側近について語る
俺たちの様子にソフィーリア嬢が気まずげだ。
いかんな、こほん。
「あー、頼み事をしてもいいが相手の都合を考える様にな。それと今後は必ず俺に報告、連絡、相談するように」
「はいっ」
二人ともいい笑顔。たまに忠犬の様になるから憎めないんだよな。
多分誤魔化されてるんだろうし。
まぁ、二人と側近が仲が良さそうでなによりだ。
ここでかなり遅くなっていたので解散する事に。
ソフィーリア嬢を馬車止めまで送り、俺たちもそのまま城に帰る。
城では妃教育に来てるはずのアリシア嬢と会わない様にとビクビクしてるロカルトにニックと二人して笑ってしまう。
そう言えば結局あの初めてのお茶会で側近に選んだのは当時12歳だったユリウス・ハワードだけだったな。
そうアリシア嬢が暴れてた時やる気の無さそうに知らん顔してた奴だ。
ユリウスは社交は苦手だが、植物に対しては天才的で努力も惜しまない。
お茶会のしばらく後に地方で麦の様子がおかしいと訴えがあった。
本来ならまだ幼い俺たちが関わる事はないんだけど、俺は妙な知識を時々出すしロカルトは天才だ。
何か解決の切っ掛けになればと現地に行く時、ハワード公爵から「多少植物に詳しいので」とつけられたのがユリウスだった。
現地に着くとユリウスはすぐこれまでの作付けの記録やら天候やらを調べて、様子がおかしい麦を見て【黒穂病】だと判断し、伝染病なので素早く除去する為に動いた。
農家には大きな決断だったが、第一王子である俺が損害を保証する旨を告げ第二王子のロカルトがすかさず試算して、被害が大きくなる前になんとか収まった。
この時ユリウスの事を気に入った俺は側近に欲しいとハワード公爵に打診して、三男で社交性もなくもて余していたので二つ返事で了承してもらった。
ロカルトが仲がいいのはユリウスよりも騎士団出身のアーサー・クラウトだ。
天才ではあるけどその分体を動かす事が苦手で華奢なロカルトは、筋肉質で大柄だけど気さくなアーサーに憧れるのかもしれない。
アーサーは20代半ばで部隊長になった出世株だったが任務中に部下を庇い負傷、後遺症が残りやむ無く引退する事になった。
それを知った俺は上司に可愛いがられ部下の面倒を良くみて、同僚にも好かれていた事を知っていたので声をかけた。警備の面や騎士団に対して知恵を貸して欲しいと。
剣しか使ってこなかった為先行きが不安な自分を拾ってくれたと忠誠を誓ってくれたが、自分自身も大切にしろと念を押しといた。感激して男泣きされたのには参ったけど。
つらつらと考えながら歩いているといつの間にか執務室に着いていて、ニックが扉を開けてくれていた。
中に入ると受付がありその奥には応接セットと少し間を開けて事務用の机が六つ規則正しく並んでいて、一番奥には大きめな俺用の机があり左右にキャビネット、さらに壁際には本棚兼書類棚が並んでいる。
どこか懐かしい配置はうっすらとしか記憶にない前世で働いていた時のものを参考にした。
せせこましいと言われるが俺は機能重視なんだ。
指定席に座って人心地つくと早速書類の束が差し出される。
「モリス、少しゆっくりさせてくれ」
「はい、今日中にこちらにサインをいただけるのならいくらでもゆっくりなさって下さい」
眼鏡を押し上げながら鷹揚に告げられため息をつく。
しょうがない、俺が学園に行っている間モリスを中心に執務を任せているんだから。
そう側近の最後の一人がこのモリス・ローゼンだ。
彼は自分から売り込んできた。雑用係でもいいからと、当時13歳だった俺に。
訳を聞くと一年程前に執務を始めた時、呪文の様な報告書を見て頭痛を覚えた俺が前世で働いていた時の記憶を捻り出して作った書類のテンプレートに感動とともに可能性を見出だして、ぜひ直接仕えたいと思ったそうだ。
身元なんかは頼むまでもなくニックが調べてくれていて、ローゼン伯爵家の次男で23歳、外務省に務めているエリート。幼い頃から実家の財務関係にも携わっていたというなんだか文官のスペシャリストの様な奴だ。
そんな奴が王太子とはいえまだ子供の俺なんかに仕えるより国王に紹介しようかと尋ねたら、
貴族の陰湿なアレコレが嫌で鬱気味に病んでいたと。俺の周りは俺が直接選んだ事もあってか人間関係は円満なのは端から見てもわかるらしくテンプレートも素晴らしかったのでダメ元で押し掛けたらしい。
こんだけ優秀な奴なら受け入れるよね?
各所に軋轢を生まない為に走り回って許可をもらったさ。
これに学園を卒業したら臣籍降下するロカルトが加わってくれる。
何とも頼もしい布陣じゃないか。わかってるよニックもだよ。
だから俺には必要ないんだ、派閥関係で勧められた宰相の孫とか騎士団長の次男とか、財務大臣の年の離れた弟とか。
皆なぜか俺と同じ年で、一応未だに側近候補になっている。
こいつらも乙女ゲームの攻略対象者ぽいよな?
でも俺はもともと同年代の側近には疑問に思ってたんだ。自分自身まだ未熟なのに同じ子供同士で執務やら本当にできるのか。相談相手としても何とも頼りない。
悪役令嬢と同じ様に相違が出来ようとも譲る気はない。
そいつらが使えるなら話は別だけどな。
ありがとうございました。