの行動を、一切躊躇なく起こした彼に驚きを隠せない。

 畏怖の念を向けられる理人は、そんな奴隷ちゃんの言葉を聞いて、少し安心したように笑った。


「お、割と喋れるようになったか。それが普通だもんな。もっと普通になれるように、このまま逃げよう」

「いえ、もうおしまいよ」


 女の冷たい声が響く。

 理人の身体から、血が噴き出した。


 それは、先程のものよりも、明らかに深い傷を負わせていた。


「がっ……!」

「逃げられないのよ。特別な力も持たない弱者が、意見を通すことはできない。力がないと、何もできないのがこの世界よ」


 ゆっくりと地面に倒れる理人を見下し、無傷の女が宙に浮かんで上がってくる。


「私のおもちゃに手を出したのが間違いだったわね。その命を持って償いなさい」


 理人の身体から、ゆっくりと赤い液体が広がっていく。

 誰も彼を助けられないから、もはや命が尽きるのは時間の問題だった。


「う、あぁ……」


 それでも、ゆっくりと奴隷ちゃんは理人に近づいていく。

 何もできない。何をしていいのかもわからない。


 それでも、ただ自分を助けようとしてくれた男に、近づいていく。

 ただ、傍にいたかった。


 だが、それを許さないのが女であった。


「さあ、戻るわよ。今のお前は、もっと私を楽しませられるでしょうから」


 女の手が奴隷ちゃんに届く。

 その直前、彼女の手を掴む者がいた。


 血みどろになりながら、目は鋭く光っている理人であった。


「――――――触るな」

「はあ、まだ生きていたのね、死にぞこない」


 女の長い脚が、思いきり理人の身体を踏みつける。

 ゴキッと嫌な音が鳴り響く。


 そして、それを何度も何度も繰り返す。

 血が地面に飛び散り、何本も骨を折られる。


 しかし、それでも理人の手は女の腕を離さなかった。


「……しつこいわね。なんなの、お前」


 額から汗をにじませる女は、理解できない目で理人を見る。

 こんなにも痛めつけているのに、どうしてまた抗うのか。


 しかも、自分のためではなく、今日会ったばかりの少女のために。


「一度助けようとして、やっぱりやめたはおかしいだろ。だから、俺はこの子を見捨てない。お前とも、死ぬまで戦ってやる」

「――――――」


 その言葉は、奴隷ちゃんの胸にスッと入り込んだ。

 初めて。初めて、彼女は自分の味方をしてくれる人を見つけた。


 しかも、自分の命を懸けてでも、守ってくれる人。

 今の状況は、絶体絶命。


 理人は死ぬだろうし、そのすぐ後に自分も地獄に引き戻されるだろう。

 だが、今少女は絶望も悲しみも抱いていなかった。


 彼女の眼に映るのは理人だけだったし、心臓が恐ろしいまでにうるさく鳴り響いていた。


「あっそ。じゃあ、今死ね」


 女は心底見下した冷たい目を向けて、今度こそ殺そうと足を振り上げ……。


「人のおもちゃに手を出したのは、どっちじゃ?」

「なっ……!? お、お前……!」


 聞き覚えのある女の声に、初めて焦りを表情に張り付けた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

新作です! よければ見てください!


その聖剣、選ばれし筋力で ~選ばれてないけど聖剣抜いちゃいました。精霊さん? 知らんがな~


書籍発売予定です!
書影はこちら
挿絵(By みてみん)
コミカライズ版です!
挿絵(By みてみん) 過去作のコミカライズです!
コミカライズ7巻まで発売中!
挿絵(By みてみん)
期間限定無料公開中です!
書影はこちら
挿絵(By みてみん)
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