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第11話 護衛されに来たわよ

 










 舞子さんは俺に手紙を手渡してくる。

 手紙というか、殺害予告状だけど。


 ……うん、なるほど。

 正直、この世界の言語って、俺ほとんど読めないんだよな。


 ろくに教育を受けていないし、教えてくれるような優しい奴がいたわけでもないし。

 とりあえず、知った風に頷いておこう。


 からかわれたら腹立つし。

 ……まあ、ニヤニヤしながらこっちを見ている舞子さんを見れば、ばれているのは明らかなんだけどね。


 性格悪いな、この性格ブス。


「ほら、ご丁寧に手紙でいただいたのよ。こんな熱烈なラブレター、学生の時以来だわ」

「あんた学生の時殺害予告なんてされてたの?」

「学生の時は普通のラブレターよ。私、モテモテだったんだから」

「それは分かる」


 舞子さんは、誰もが否定することのない美女だ。

 だからこそ、俺と違って、転移してきてからスタルト家に拾ってもらえたのだろう。


 いくら能力が高くとも、当主になるには最初家の中に入る必要がある。

 そのきっかけは、間違いなく舞子さんの場合、美貌になるだろう。


 学生の時からモテていたというのは、とても理解できる。

 俺? 聞くな。


「そうでしょ? この大きなおっぱいが……。まあ、今ほどではなかったけど、それでもFはあったから」

「知らんがな」


 おい、タプタプするな。

 露出度の高いドレスだから、はっきりわかるんだよ。


 気まずい気まずい。

 奴隷ちゃんの白い目が怖い。


 色気たっぷりの流し目を向けてくるが、怖すぎて反応しない。


「男はおっぱい大好きでしょ?」

「……昔は好きだった」

「今もでしょ?」


 舞子さん!?

 何を言っているんですか!?


 驚愕していると、後ろからとてつもない負のオーラが。

 さ、殺気……!?


「マスター?」

「ち、違う。止めろ、落ち着け」


 この真顔、怖すぎる。

 これはどういう怒りなんだ?


 まさか、『この女には手を出したのに、今まで自分が迫っていたにもかかわらず一切手をつけてこなかったこと』に怒っているのか?

 どんな怒り?


 いわゆる修羅場になっているわけだが、舞子さんはそれを敏感に察知し、そして面白おかしくかき回そうとした。


「今回の指名依頼の報酬、私の身体にしようか?」


 自分の身体の線を艶やかに撫でまわす舞子さん。

 起伏に富んだ肢体はとても柔らかそうで、温かそうで……。


 だが、俺は断じてこの甘言を受け入れるわけにはいかなかった。


「ふっ、奴隷ちゃんの目を見ろ。俺がそれを飲んだら、食われる」


 奴隷ちゃんはなおも奴隷としてあり続けようとしている。

 言葉は発しない。


 しかし、目の圧が凄かった。

 これ、俺が舞子さんの提案に頷けば、間違いなく食われていた。


 性的に。

 ドラゴンをワンパンする奴隷ちゃんと白兵戦なんてできる気がしない。


 一瞬でやられる!


「ともかく、これが本当にやる気かどうかは知らないけど、こういうものをもらった以上、警戒しないわけにはいかないのよ」

「それはそうだろうなあ」


 舞子さんはふざけすぎたと思ったのか、軌道修正する。

 じゃあ、最初から脱線するなよと言いたい。


 しかし、舞子さんも大変だろう。

 殺害予告なんて、受けていい気分になるはずもない。


 多少ビビってもいいのに、いつも通り悠然としているが。

 メンタルお化けじゃん。


「スタルト家の中でも、私の護衛を手厚くしようとする意見も強いわ。ただ、私の手の者、信頼を全幅における人間がいないのよね」


 凄く寂しいことを平然と言う舞子さん。

 誰も信頼できないって悲しい……。


「だから、私が信頼する、信頼する! あなたにお願いしようと思ったの」

「嘘くせえ……」


 めっちゃ信頼するを強調してくるが、巻き込むために言っているようにしか聞こえない。


「ともかく、私を守ってちょうだい。これが、あなたへの指名依頼よ」

「……了解です」


 まあ、スポンサーに消えられたら困るし、転移者で同胞という苦しい過去を共通する面もある。

 俺は頷き、その指名依頼を受けることにしたのであった。


 ……まあ、奴隷ちゃんがいるから何とでもなるわな!










