悪役令嬢について語る(中編)
「悪口になってしまいますが、シュワイツ様は人を見下した所がありまして、また行動も変わっていると言いますか…ですので殿下とのお茶会以外には余り言葉を交わした事もございませんでした」
遠慮がちに言ってるけど判るよ。
前世の記憶がある自分はゲームのキャラだと思ってる他とは違うって鼻にかけてるんだよな。
そんで本当は一月に一度あった婚約者候補のお茶会も嫌がって今じゃアリシア嬢に合わせて年に2、3度あるかどうかだ。
「それが三年生になった頃からしきりに誘われる様になりまして…、その度にリカルド殿下から定型文の手紙しかこないとか夜会があるのにドレスを贈って下さるのは年に2度程で誕生祝は花束しか贈ってこないとか、文句ばかり聞かされますのにご自分だけが婚約者と思っておいでの様で、その真意が分からず困っておりましたの」
俺がケチだって言いたかったんだろうな。
でもそれも婚約者候補が三人もいるから足並み揃えて過剰にならない様にしてたんだよな。
この婚約者と婚約者候補の相違点は俺のせい。単純に悪役令嬢にざまぁされるのを回避するのと実はこっちが本命で候補のうちにお互いを知り見極めたいと思ったんだ。王族に生まれた以上政略結婚は免れないからせめて歩み寄れる相手がいい。それでできればやむを得ない場合を除いて妃は一人で十分だ。一夫多妻なんて草食な俺には無理。ハーレムなんてめんどくさそうで御免だ。なんと言っても父上も母上一人なんだよな。政略結婚でも今でもラブラブだ。
もう一人の候補も侯爵令嬢なんだけど可もなく不可もなくで、ちょっと性格が強いのか時折アリシア嬢に突っ掛かっていた。まあそんなんでこのままいけば妃はソフィーリア嬢になるかなと思ってる。
そう思ったらなんか照れてきた、恥ずっ。
俺が脳内でわたわたしてる間にソフィーリア嬢の言葉をニックが引き取った。
「それでタイミング良くと申しますか、タンゼン様もお困りの様でしたのでお声を掛けさせていただいたのです」
「それがなんでソフィーリア嬢がこの計画に加わるんだ?さっぱりわからん」
「殿下、言葉」
「なんだよ、お前も乱れてるだろ。タンゼン嬢すまない」
俺とニックのやり取りにちょっと空気が和んだ。
ソフィーリア嬢が「ふふっ」とわらってる。
「仲がよろしいのですね。どうかわたくしのことはソフィーリアとお呼び下さい」
さっき名前で呼んでたか。しまった。
「ではソフィーリア嬢と呼ばせていただく。ありがとう」
「いえ、光栄ですわ」
なんか違う方向に空気が和んでないか?
ロカルトもニックもニヤニヤするんじゃない!
ソフィーリア嬢も「んんっ」と喉をならして気をそらす。
「あの、殿下の侍従の方とお話してわたくしがお願いしましたの。殿下のお役に立てるならと」
「それでも盗聴録音してるならあんな怪しげな所に乗り込まなくても」
「あー、それは本命は別にありまして、タンゼン嬢出してもらえますか?」
答えたのはロカルトで、ソフィーリア嬢は袖口から小さな皮袋(?)を取り出してロカルトに手渡した。
なんだろ?何か見覚えある様な…。
ロカルトはそれを俺の目の前に持ってきてニヤリとした。
「兄上覚えておられますか?幼い頃見せていただいたお茶の入っているカップを空にする【手品】というのを」
ちょっとロカルト君何を言い出したのかね…
「確か袖口に皮袋を仕込んでそこにお茶を流し込むのでしたよね。あの時は失敗してお茶が溢れて袖口どころか服が悲惨な事になっていたので吸収性の高い布を入れて改良したのです」
「わー!俺の黒歴史ー…って、え?本命にそれって…」
「はい、タンゼン嬢にはシュワイツ嬢のお茶会で出されるお茶の入手をお願い致しました」
俺は思いも寄らぬことで皮袋とソフィーリア嬢とロカルト、ついでにニックへと視線をさ迷わせた。
「この数ヶ月の間にシュワイツ公爵の周りで情緒不安定になる者が複数、果ては心臓発作で亡くなった者が二名出ましてシュワイツ公爵家近辺を探っていたのです。公爵本人は関与を否定して尻尾もつかめなかったので、令嬢なら或いはと」
「じゃあ公爵は娘にも何かしら例えば薬でも盛ってるって言うのか?」
「それはわかりません。ただ数少ない手掛かりですのでこのお茶を分析してみます」
乙女ゲーム系なのかなぁ~て呑気にしてたけどなんかグロくなってきた。
「…わかった、宜しく頼む。でもロカルトもニックも、もちろんソフィーリア嬢も危険な事は絶対するなよ。何かあれば俺にもそれから大人にも頼れ。これは命令だ」
「了解しました」
三人声を揃えて返事をしてくれたので一応安心かな。
「でもソフィーリア嬢は中立派だし婚約者候補なだけなのに、なんでそこまでしてくれるんだ?」
何とはなしの素朴な疑問にソフィーリア嬢の顔が一気に赤くなった。
「えっ、ソフィーリア嬢どうした?!大丈夫か?」
俺は慌てて立ち上がりソフィーリア嬢の足元に膝をつき顔をのぞきこむけど、両手で覆われてて見えやしない。でも耳まで赤くなってる。
側でオロオロしてるとソフィーリア嬢の震えた声が聞こえてきた。
「殿下はわたくしと初めてお会いしたお茶会の事、覚えておられますか?」
またもニヤついてる二人を横目に俺は小首をかしげた。
あれは確か婚約者と側近を選ぶ為の俺が初めて主催したお茶会だ。
長くなりました。
やっと次回で語れます。