転生した自分の思いを語る
暇潰しになれば幸いです。
やぁ、異世界転生って知ってるか?
俺の記憶によると20年程前から令和の現在に至るまで、ライトノベルやアニメ、ゲームと様々な分野で人気をはくしてるテーマだ。
もちろんそれ以前からもファンタジーとしても幅広く親しまれてきたが、もっと身近になったと言えるのではないだろうか。
そしてその異世界転生(召喚も)のジャンルの中でも乙女ゲーム系のものは未だに根強い人気がある。
かく言う俺も暇潰しに無料サイトなどでよく読んだものだ。
ざまぁ系はもちろんちょっとアンニュイなダーク系も割と好きだった。
「殿下」
誰か呼んでる気がするが、語り始めたばかりなんだ、ほうっておこう。
さて、どこまで語ったかな?
そう、異世界転生の乙女ゲームものを幅広く読んでたんだよ。
それで常々思ってた事がある。
「なんで転生してるヒロインにしても悪役令嬢にしてもあんなに思い込みが激しいのか!!」
ダンッ!
両の拳をローテーブルに激しく打ち付けティーカップの中のお茶が溢れる。
とすかさず後頭部にスパンッ!と衝撃がはしった。
「なに仕事増やしてんだ、アホ殿下」
さすが俺の相方たる従者。絶妙な突っ込みだ。
「だってニック、叫びたくもなるだろ?」
「まぁ、随分個性豊かなご令嬢方ですからねぇ」
ため息をつきながらも、テーブルを片してくれる。すまないな。
従者のニックも認めている【個性豊かなご令嬢】それが俺が荒ぶっている原因だ。
さんざん読みたおしたweb小説やラノベ、楽しませてもらったし作者の方々に文句がある訳じゃないんだ。
俺が文句があるのは実際に転生して物心ついてからの記憶があるのになんでやつらはゲームの世界と思い込んでんだってこと。強制力とかもなさそうなのに。
俺の気を静める為にニックが、カモミールのハーブティを淹れてくれた。
優しさがしみる。
「私は殿下はお小さい頃から大変変わっていらっしゃると思っておりましたが、あのお二人を観ていると随分マシなのかもしれないと思い直しております」
「どういう意味だよ」
そう言うと「何言ってんだ」という不躾な視線がかえってきた。
思えばこいつは出会った時からこんな感じだった。
あれは忘れもしない確か5歳の頃、国王陛下の侍従であるトマスに孫であるニックを紹介されたんだ。
「リカルド殿下、こちらが本日より殿下にお仕えすることになりました、私の孫のニックでございます」
「王国の星リカルド第一王子殿下に初めてお目にかかります。トマス・ディスペンダーが孫のニックと申します。本日より宜しくお願い致します」
さらりと肩から流れ落ちる艶やかな黒髪、ダークブラウンの切れ長な目。一見地味な色合いだが俺より少し年上にもかかわらずすでに大人びた風貌の美形が侍従のお仕着せを着て、少し固い表情で挨拶してきた。
んん??
あれこいつって…
「お前隠しキャラだろ?!」
俺はおもいっきり指差しながら叫んだ。
そうだよな、第一王子の一見地味な美形侍従なんてトゥルーエンドからの隠し攻略者だよな。
ん?
【隠し攻略者】ってなんだ?
頭の中に聞きなれない言葉が浮かんできて混乱してると
「人を指差してはいけませんと習いませんでしたか?」
そう言いながら俺の指をあらぬ方向に曲げてきた。
「いだだだ…!」
この時にはすでに身体を痛めない絶妙な力加減を体得してやがったな。
ニックに初めて会った日から俺はふいの時前世の記憶らしきものが頭に浮かぶ様になっていた。
俺自身のことは成人男性で働いていた事ぐらいしか思い出せないけど、現代知識やらラノベやらの事はポロポロでてきてついでに口からもでて、その度にニックに突っ込まれたり、誤魔化してもらったり世話になってる。
ニックとも、もう12年の付き合いになるのか…。
しみじみと少し冷めたハーブティを口にふくむ。
「兄上、そろそろ僕の事を思い出してください」
あ、忘れてた。
いかんな、前世の記憶を思い出してるとつい考えに沈んでしまう。
「悪いな、ロカルト。忘れてたわ」
「いえ、馴れてますので」
そう2つ年下の弟ロカルトと学園の王族や高位貴族が貸し切りにする個室サロンでお茶をしてるところだった。
この弟の事も小さい頃には思いもしなかったがある日
(あれ、こいつって隠し攻略者とか悪役令嬢がざまぁした後に現れて「実は兄の婚約者と知りながらお慕いしておりました」とか言うヤツじゃねぇか?)
と頭にうかんだ。
さすがに口には出さなかった。俺えらい。
いやだってさ、こいつ一言で言うと天才なんだよ。
まさにラノベのヒーローみたいなヤツ。
3歳の頃には読み書き計算はもちろん王宮にある図書のほとんどを読みあさってたし、10歳までには帝王学も修めてた。
俺?学園入る前にやっとだよ。それでも早い方なんだぞ、こんちくしょう。
もうさロカルトが王位をつげばいいんじゃね?
そう思ってたら、先制して両親の前で宣言しやがった。
「僕は学園卒業と同時に臣籍降下します。さすがに兄上に世継ぎができるまでは王位継承権は放棄しませんが」
この時両親がどう思ったかはわからない。少なくとも俺にはわからない様にしてくれてた。
がっかりされたらさすがの俺もやさぐれるからな。
ロカルトは行動も早かった。
常に俺をたてて、王太子は兄だと敬ってくれた。
側近には能力はあるが下位貴族の権勢にほとんど影響のない者を選び、婚約者は兄が婚姻した後だと宣言している。
そのおかげか皆俺をたてて、世継ぎ問題もなく円満だ。
そこまでされるとしょうがない。腹をくくって頑張るしかないよな。
そう奮起してたのにこいつの本音はこうだった。
「王位なんて面倒くさいよね。世継ぎ問題でもめるのも嫌だし。僕は裏で好きなことをして責任は兄上に押しつけ…んんっ、兄上をもり立てるよ」
こいつはこういうヤツだった。
ニックとともにいい様につかわれてる気がするのは気のせいじゃないはずだ。
ありがとうございました。