 ◆



 俺たちはスタルト家の客室に案内されていた。

 客室とはいえ、さすが名家のスタルト家。


 俺の部屋よりもよっぽど豪華だった。

 いや、客室だからこそ、見栄を張るために立派な造りにするのだろうか?


 まあ、その辺りはどうでもいいか。

 ともかく、数日間、俺たちはスタルト家に滞在することになった。


 殺害予告が来てから直近なので、警戒をするためだ。

 さすがにずっと泊まり込みはできない……というか嫌だから、ある程度日が経って何もなければ自分の家に戻るが。


 ベッドの上に仰向けで寝転がると、奴隷ちゃんがススッと寄ってくる。


「あの会話、聞かれていましたね」

「……え、マジ?」

「マジです」


 奴隷ちゃんの報告に、俺はギョッと目を丸くする。

 教えてくれたらいいのに、とも思ったが、奴隷という立場上勝手に発言するのは難しいか。


 加えて、別に聞かれて都合の悪い話をしていたわけでもない。

 ……舞子さんは内部に信頼できる人がいないとか言っちゃっていたけど、まあ俺は関係ないからいいや。


 しかし、盗み聞きされるということは、信用できる奴がいないというのもわかるな。


「誰だ?」

「それは分かりませんが……。マスター以外は興味ありませんし、顔と名前は憶えていません」


 おもぉい。

 俺以外にも関係広げた方がよくない?


 しかし、奴隷という立場上、それは難しい世界である。

 クソだな、この世界。


「とはいえ、ここは家の中ですから、そこらの有象無象の一般人が盗み聞きできるとは思えません。警備もしっかりしていますし、侵入することはできないでしょう」

「自然と有象無象って付け加えるの止めよう?」


 しかし、奴隷ちゃんの言う通りだ。

 この屋敷の中に一般人が侵入できるとは思えない。


 なら、盗み聞きの犯人は一気に絞られる。


「となると、内部の人間か。使用人の教育が全然できてねえじゃん。名家って言っても、しょせんその程度だな」

「一瞬で見下すムーブはさすがです、マスター」


 盗み聞きをしていたというだけで判断するわけにはいかないが、殺害予告のことも考えなければならない。

 もしかすると、この内部に内通者がいる可能性だってある。


 強固な警備体制が敷かれていることは、殺害予告をした犯人も知っていることだろう。

 それでも犯行に及ぼうとするのであれば、確実性というか、自信が必要だ。


 内通者がいれば、それも納得できる。


「悪いけど、今回も頼らせてもらうぞ、奴隷ちゃん。俺、ろくに戦えないから」

「ドラゴンのブレスをノーダメで防いでおいて何をいまさらと思いますが……」


 おい。口の利き方がなってねえな、この奴隷。

 しかし、奴隷ちゃんは恭しくお辞儀をすると言った。


「ですが、お任せください。私はマスターの奴隷。御命令は必ず遂行いたします」

「全部任せた」

「……穀潰し」

「おい」


 こんなことを主人に言う奴隷ってどういうことだ?

 少なくとも、【俺は絶対にそんなことを言えなかった】ぞ。


「ところで、護衛はどういう風に?」

「具体的には言われていないけど、とりあえずこの客室で寝泊まりして、出歩くときに付き従うという形になるだろうな。スタルト家の私兵たちもいるし、護衛体制は万全だろう。俺ら冒険者が急にやってきて強く主張しすぎても、嫌がられるだけだからな」

「分かりました」


 あまり出しゃばるつもりはなかった。

 警備する人たちのプライド、スタルト家の名誉というものもある。


 それらを傷つけないためにも、あまり前に出ないのが大切だ。

 ……正直に言うと、命を懸けて舞子さんを守るのはちょっと嫌である。


 俺の方が大切だし。

 だから、今回は本当に必要な時以外は出るつもりはなかったのだが……。


 ガチャリと音が鳴って扉が開いた。

 そこからやってきたのは、先程の露出度の高いドレス以上に扇情的なスケスケ衣装を身に着けた、舞子さんだった。


 彼女はニッコリと笑うので、俺もつられてニッコリと笑う。


「護衛されに来たわよ」

「帰れ」




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