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【書籍化・コミカライズ】自分を押し売りしてきた奴隷ちゃんがドラゴンをワンパンしてた  作者: 溝上 良
最終章 自分を押し売りしてきた奴隷がドラゴンをワンパンしてた編
113/124

第113話 いや、死んでないけど

 










 その男――――理人がやってきたのは、本当に偶然だった。

 彼はもう奴隷という立場ではないが、それ以上に危うい状況にいる。


 なにせ、逃亡しているのだ。

 見つかり次第殺されても不思議ではない。


 一応とはいえ、名士であるミムリスを殺害しているのだから、それも当然だろうが。

 そんな彼は、強制的にマカから渡された力を使って、同胞である転移者を少しずつではあるが助け出す行動を起こしていた。


 だが、あまりうまくはいかない。

 マカの力の代償は大きいものだし、なによりその大きな力に振り回され、上手く扱うことができないでいた。


 そのため、今の理人はそれほど強くはなく、あまり無理はできない状況だった。

 そんな理由から、仮に転移者であるならばまだしも、この異世界の人間が虐げられていても無視するのが正解だろう。


 だが、まだ年端もいかない子供が苛烈な虐待を受けているのを見てしまえば、つい声を発してしまった。


「なんだこいつ!? どこから現れやがった!」

「いや、本当に偶然で……」

「あ、あ……」


 この子供は異世界人だ。

 だから、無視して構わない。


 そう自分に言い聞かせてこの場を去ろうとする理人であったが、ゆっくりと近づくボロボロの奴隷ちゃんが、理人の足に縋り付いた。


「た、す、けて……」


 かすれるような声。

 助けを求めると言う行為は、意外と勇気が必要だ。


 それが、まったく見ず知らずの相手であるならば、なおさらだ。

 そうしなければならないほど、まだ小さな子供が追い詰められているという事実。


 それを知って、理人は空を見上げた。


「……異世界人だもんなあ。別に、俺が助ける理由はどこにもない。あんたらに助けられたことも一度もないし」

「黙って遠くに行けば、俺らもあんたを見逃してやるよ。お互いのために、そうしないか?」


 ため息をつく理人に、人間は声をかける。

 すでに、武器は用意している。


 それに、そもそも人数は圧倒的にこちらが有利だ。

 数は、たとえ相手が強くとも、押しつぶすことができる強力な武器である。


 しかも、理人はどう見ても鍛えられた強そうな男には見えない。

 やせぎすだし、武器を持っている様子もない。


 だから、彼らはある意味油断できるほど余裕をもって理人に声をかけていた。

 それを横目で見て、理人は……。


「でも、いくら何でもこの状況は、見逃した後がしんどい。あんたら異世界人と同じレベルにまで落ちてしまうしな」









 ◆



「ぜはー、ぜはー! も、もう無理……」


 盛大に肩で息をする理人。

 その周りでは、人間たちが転がっていた。


 とくに鍛えたりしていないが、やはり元一般人の理人からすると、一対多はかなり無茶をする羽目になる。

 だが、マカの力も一部とはいえ使用でき、修羅場を潜り抜けてきた回数は彼の方が多かった。


 その差が、今の状況となっていた。

 奴隷ちゃんは、そんな理人の姿を呆然と見上げていた。


 顔も知らない、名前も知らない。

 今日初めて見た顔。


 自分とは何のつながりもないはずなのに、彼は命を懸けて戦って、守ってくれて……助けてくれた。

 一人も友人がおらず、母からも見捨てられた自分を。


 怪我も負っている理人が、何とも複雑そうな表情で手を伸ばしてきた。


「……ほら、大丈夫か?」

「あ、あぁ……」


 許されるのか。

 自分は、この地獄から抜け出してもいいのか?


 その疑問は尽きないが、しかし少女は震えながら手を伸ばして……。


「何をつまらないことをしてくれているのかしら、この人間は」


 パッと、理人の身体から血が噴き出した。









 ◆



「あああああ……!」


 ドサリと目の前で倒れる理人を見て、奴隷ちゃんは絶望の声を上げる。

 自分を助けようとしてくれた男が、血を噴き出しながら倒れた。


 そして、それを為したのは、自分を弄び地獄に叩き落した、あの女で……。


「まったく。私のおもちゃに勝手に手を出さないでくれるかしら。盗人猛々しい。同じようなものが欲しかったら、自分で作りなさいな」


 怒りを露わにする女。

 ぷんぷんと子供のように、だからこそ邪悪だった。


 善意や人助けのために助けようとしたとは、微塵も思っていない。

 自分と同じように楽しみたくて、他人のおもちゃをかすめ取ろうとしたと考えている。


 それ以外に理由が思いつかないところが、この女のいびつさを物語っていた。


「あら……。でも、今の表情はいいわね。なんなら、前よりもいいかもしれないわ。なんだ、この男にもいいところがあったじゃない。やっぱり、落差が必要なのね。勉強になるわ」


 だが、腹立たしいことばかりではなかった。

 今の奴隷ちゃんの顔。


 それは、数年前彼女を地獄に突き落とした時以上に素晴らしいものだった。

 最近はまた面白いこともなくなって暇だった。


 それが少し和らぐ。


「ねえ、あなたのために助けようとしてくれた男が、目の前で死んだのはどんな気持ち?」

「う、うあああ……!」


 涙をポロポロとこぼす奴隷ちゃん。

 それを見て、さらに楽しもうと、追い打ちをかけようとして……。


「いや、死んでないけど。というか、あんたが死んでくれ」


 女の身体が炎に包まれた。




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その聖剣、選ばれし筋力で ~選ばれてないけど聖剣抜いちゃいました。精霊さん? 知らんがな~


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