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【書籍化・コミカライズ】自分を押し売りしてきた奴隷ちゃんがドラゴンをワンパンしてた  作者: 溝上 良
最終章 自分を押し売りしてきた奴隷がドラゴンをワンパンしてた編
104/124

第104話 奴隷ちゃん見ているから、あんまり怖くないわ

 










 破壊されつくした街を見下ろす。

 そして、ゴロゴロと転がっている死体を見ると、心が痛む。


 別に、俺は快楽殺人鬼でも何でもない。

 元の世界では、普通の社畜をしていた普通の人間だったのだから。


 死体を見てワクワクするような性格でもなかったし、見ていて気分のいいものでもない。

 しかし、これを為したのは俺だし、目を背けるわけにもいかないだろう。


 それに、罪悪感は抱いていない。

 世界のリセットには、犠牲が必要不可欠だからだ。


 まあ、こっちの世界の人間からすると、リセットなんてとんでもなく迷惑な話だろうが。


「やっぱり人数だよなあ……」


 俺がポツリと呟くと、隣に立っている女がジロリと睨んでくる。

 金色の髪をセミロングまで伸ばし、凹凸がはっきりとしたスタイル。


 ただし、その目の鋭さはメデューサに匹敵する。

 まあ、俺はそんな魔物に遭遇したことがないから、全部妄想だけど。


 ただ、怖いのは怖い。


「いきなり何を言っているのかしら? ボケて独り言?」

「ひどすぎない……?」


 いきなりボケた発言は止めていただきたい。

 軽くショックを受けていると、もう一人の女がふんわりとした声を発する。


 ただし、その声音に反して、見た目はかなり異質。

 全身を包帯でぐるぐるに巻いており、その声や膨らんだ胸がなければ、性別なんて一切分からない。


 この異質なファッションを好んでしているわけではないのだから、当然見た目で引くことはない。

 というか、彼女の火傷の痕に薬とかも塗っているし。


「かわいいじゃない。最近構ってもらっていなかったからぁ、わざとそんな言い方をしているのよねぇ? 分かりやすくてかわいいわぁ」

「響! あたしはそんなのじゃ……!」


 響のからかうような言葉に、愛梨は顔を赤らめて否定する。

 うーん、この……。


 俺を挟んでこんな会話はやめてほしい……。


「そうなのぉ? じゃあ、私が構ってもらおうっとぉ」

「あぁっ!?」


 響がスルリと腕を絡めてくる。

 この女、慣れてやがる……!


「……俺はどんな顔をしたらいい?」

「美女に絡まれているんだから、喜べばいいと思うわぁ」

「まあ、それもそうか」

「え、あ……うん」


 響の言葉に乗れば、なぜか返事が滞る。

 それに、すっと俺の腕を離して距離をとった。


 何だろう。抱き着かれるのも困るけど、離れられるとそれなりにショックだ。

 俺、加齢臭とか出てる?


「誰かに見てほしいわ。大人の女ぶって調子に乗って、反撃を受けてガキみたいに照れている女の姿を」

「ッ!?」


 勝ち誇ったように愛梨があざ笑う。

 なんでこの子たちは仲間同士でこんなに煽り合っているの?


 仲、悪すぎない?


「で、人数ってなに?」


 愛梨がもう一度問いかけてくる。

 今の空気を換えるためにも、俺はそれに乗ることにした。


「いや、禍津會って強い奴が多いけど、数が少ないだろ?」

「まあ、生き残っている転移者が少ないからねぇ」


 コクリと頷く。

 世界のリセット。


 それが、俺の目的だ。

 他の禍津會のメンバーはこの世界や人々に対する復讐が目的なのが多い。


 俺の目的の過程でそれが満たされるため、特に反発などはなかった。


「だから、どうしてもマンパワーが足りないなって。ただ国を破壊するだけならまだしも、基本的に人間を殺さないといけないから、かなり手間がかかるだろ?」


 世界のリセット。

 すなわち、文化や歴史の破壊。


 それらを作り出すのは人間であるから、そこは当然削る必要があった。

 人類を絶滅させたいわけではない。


 俺も人間だ。

 とはいえ、殺さないと目的に達することがないため、躊躇なくこの世界の人々を殺して回っている状況だった。


 そして、建物とかなら適当に攻撃を仕掛けて崩すだけで目的は達成されるのだが、人殺しとなれば別だ。

 一気にドーンと大量破壊兵器みたいなものを使えればいいが、そんな便利なものはこの世界にはない。


 確実に一人一人殺していく必要があるのだが、そうなるとやはり人手が足りない。


「あんたの凄い目を使えばいいじゃない。もう痛くないんでしょ?」

「まあ、そうなんだけどな」


 愛梨の言う通り、実際ここでは俺の……というより、マカから強奪した目の力を遠慮なく行使した。

 もはや、過去に存在したデメリットや代償はない。


 激痛は走らないし、寿命は縮まないし、マカからちょっかいを出される心配もない。

 結果として、もともと力のない俺はバンバン使っているのだが、そうなると俺がいる場所は解決できても、他の場所では結局人手が足りない。


 それに……。


「これ使うと、奴隷ちゃんが来そうで……」

「…………」


 俺が言えば、愛梨も響も葬式のように沈黙した。

 奴隷ちゃん、怖いもんな……。


「その時はまた杠が追いかけっこするから大丈夫よぉ」

「本気でキレられるぞ」


 普段、ほとんど表情を変えず、淡々としている仲間を思い出す。

 しかし、一度奴隷ちゃんに追いかけ回されたこともあって、彼女のことがトラウマになっている。


 また同じ役目を押し付けたら、今度こそブチ切れることだろう。


「さて、ここも終わり。次はどこだっけ?」


 人手は足りないが、この地域に関してはリセットが完了した。

 あまり悠長にちんたらしている暇はない。


 ……いつ奴隷ちゃんに捕捉されるか分からないからな。


「もう忘れたの?」


 俺の言葉に、呆れたように愛梨が見てくる。

 そして、ゆっくりと口を開いた。


「北方の国、アリアトよ」


 ……マズイ。

 愛梨に教えてもらっても、何も思い出せない。


 正直、この世界の国の名前とか全然知らないんだよな。

 知る機会すら与えられなかったこともあるが、単純に興味がなくて。


 どうせリセットするし。


「そこは、そこそこ面倒かもしれないわぁ」

「そうなのか?」


 しかし、響がそんなことを言うと、どうしても気になってきてしまう。

 マカの力を奪った俺が言うのもなんだが、禍津會のメンバーはほとんどが強大な力を持っている。


 だからこそ、こんな小国にも満たない人数で世界に喧嘩を売ることができている。

 そんな一人である響でも警戒するような人物が、奴隷ちゃんや勇者以外に存在するのか。


「ええ。なにせ、怪物と呼ばれる人がいるみたいだからぁ」

「怪物かぁ」


 とんでもない二つ名だ。

 どちらかというと、ヴィラン側ではないだろうか?


 俺も普通だったら怯えたり警戒したりしていたのだろうが……。


「……奴隷ちゃん見ているから、あんまり怖くないわ」

「「それはそう」」


 俺の言葉に、愛梨と響もそろって頷くのであった。



最終章開始です!

また、過去作『偽・聖剣物語 ~幼なじみの聖女を売ったら道連れにされた~』のコミカライズ最新話が、コミックリュウ公式サイトで公開されております。

ぜひご覧ください!

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新作です! よければ見てください!


その聖剣、選ばれし筋力で ~選ばれてないけど聖剣抜いちゃいました。精霊さん? 知らんがな~


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