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第102話 ありきたりな悪役の目的

 










 マカの力を取り込んだ。

 普通の人間なら、これは劇物である。


 おそらく、身体が耐え切れずに破裂でもしていたのではないだろうか?

 ただ、俺はマカの力と相性がいいみたいで、そのようなことにはなっていない。


 そもそも、適合できなかったら、目を無理やり押し付けられたときに死んでいたし。

 だから、勝算はそもそもあったのだが、とはいえそれ以上の力を取り込むことになるので、確実に大丈夫だとは思っていなかった。


 そのため、俺は人間を辞める覚悟を決めていた。

 この力を取り込めば、普通の人間ではいられなくなる。


 それは理解していたし、そうしないといけなかった。

 俺の目的のためには、強大な力というのはどうしても必要になる。


「ずっと身体の不調を我慢してきた甲斐があったな」


 だから、俺は自分の身体を治療しなかった。

 この世界に連れてこられて、拷問を受けて、俺の身体はボロボロだ。


 片目はないし、内臓はいくつか損傷しているし、そのせいでろくに食事をとることもできず、やせぎすだ。

 奴隷という立場から逃げ出してからは、お金というものには困らない。


 奴隷ちゃんがいれば、どんな危険度が高く報酬金が高い依頼もこなすことができる。

 この身体を治療しようと思えば、できたはずだ。


 それをしなかったのは、ひとえに人間性を少しでも下げておくため。

 臓器などを削っておけば、別の存在に身体が作り変えられるとき、副作用も少なくなると思った。


 実際にその予想が当たっているのかは知らないが、結果として、今の俺はこうして健在であるから、間違いではなかった。


「……いや、本当にしんどかったからなあ」


 ずっと体調不良なのである。

 ろくに眠ることもできない。


 ずっと痛いし、ずっと苦しいし、ずっと気持ち悪い。

 それを我慢してきた結果がこれだ。


 ようやく報われた気になるが、まだこれは通過点に過ぎない。


「さて、この人からもらった力で大暴れしてもいいんだけど、さすがにお前らがいたらきついな。とりあえず、逃げさせてもらうか」


 俺はチラリと周りを見渡す。

 倒れ伏す禍津會の仲間たち。


 正直、マカからかすめ取った力だし、彼らに一切影響を与えないように力を振るえる自信がない。

 とりあえず、こいつらを連れ戻してから、行動するとしよう。


「お荷物みたいに言わないでちょうだい」

「いや、お荷物だろ……」


 変なところでプライドを発揮する愛梨。

 今、完全にお荷物だぞ、お前。


「あなたは、どういった目的があって、禍津會のリーダーになられたのですか?」


 そんな俺に、ベアトリーチェが声をかけてくる。


「やはり、他の方々と同じで、この世界と人々への復讐でしょうか?」

「ん? あー……そうだなあ」


 さすがベアトリーチェ。

 少しでも多くの情報を、俺から抜き出そうとしてくる。


 まあ、俺の目的なんて別に隠すものでもないから、全然答えるが。


「やっぱり、俺も昔は怒りとかは持っていたよ。この世界に対しても、人間に対しても。マジで全員死んでくれないかなって、ずっと思っていた」


 これは事実だ。

 俺は、この世界にも人々にも復讐したいと思っていた。


 だが、今は違う。


「でも、身体をえぐられて食べられていた時にふと思ったんだけど、何か仕方ないよな」

「……仕方ない?」

「ああ。だって、この世界ってずっと転移者を食い物にして成り立ってきたんだろ? 何百年、何千年と続いてきたのかはしらないけど、そんな長い歴史の蓄積があったら、仕方ないって思えないか?」


 正直に言って、この世界の人々……転移者を虐げ、貶めている人々に、悪意はそれほどないのだろうと思う。

 なにせ、自分たちが生まれてくる前から、ずっとそれが当たり前のことだったのだ。


 彼らにとっての常識なのだ。

 じゃあ、それを責めたってどうしようもないだろう。


 常識を変えようとするのは、かなり難しい。


「人間もそうだよな。だって、生まれた時から転移者は最下層に存在しているのが当たり前の文化と社会なんだ。教育は洗脳に近いとか言われることもあるけど、それ以上の刷り込みがあるんだ。なら、この世界に住む人々を恨み、復讐するっていうのも違うかなって」


