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エピソードエレン  作者: 暁辰巳
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引きこもり

 あれからどれくらい時間が経ったのかな…。


 母さんが死んで、おじいさんとおばあさんがこの家へ移り住んで以来、オレはずっと自室へ引きこもった。

 一日のほとんどを、自室の中で過ごすようになった。

 


 おじいさんとおばあさんはとても優しくて良い人だ。

 何日も自室に引きこもってるオレを毎日気に掛けてくれるし、自室の目の前まで食事を持って来てくれる。

 おまけに、こんなになってしまったオレを一度も咎めもしない。


 母さんが死んで以来、

 毎日欠かさずやってきた鍛錬は嫌気がさしてやらなくなったし、学屋にも通わなくなった。

 大好きだった魔法教本を読まなくなったし、ただの本ですら、視界にすら入れたくもなくなった。

 

 ただの本すら視界に入れると、嫌なことを思い出してしまうから。

 

 時より、

 シータたちが家にきて、ドア越しから励ましの言葉を送りに来てくれる。

 シータたちがオレを心配してくれるのは、正直嬉しい。


 だけど、シータたちに励まされて嬉しい筈なのに、何も思わなかった。

 





 「ありがとう…帰ってくれ」


 覇気がない口調で、ボソッと声をだした。

 ひどい声だ。

 こんな酷い状態なオレを母さんに見られたら、オレは一生耐えられない。


 来る日もシータたちが家に来て、オレに励ましに来てくれる。

 だけど来る日も励ましに来てくるたびに『帰ってくれ』っと言い返した。

 『帰ってくれ』っと言った後、オレを励ましに来た友達は皆、黙って帰って行った。

 

 シータと同じく、オレを元気づけようとして、毎日自室の目の前まで来てくれる友達もいた。

 だけど自室の目の前まで来てくれる友達は、徐々に減っていた。


 オレを元気づけることを諦めたからだ。


 友達がオレを元気付けることを諦めていく中、シータだけは違った。

 シータだけは諦めず、毎日自室の目の前まで来て、オレを励ましに来てくれる。

 一緒に励まそうとする人たちが自分以外にいなくなってもだ。




---------



 母さんが死んでから二週間後。


 今日も相変わらず自室に引きこもっていた所、おじいさんがオレの元に一通の手紙を届けに来た。

 どうやら、オレ宛にらしい。

 おじいさんから渡された封筒を受け取った後、中に入ってあった一枚の紙に書かれている文章を読んだ。


 エレンさんへ


 突然のお手紙失礼します。

 私は『ロゼ魔法学園』で教頭をやっているマリンと申します。

 エレンさんのお母さんの頼みで、この手紙を送りました。


 エレンさんのことは、貴方のお母さんと何度か手紙のやり取りで伝えられています。

 なんでも。初級魔法を完全にマスターして、中級魔法をあと少しで完全にマスターするとか。


 貴方のお母さんの頼みは、“エレンさんをロゼ魔法学園の入学″を頼まれたことです。


 エレンさんが入学を希望するなら、喜んで入学を受け入れます。

 入学~卒業までの学費は、貴方のお母さんから既に受け取っているため、払う必要はありません。


 ロゼ魔法学園学園では、身分と種族。子供~大人まで関係なく、誰でも入学ができます。

 もっと魔法を上達して、もっと強くなりたいというこころざしがあれば、ロゼ魔法学園に通ってみませんか?


 突然の通知で恐縮ですが、ご検討頂けたらと存じます。

 近いうちに、我が学園から教師が一人あなたの元までたどり着きます。

 その時に入学するかどうか、どうかお考え下さい。


  ロゼ魔法学園教頭教師 マリン・アルフォード

                      」



 魔法学園か。

 確か母さんも、ロゼ魔法学園に通って魔法の腕を高めていたと言っていたっけ。


 ロゼ魔法学園は魔法と魔動機(マギア)の研究と発展を目的とするところでありながら、

 多くの魔法使いたちを育て、一人前の強い魔法使いへ育て上げる場所だ。


 学園に通ってもっと魔法を極めたいという想いはあるが、今のオレには、この部屋から出られそうにない。


 出来る事なら、オレが中級魔法をマスターするまで、母さんには生きてて欲しかった。

 毎日少しずつ鍛錬を積み重ねて行って、中級魔法をマスターした所を母さんに見せたくて、褒めて欲しかった。


 「はあ…」


 思わずため息が出る。

 このままずっと自室にひきこもったままではいられないし、一歩踏み出して何としようとしたいが、全然一歩踏み出せない。


 おじいさんとおばあさんは老人だ。

 いつまで生きていれるかなんて、分からない。もしかしたら、明日にはすぐに死んでしまうかもしれない。

 おじいさんとおばあさんが死んだとき時、オレはまた一人になる。


 

 一人になるのがどうしても怖い。

 また大切な人が死んで、また一人ぼっちになると分かっているから、怖くて一歩が踏み出せない。


 「とりあえず…入学のことはまた明日に考えよう」

  

  

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