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閑話 イアン・マルコスの独白

 俺の名前はイアン・マルコス。二十五歳。

 嫁さんと、もうじき三歳になる息子が一人居る極普通の平民だ。王都ヴィステルの東地区で小さな生花店を営んでいる。



 今日はいつものようにリルアンまで花を仕入れに行ったんだが、仕入れが終わって煙草を吸いながら他の花屋連中と駄弁っていたら、仕入れ先の爺さんに声をかけられたんだ。

 いったい何かと思って行ってみたら、王都に戻ったら花束を届けに行って欲しいと頼まれた。


 俺としたら手間賃が頂けるなら有り難え。ついでに花束を届けるくらいの仕事が増えたってどうってことないから、すぐにでも引き受ける気でいたら、届け先が王宮だって言うじゃないか。

 王宮? 冗談じゃねぇ。そんな面倒な所に行ってられるか! さっさと断っちまおうと思ったんだけど、そこに居た坊ちゃんが言うには「門番に預けるだけで良い」ってことだった。

 結局俺は手間賃に目が眩んでその仕事を引き受けたよ。



 一旦家に戻って仕入れた花を全部馬車から下ろした俺は、嫁さんに「すぐに戻るから」と言い残して王宮の門まで急いだ。

 指定された門まで行って、門番に事情を説明した俺は花束を置いて帰ろうとしたんだが、門番は「しばらくここで待ってくれ」の一点張り。

 俺はどうやら不審人物と思われたらしく、城の中から騎士まで数人出て来ちまった。何も悪いことなんてしてないのに捕まっちまうんじゃないかと焦ったよ。


 そう言やあ、坊ちちゃんたちから「花束と一緒に届けるように」と言われたメッセージカードがあったことを思い出した俺は、遅まきながらそれを門番に渡したんだ。

 だがどう言う訳だかカードには、宛名も、それどころか差出人の名前すら書いてない。あるのは良く分からねぇデコボコした蝋の塊だけだ。これじゃ、ますます俺が疑われる。


 そうしているうちに話が大きくなって、ついには騎士団長様がお出ましになった。その封筒を門番から受け取った騎士団長様は大慌てで騎士の一人に何か命令したんだ。



 自分の将来をあれほど不安に思ったことは今迄に無いね。騎士たちに囲まれて、正直生きた心地がしなかったよ。


 しばらくして、なんとか伯爵って人がやって来た。すごく感じの良い人だったよ、そのなんとか伯爵は。封筒を一目見ただけで伯爵は全てを理解したらしかった。

 

 花束と封筒を大事そうに抱えて、俺に丁寧に礼まで言って城へ戻って行った。

 それだけじゃ無い。「長時間拘束をして迷惑をかけた」と言って、迷惑料として大銀貨を一枚下さったんだ。

 一応俺は断ったよ。でも伯爵は「取っておいて欲しい」と言うんだ。それじゃ仕方ねぇ。これ以上固辞したら逆に失礼かと思って、有り難く受け取ることにした。



 そんなわけで、今日はついてるんだか、ついていないんだか、ちっとも分からねぇ一日だったよ。

 でも、まあ、もう二度と王宮への花の配達は受けない方が身のためだ。次があるとも思えないけどな。

お読みいただき、ありがとうございます。

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