 だから、俺はこの世界や人間に復讐しようとすることを止めたのだ。

 とはいえ、それは俺の考えだから、禍津會のほとんどのメンバーが考えている復讐を止める気にはまったくならない。


 実際にひどい目に合っていたし、やり返したくなるのも当然だろう。


「そう言ってもらえるのは嬉しいですね。まさか、自分と同じくらい、そこまで客観的に物事を見ることができる方がいるとは思いませんでした。本当に私のものになってもらえないのが残念です」

「まだ言ってる……」


 嫌だよ、お前の味方になるの……。

 異世界人どうこうというよりも、普通に怖い。


「しかし、そのように思っているのであれば、どうして禍津會のリーダーに? あなたの目的は、いったい何なのですか?」

「リーダーっていうのは、別に望んでいないしなった覚えもないからいいんだけど……俺の目的ね」


 リーダーは知らん。

 禍津會っていう名前も知らなかったのだから、何も知らん。


 誰か代わりにやりたい人がいるなら全然変わる。

 むしろ変わってくださいお願いいたします。


 しかし、俺の目的か。

 これを他人に話すのは、初めてかもしれない。


 俺は少し高揚感を覚えつつも、口を開いた。


「この世界の、変革」

「変革……?」


 キョトンと首をかしげるベアトリーチェ。

 変革とは言っているが、一国で政治体制を覆すような革命みたいなことではない。


 文字通りの、世界の変革である。


「俺はさっきも言ったけど、この世界に対して恨みはない。人にも、もちろん。ただ、今のこの状況がいいとは思っていない」


 望んでいないのに、理由も分からないのに、今までの築き上げてきた生活をすべて捨て去られ、強制的に連れてこられる。

 そして、そこで待ち受けているのは、地獄すら生ぬるい悍ましい責め苦。


 今の状況でいいはずもない。


「これから先も、転移者というのは現れるだろう。そして、俺たちと同じように苦しい思いをして、ほとんどが殺される。そんな世界はよくない。だから、変革をする」

「……どうやって?」


 ベアトリーチェが笑みを殺し、冷や汗を垂らしながら聞いてくる。

 そう、手段が重要だ。


 世界の変革……今回に限っては、数千年の歴史と文化、常識を覆すというものだ。

 並大抵のことではできない。


 だから、俺がするべきことは……。


「とりあえず、この世界をリセットする」

「リセット……?」

「この世界の歴史も、文化も、社会も、すべて破壊する。恨みはないけど、生きている人間も大部分に死んでもらう。それが、リセットだ」


 俺の言葉を、誰もが遮らずに聞いていた。

 ベアトリーチェや望月は唖然としているが、禍津會のメンバーはどこか嬉しそうというか……なんか目がキラキラしている。


 怖い……。


「そうすることで、数少ない人間を管理し、子供の時から教育を施す。そうしたら、百年もしないうちに、この世界は転移者を迫害し食い物にするようなことはなくなるだろう。画期的じゃないか?」

「何を、言っているんですか、リヒトさん! そんな非人道的なこと、許されるはずがない!」


 望月が噛みついてくる。

 非人道的だということは、間違いなくその通りだ。


 殺人をしようというのだから。

 でも、その理屈は通用しない。


「非人道的なことは、今までさんざん転移者にしてきただろ。それを改善しようって言うんだ。何がおかしい? 俺もお前と同じように、転移者の地位向上をしようとしているんだよ、望月」


 笑顔を望月に向ける。

 ほら、笑顔って人を安心させるから。


 しかし、望月は顔を真っ青にして引きつらせていた。

 なぜ……?


「だから、俺はごく一部の人間を残し、この世界のすべてを破壊する。それが、俺の目的だよ」


 俺は、最後にそう締めくくった。




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