ヒロインについて語る
まぁ、宰相の孫、騎士団長の次男、財務大臣の年の離れた弟が使えないことはわかりきってる。
宰相の孫は選民思考のナルシスト。
騎士団長の次男は剣の腕も大したことがない脳筋。
財務大臣の年の離れた弟は甘えたの浪費家。
そんな三人は一応俺王太子の側近候補なはずなのに、俺と交流を持つ為に王城に来ないし、お茶会や夜会で会っても必要最低限の挨拶をするだけで、側に控えたりもしない。
極め付けはヒロインらしき令嬢に落ちた事だ。
やあもうびっくりだよ。
本当にいたんだピンク頭っ!しかもパッションピンクだよ、目が痛いっ。
目の前でアリシア嬢が倒れた時以来のショックだった。
最高学年の義務として新入生の道案内をしてた時、遠目にあの色を見掛けて思わず回れ右をして隠れた。呆れて俺を見ていたニックも隠した。
側にいた護衛の一人に同じ新入生のロカルトにも注意する様に伝言を指示。
あれは絶対触るな危険ってヤツだ。
後日ニックに調べてもらったら以下の通りだった。
レイス男爵とメイドとの間にできた庶子。名はリリー。
本妻が2年前に亡くなったと同時に屋敷に引き取ったが元が平民だったので教育を施すも身に付かなかった。
男爵家は本妻との間にできていた嫡男が継ぐ為、学園で嫁ぎ先を探す模様。
まさにテンプレキタコレ(古)!
リリー嬢の学園での行動を念の為ニックに見張る様に依頼。ニック自身は近付かない様に言うのも忘れない。
その結果ニックの腹筋が崩壊した。
「だって殿下がおっしゃった通り、宰相の孫と図書室で同じ本を取ろうとして手を重ねるし、騎士団長の次男とはパンを咥えたまま走って曲がり角でぶつかるし、財務大臣の年の離れた弟には木の枝に引っ掛かったハンカチを取ってもらってたんですよっ」
そう見事に出会いイベントをやってのけたらしい。しかも偶然じゃなくそれぞれ待ち伏せてたんだからそれは俺も見たかった。
「何呑気にしてるんですか」
憮然としてるのは普段王城で執務をしてるはずのアーサー。今日は珍しく学園に来たので貸し切りのサロンで一緒にお茶をする様すすめた。
「警備の方はすごく大変なんですよっ。殿下が姿を見たとたん逃げる相手ですから、学園の警備と協力体制を敷いて殿下の視界に入らない様にしてたんですから。それなのにあのご令嬢の奇怪な動きといったら…、教職員に殿下に無闇に近寄らないよう注意してもらっても「どうしてなんですか?なんでなんですか?」と幼子の様に聞きもしない。ご令嬢なので力ずくの訳もいかず改めて現状を把握、打開する為に私がこうして呼ばれたのですよ」
おおぅ…、裏でそんな事になってたのか、すまんな。
しかしこれで確定した。
リリー嬢も前世の記憶有り。しかも逆ハー狙いだろ、これ。
俺はまだしも三人ともちゃんとした婚約者がいるのにどうする気だろ?
でも今のところ注意するぐらいで現状維持しかしょうがない。
アーサーに警備の皆を慰労してもらうようポケットマネーを渡しといた。
ニックには引き続きリリー嬢と三人さらに三人の婚約者に見張りをつける様にした。
次はどうくるかな?と思ってたら動きました。アリシア嬢が。
下位貴族や平民がよく利用している食堂でリリー嬢と三人がいちゃこらしているところに突撃した。
「ちょっとあなた、殿方しかも婚約者がいらっしゃる方にその様に近づいてはいけないのよ!」
「どうしてですか?お友達なのにそんなのおかしいですっ」
「そうだ!友人と親睦を深めているだけなのにその様にきつい言い方をする事はないだろうっ」
「あなた方も婚約者がいらっしゃるのにその男爵令嬢に侍ってみっともないっ!」
「なっ、侍ってなどいない!友人だと言っているだろう」
「我らの婚約者がリリーに嫉妬して有らぬ事を吹き込んだに違いない」
「あら有らぬ事かしら。腕をくんだり、抱きついたりしているのに」
「そ、それはリリーは元々平民だったからまだマナーを覚えていないだけだっ」
食堂の中心で言い合ってる奴らに見付からないように警備を肉壁にして様子を伺ってるんだけど突っ込み所が満載だ。
大勢の生徒が迷惑そうに遠巻きにしているのに気にならないのか?わざとか?
アリシア嬢は一見正しい事を言っている様だけど俺の婚約者候補なのにロカルトを追いかけ回してる普段の己の行いはいいのか?
リリー嬢は元々平民だからってもう貴族になって2年は経っているんだが。
お前らもそもそも婚約者とでもそこまでくっついたりする事ないだろうがっ。
「やめてっ、あたしの為に争わないで!」
ブチッ。俺の中で何かが切れた。もうダメだ。
「ちょっと行ってくる」
ロカルトたちが止めるのも聞かず奴らの間に進み出た。
「お前たち、そんなに騒いで皆が迷惑してるだろう」
「リカルド様、あたしを助けに来てくれたのね!」
「まぁリカルド殿下、やっぱりこの男爵令嬢を庇いますのね?!」
いや今のセリフのどこでそうなった?!
リリー嬢は恍惚としてるし、アリシア嬢はしたり顔。三人は気まずそうに目をそらした。
ありがとうございました。