向き合い
町に帰ってきた後、ユイさんのおごりでご飯を食べた。
外食である。
本当は自分の家に帰っておじいさんとおばあさんの料理を食べたかったが、ユイさんさんに半ば強引に連れて行かれた為、付き合ざるおえなかった。
だが、付き合ってよかった。
初めて外食をしたこともあると思うが、もう一度いきたいと思うほどにオレのいい思い出になったからだ。
初めて見る食べ物。
初めて味わうおいしさ。
これらを体験出来き、知ることができて本当によかった。
あまりのおいしさに、食べるだけたべるやると思いオレは飲食店にある食べ物を片っ端から食べていった。
飲食店でご飯を腹いっぱい食べ終えた後、オレとユイさんは我が家へ帰った。
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「……ということなんだ」
家に帰った後気を引き締め、話があると勇気を出しておじいさんとおばあさんに宣言した。
おじいさんは分かったっと言い対談が始まった。
毎日食事をしていたテーブルと椅子に座り、テーブルに置かれたお茶の湯気が空中へ上がる。
お茶はユイさんが送ってきたもので、貰った茶葉を使っておばあさんがいれてくれたもの。
ちなみにユイさんは対談に参加しているどころか、家の中にもいない。
「家族同士の大事な話があるみたいだから、私は邪魔になります」とか言って、ユイさんは家から出ていったから。
「そんなことはありません」っとおじいさんとおばあさんは優しく言ったのに、ユイさんは家から出ていった。
出ていくユイさんをみて、オレはどこか違和感を感じた。
「魔法学園に通いたいなら、通いなさい」
「―え?」
おじいさんの一言にオレは驚いた。
魔法学園とユイさん、そしてオレの決意。
これら一通りの事情を噓偽りなく話した。
おじいさんからは反対されると思っていた。
「エリナさんやユイさんのような、強い魔法使いになりたいのじゃろ?」
「なりたいです…」
おじいさんの言葉にオレは驚く。
おじいさんのいう通り、エリナはかつて魔法使いを専門とした冒険者だった。
そのことにまず間違いはない。
ユイさんも母さんの弟子なだけあって、強かった。
「はんたい…しないんですか?」
魔法使いを目指すということは、冒険者として生きることを意味する。
この世界の戦士の殆どは冒険者になる者の方が多いため、戦士は冒険者になることが当たり前の常識となっている。
冒険者として生きることは、常に魔物や賊と戦うことを義務付けられる役職。
いつ死ぬかも分からないところに行こうとする子供がおれば、止めようとしない親はいないはずだ。
「エレンが自分で決めたことじゃろ?
エレンが自分自身でちゃんと決めたことに、ワシらが反対したり決める権利はない。
たとえ、エレンがワシと…いや、忘れてくれ」
何かを言いかけようとして、おじいさんは途中で口を止めた。
一体、何を言いたかったのだろうか。
「ひとつ、聞いても言いですか?」
「なんじゃ?…」
「ずっと気になっていたんですが、
おじいさんとおばあさんの子供は、どんな人だったのか、教えて…くれますか」
「「!!!!」」
ずっと気になっていた。
いや。気になってもいたが、どうしても知りたかった。
おじいさんとおばあさんも、結婚して子供を育てたはずだ。
おじいさんとおばあさんの子供が、どのような大人に育ったのかが気になって仕方なかった。
「確かにワシらにも、息子が一人のいた。 ワシとばあさんのかけがえのないむすこじゃ」
おじいさんは自分の子供について話し出した。
オレはおじいさんを真剣に見つめて話を聞くが、
コップに触れているおじいさんの両手が、強く握っていることに気が付いた。
オレはコップから視線をはずし、おじいさんの話を真剣に聞いた。
「息子はそこまで頭がよくなかったが、優しくていつも頼りになるワシら自慢の息子じゃった。
ワシとばあさんが若い頃。ワシらが商人として生活していた時、息子は毎日ワシらの商売を手伝ってくれた」
「だが息子はある時、荷物をまとめ、 手紙の一つも残さずに、ワシらの元から出て行ったてしまった」
「―! どうしてですか!?」
思わず、そういう言葉が出る。
てっきり、おじいさんとおばあさんの息子さんは幸せに育ち、いい大人となっているのかと思っていたが、そういう訳ではないようだ。
「息子は剣士に憧れていた。 小さい子供の時から、息子は剣を見るのが好きだった。大きくなったら、「僕は強い剣士になる」っという程にな」
「……」
「…昔。ワシとばあさんは、家族そろってアウルへ移住してきた。 護衛として雇われた、冒険者たちに守られた馬車に乗ってな」
「移動の途中、ワシらは魔物に襲われ殺されかけた。 馬車は腕の立つ冒険者たちに守られている為、魔物や賊に襲われたとしても守ってくれる。じゃが、その冒険者たちでも対処できない程に強い魔物の群れに襲われたため、ワシらはその魔物に殺されかけた」
恐る恐る、オレはおじいさんの話を聞く。
コップを握っているおじいさんの両手は震えていた。
立って話を聞いていたおばあさんも、顔色が悪くなっていた。
魔物に襲われたんだ。その時のことを思い出そうとすれば、嫌でも蘇ってくるか。
