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第103話 俺、絶望する

 










「俺の目的なんて、そんなものだよ」


 ふうっと息を吐く。

 凄い。こんなに長くペラペラしゃべっていたのに、身体の疲れがない。


 マカの力って凄いんだな。

 そう思っていると、ベアトリーチェが汗を垂らしながら、しかし鋭い目で睨んできた。


「……なるほど、よくわかりました。あなたとは、どうしても相容れないことも」


 それは、まさしく訣別の言葉であった。


「あなたは、まさしくこの世界の敵、そのものです」

「別に敵意や悪意があって世界をリセットしようとしているわけじゃないんだけど……。まあ、そういう考えになるのも当然だよな」


 世界を一旦とは言え滅ぼすと言っていれば、抵抗したくなる気持ちも分かる。

 だが、我慢してもらいたい。


 俺を世界の敵とののしってもいいし、歴史に悪名を残してもいい。

 ……まあ、そんなに悪いことではないと思うんだけど。


 復讐で人を殺すよりはるかにいいと思わないか?


「抵抗するなら、多少痛い目に合ってもらう。抵抗しなかったら、優しく殺すこともできるんだけど……どう?」

「愚問では?」

「……だな」


 そもそも、俺の考えはこの異世界に住む人から受け入れられるはずもない。

 どのような理由があるにしても、殺すと言われるのだ。


 そんなもの、受け入れられるはずがない。

 その中でも、ベアトリーチェはやはり別格である。


 国と社会構造を守るためなら、自分の命すら投げ出す女。

 そんな彼女が、俺の考えを応援するなんてあるはずがなかった。


 これは、分かり切っていた質問だったし、想定通りの答えだった。


「まあ、そういうわけだ。とりあえず、この場ではあんたたちをどうにもしない。ただ、次に会うときは殺す。あんたはこの世界の構造を守ろうとするからな。リセットした後の社会にはいらない」

「残念ですね。ええ、とても残念です」


 本当のことを言うと、ベアトリーチェだけは殺しておきたかった。

 こいつから目を反らせば、俺たちにとって都合の悪いことが多く起きそうだ。


 だが、問題としては、まずここに望月がいるということ。

 俺がベアトリーチェに襲い掛かれば彼が邪魔をするだろうし、そうなるとお荷物になっている禍津會のメンバーが、戦いの余波で大変なことになるだろう。


 マカから簒奪した目の力を使ってもいいが……膨大な力を突然手に入れたようなものだから、うまく手加減とかができる気がしないんだよな。

 そんな、俺を悩ませる一人である望月は、強烈な敵意と決意を秘めた顔で、俺を睨みつけた。


「リヒトさん、僕はあなたの言っていることが理解できませんし、絶対に許しません!」

「ああ、お前はそれでいいよ。むしろ、賛同するとか言われた方がビビるし。ただ……」


 それでこそ望月だろう。

 激烈な差別を受けている転移者ではなく、この世界の人々を守って復讐の連鎖を止めようとした男なのだ。


 そうでなければおかしい。

 だが……。


「お前程度じゃ、今の俺には勝てないよ」


 キリッと表情を作って言ってみるが、少し考えてもらいたい。

 これ、マカの力を奪った俺が言っているんだよね……。


 他人の威を借る俺。

 うーん、ダサい。


「くっ……」


 しかし、その力は強大だ。

 実際、この結界を囲んでいた兵士たちは、皆殺しにされているのだから。


 さすがの望月でも躊躇している。

 よし、今のうちにお荷物抱えて逃げよう。


 そう思っていると……。

 外部から飛来した何かが、結界を容易く崩壊させた。


 そして、その勢いのままズドン! と地面に着地する。

 弾丸が着弾したのかと思うほどの衝撃。


 そして、うずくまっていた人が、ゆらりと立ち上がる。

 メイド服を着ていることから、すでに俺の顔は青ざめていた。


「では、私ではどうしょうか、マスター」

「ひぇ……」


 奴隷ちゃん、襲来。









 ◆



「ば、馬鹿な……。歴史に名を刻むレベルの魔法使いでも、数年は解除に時間がかかる結界を張ってきたのに……」


 俺は愕然としながら、悠然と立つ奴隷ちゃんを見る。

 めちゃくちゃ努力したのに……!


 奴隷ちゃんを閉じ込めるために、めちゃくちゃ頑張ったのに……!

 絶対に外を出歩けないようにするレベルなんだけどなあ……。


「私を閉じ込めるためにとんでもないものを用意してくれたんですね。さすがマスターです」


 相変わらず、適当に言っていそうな「さすがマスター」。

 もはや癖になってそうだ。


 閉じ込めようとしていたのに、それすらも好意的に解釈されてしまったら、もうどうしようもないな。


「ちなみに、その結界を見てもよく分からなかったので、粉々に破壊してきました」

「あー、なるほど物理ですね。それで突破したと。はっはっはっ」


 ふーっと一息。

 ……どうするんだよ、これ。


 さっきまでいい感じに進んでいたのに……。

 いい感じに逃げられそうだったのに……。


 奴隷ちゃんが一人やってきただけで、その希望は打ち砕かれた。

 もうダメだぁ。おしまいだぁ。


「……リーダー。あれと戦って勝てる?」

「……マカの力は強大だ。俺、たぶん今めちゃくちゃ強いと思う。それを踏まえてなんだけど……」


 一番奴隷ちゃんの恐ろしさを実感しているであろう杠が、顔を真っ青にしながらといかけてくる。

 もうその反応で答えが彼女の中で出ていることは間違いない。


 だが、聞かれてしまったからには、しっかりと答えよう。


「多分、勝てない」

「知ってた」


 絶望する俺と杠。

 無理だよぉ……。


 俺なんて、一番奴隷ちゃんの規格外の強さを理解している。

 散々利用して依頼をこなしていたわけだからな。


「リーダー。ここは全力で媚びを売って、むしろ仲間になってもらうべきですよ。正直、異世界人を仲間になんてしたくありませんが、正面衝突する方が嫌です。死にます」

「い、いや、うーん……」


 若井田の進言。

 正直、言いたいことはとてもよくわかる。


 俺だって、奴隷ちゃんと正面から殴り合いなんてしたくない。

 一発殴られたら死ぬ。


 だって、ドラゴンをワンパンする女だし。

 しかし、ちょっと待てと、俺の心の中のリトル理人が叫んでいる。


 ――――――ある意味、奴隷から解放できる最大最高最後のチャンスでは?


「あ、あの、奴隷ちゃん。もしよかったらなんだけど、俺の味方をしてくれないか? これから世界をリセットしようとしているんだけど」

「……マスターから求められた。初めて。これはもう夜伽と言っても過言ではないのでは?」

「過言ですね」


 何ぶっ飛んだことを言ってんだ、この女。

 奴隷ちゃんが味方になってくれるならヨシ!


 というか、俺のやることなすこと全肯定の奴隷ちゃんだから、頷いてくれることだろう。

 そうすると、完全に【仲間】として扱うことができる。


 奴隷なんて認めない。

 そういう転移者の立場を変えるために戦おうとしているのに、俺が奴隷を持っていたら話にならない。


 最大戦力を引き入れることができ、かつ奴隷という立場からの解放。

 完璧だ……。


 俺の頭脳の高さに惚れ惚れとする。


「それを踏まえてのご返答となるのですが……」


 うんうんと頷きながら、奴隷ちゃんの言葉を待つ。


「――――――嫌です」


 なんで?

 俺、絶望する。



第4章終了です!

次話から最終章となります。

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