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エピソードエレン  作者: 暁辰巳
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新たな一歩


 オレ達は今、一階のリビングでおじいさんとおばあさんと一緒に朝食を食べている。


 オレや、おじいさんとおばあさんも黙って食べている。

 重い空気だ。

 会話をするどころか、声かけるような雰囲気ではない。

 

 食事の時はいつも、会話をするどころか、一言も発しないまま食事を食べ終えていた。

 だが、今日の食事はいつもと違った。


 オレは悩んでいた。

 悩んで食事が進んでいなかった。

 

 悩んで食事が進んでいなかったオレに、

 いつも心配しているおじいさんが 「何かあったのか?」っと、声をかけてくれた。

 おじいさんの心配言に、「ちょっと今悩んでいて」っと返した。

 いつもなら、おじいさんの心配言は黙って返答をしないのだが、今日はおじいさんの心配言に応答した。


 この時、オレは気がつかなかった。

 おじいさんと久しぶりに会話をしたことを。


 黙って朝食を食べていた途中、食事中の空気がいつもと違うことに気づいた。

 食事の途中で『空気』が変わったことを気になったオレは、おじいさんとおばあさんの方へ視線を向けた。

 そして、なんで空気が途中で変わったのかが、分かった。


 おじいさんとおばあさんが、ちょっと嬉しそうな表情で朝食を食べていた。

 これが食事中の空気が変わったことの正体だった。


 何で少し嬉しそうだったのか、オレには分からなかった。

 少し嬉しそうに食べているおじいさんとおばあさんについて少し考えたが、オレには分からなかった。


 いつもと違う空気を味わいながら、食事を少し楽しく終えた。


 オレ以外は……。




 ■



 食事を終えた後、オレはいつも通り二階の自室へ戻った。

 

 いつもなら、ずーっと過ごしてきた自室の中で静かに一日を終える。

 だけど今日は、いつもと違った。


 食事中におじいさんとおばあさんの『あの顔』を見てから、妙な感覚がオレを襲っていた。


 妙な感覚は、悩みでも悲しみでもない。

 今も妙な感覚に襲われているが、不思議と、苦しくもないしツラくもなかった。

 むしろ、気が少し楽になった。


 「…久し振りに、魔法教本でも読もうかな」


 久しぶりに、魔法教本を読み返すそうと思った。

 何故かは分からないが、久しぶりに読み返したくなった。


 魔法教本を手にして目にするのは、二週間ぶりか。

 魔法教本や本を目にすると、母さんと共に励んできたあの日々を思い出して、余計に悲しくなる。

 だから、本を視界に入れることを極力避けてきた。

 

 魔法教本を目にするのは久しぶりだが、本を目にした瞬間に湧き出てくるあの嫌悪感は湧き出てこなかった。

 


 すらすらと静かに魔法教本を読み始めた。



ーーーーーーーーーーー



 「ふうー」


 ある程度魔法教本を読み終えたオレは、一息ついた。

 久しぶりにを読んだためか、魔法教本を一気に完読することは出来なくなっていた。


 今までのオレなら、

 毎日魔法教本を読み返し続けていたことだけあって、いつの間にか一気に魔法教本を完読出来るようになっていて、魔法教本を一気見することくらい余裕だった。


 一気に魔法教本を完読できる特技を失ってしまったのは残念だが、悲しくはなかった。

 かつてのオレなら、この特技を失ってしまったら深く落ち込んでいただろう。

 魔法教本を一気に完読できなくなってしまったのは、少し残念だが。



 何がともあれ、ある程度魔法教本を読み終えて、少し気持ちが晴れた。





---------


 「ん?」


 魔法教本を読み終えたので、ゴロゴロして休憩していたところ、

 何やら外が騒がしいので、窓を開けて外の様子をみたところ、

 町の人達が皆、一か所に向かって走っているようだった。


 町の人たちが走っている方向を見ると、向かっているすぐに分かった。



 「―あれは!」


 赤く燃え立つ、一つの大きな建物。

 まだ昼間だというのに、それは赤く光って一際目立っていた。


 火事だ、火事が起こっていたんだ。

 


 オレは急いで家を飛び出て、火事が起きている現場へ走って向かった。



 現場に着くと、

 多くの人たちが皆、燃えている一つの建物を静かに見ていた。

 そして火をけすため、水魔法が使える人たちは皆、前衛で火の消化に勤めていた。



 「火の勢いが全然収まらん。 あの中にはまだ、子供が一人閉じ込められているというのに!」



 おそらく、現場を指揮している町の衛士さんが、悔しそうな顔で小言を漏らしていた。

 そしてその近くで、

 女性が一人で後先顧みず火事の中へ飛び込もうとして、衛士さんに止められていた。


 「離して! あの中にはまだうちの子が!」


 必死に大声で助けを求めている声が耳に入って、ようやく分かった。

 あの女性は、火事の中に取り残されてしまった子供の母親だ。


 ―!




 この時、オレは考えるよりも先に行動を起こした。

 水魔法で全身に水を浴びた後、猛烈な勢いで火事の中へ飛び込んだ。



 「あっちぃ!」



 夏のような、猛烈な暑さと火の勢いがエレンを襲う。

 いや、エレンを襲うのは暑さと火だけではない。

 火事の中では、常に一酸化炭素や黒い煙が発生し続けている為、息を吸うだけでも命を蝕んでいく。


 エレンは出来る限り少量の息しつつ、右手で水魔法で火を消化しながら急いで進んで行く。

 左手の方は極力威力を弱めた氷魔法の冷気で自分を涼しんでいる。


 火事の中は夏のような猛暑…いや、夏の猛暑の方が遥かにマシっと言える程に暑い。

 その為、左手で冷気を放つことで俺自身の体温を調整している。


 

 この火事の中で取り残さているのは、あの母親の子供一人。

 この猛暑すぎる火事の中で、いつまで生きていられるかは分からない。

 

 本来なら、

 常に場を警戒しつつ、慎重に事を進めたいが、今はそんな状況ではねえ!

 急いで見つけ出して、この火事の中から脱出しないと。


--------



 火事の中に突入して、どれくらい経ったかは分からない。

 急いでいたからな。


 だが、火事の中に取り残さていた子供は何とか見つけることができた。

 子供はかなり弱ってはいたが、まだ死んではいなかった。


 オレは子供を肩に抱え込んだ後、

 まずは天井を中級の水魔法で穴をあけた後、地面に思いっきり水魔法を噴射して飛ぶことで、火事の中から脱出した。

 

 この時、オレは残っていた魔力の全てを費やした。

 


 「まぶ…し…」


 最後にオレが目にしたのは、太陽の光だった。

 それを最後に、オレは意識を失った。

 

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