「ワシら全員が馬車の中で身を寄せ合いながら魔物におびえていた時、偶然通りかかった一人の冒険者のお陰で、ワシらはこうして長生きができた。
あの冒険者に助けられたこの恩は、絶対にわすれはせん」
「その…冒険者は…」
「その冒険者は剣士を職業とする冒険者じゃ。黒い髪に青い目をした男の剣士。
その冒険者はたった一人でありながら、護衛の冒険者たちが対処できなかった魔物の群れを、たった一人で壊滅させた」
おじいさんの話を聞き、エレンはあることが脳裏に浮かんだ。
エレンは思った、おじいさんとおばあさんの息子は、自分と同じじゃないかと。
目指したものは違うが、憧れたものになろうと思いったこころざしは同じ。
息子さんが何故、おじいさんとおばあさんから黙って出て行ったのか、エレンは理解した。
息子は、本気で剣士になろうと思い、おじいさんとおばあさんの元から去ったのだ。
おじいさんとおばあさんから去ってしまう程、息子さんは剣士になりたかったんだと思う。
「息子がワシらの元から去ってもはや数十年。 息子はワシらの元へ一度も帰ってこず、手紙の一つも送ってない。
憧れだった剣士になれたのか。剣士になって、冒険者として生きているのか、
それとも冒険者をやめ、誰かと結婚して幸せに暮らしているのか、それすらもワシらには分からい」
おじいさんは一口お茶を飲んだ。
コップに入っていたお茶がなくなったため、おばあさんが二杯目のお茶をコップに注いだ。
おばあさんがコップをテーブルに置いた途端、話が再開した。
「息子がワシらを捨てて出て行ってしまったことが、ワシらの雄一の未練にして後悔でもある。
ワシらが息子の心境を察し、剣士になりたいという夢を断固反対さえしなければ!
ワシら家族との絆を壊さずにすんだ…!」
「……」
心なしか、おじいさんの言葉には怒りと悲しみを感じた。
そして、話の最中におじいさんの顔は泣き崩れた。
怒りは、家族の絆と、家族の仲を壊してしまった自分へ向けたもの。
悲しみは、長年家族と会えなくなってしまった寂しさと、息子さんの夢を否定しかできなかった自分への情けさによるものだと思う。
思えば、
母さんは、オレが魔法使いになりたいということを否定しなかった。
母さんは元魔法使いだから、魔法使いになりたいというオレの気持ちが分かるからかもしれない。
「数年前、ワシは不治の病にかかった」
落ち着きを取り戻したおじいさんは冷静になり、再び話を再開した。
「ワシは自暴自棄になった。 妻であるばあさんの励ましでさえ聞き入れず、
病で死んで楽になり、あの世にいる息子に会おうと思っていた」
オレは自分のコップに入っていたお茶を少し飲んで覚悟を決めた。
これからおじいさんが話すことは、どうしても聞かなければいけないと思ったから。
「自暴自棄になってしまったワシの前に、エレンの父親であるマスミさんが現れた」
(ー!! 父さん!?)
「マスミさんは凄い人じゃった。 ワシにかかった病を治そうとする医者がいれば、ワシは問答無用で叩き返していたが、
マスミさんは一方的にやられ続けていたのに何のやり返しや抵抗もみせず、真っ直ぐな目でワシの近くまできた」
普通、一方的にやられる状況だと誰だって少なからず抵抗するだろう。
オレだったらそうする。
だけど一切の抵抗をせず、自暴自棄だった頃のおじいさんの攻撃を耐えた自分の父を聞いて、オレは感動と尊敬の念を抱いた。
「マスミさんの寛大さにワシは負けた。
ただ真っ直ぐワシの元へ歩いてきたマスミさんの姿は眩しかった。
それは、空に輝く太陽のようにな」
父さんを太陽のような人物と例えたおじいさんの話を聞いて、オレはクスッと笑った。
確かに父さんは、このこの町にとって太陽のような人だったかもしれない。
実際、父さんはこの町の有名人だし。
オレは父さんに一度も会ったことがないので、父さんのことを話してくれるのは嬉しい。
「ワシにかかった不治の病はマスミさんによって治療された。
そして、何故ワシが自暴自棄になってしまったのかをマスミさんに聞かれ、ワシはマスミさんに相談した」
父さんに相談したおじいさんは我に返って、過去の呪縛から解放されたらしい。
もし父さんがこの町にいなければ、『今も過去に囚われたまま、妻であるおばあさんに迷惑をかけたまま生涯を終えていた』っとおじいさんは語った。
「エレンよ! お前の父親として、父であるワシから言えることは一つ。
お前は、お前の選んだ道を行きなさい」
「オレの、選んだ道…」
訳が分からないことを言われて、オレは混乱する。
だが、オレは混乱しながらもなお、おじいさんの話を心して聞いた。
「お前は魔法学園に通って一人前の魔法使いになり、エリナさんやユイさんのような強い魔法使いになりたいのか?」
「なりたいです!」
オレは即答で答えた。
「…そうか。行ってきなさい。
この家のことはワシとばあさんが責任を持って受け持つ。
エレンは安心して魔法学園に行き、立派な魔法つかいになって、この家に帰って来きなさい」
「はい!」
この日、オレはおじいさんと初めて向き合ったことで、本当の家族に慣れた気がする。
その後。互いに涙をこらえきれず、家族一緒に泣いた。