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クロスロード 〜眠れる獅子と隠された秘宝〜  作者: 杜野 林檎
第一部 王家の子どもたち編
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 4 旅人(1)

「兄さん。ほら、もうすぐ見えてきますぜ。ヴィスタル! あれがクリスタリア国の王都ヴィスタルでさぁ」


 夜更けの暗い海の上を静かに進んできた船が、夜明けと共についにその目的地へ近づく。

 これが船が港を出てから何度目の朝日になるだろう……。


 ヴィスタルが美しい街だと言う話はこれまでにも散々聞かされてはいたが、まさかこれ程までとは想像していなかった。


 訪れる者にその豊かさを容易に想像させるかのように、ヴィスタルの街はたった今昇ったばかりの朝日を受けて、キラキラとより一層輝いているように見えた。

 クリスタリア国の王都であるヴィスタルは、その豊かな国力を見せつけるかのように整然と美しい。建物は白壁で統一され、屋根の赤茶色の瓦が壁の白さによく映えている。家々の窓辺には色とりどりの花が綺麗に植えられているのが遠くからでもよく分かる。



 船員の大きな明るい声に誘われたかのように、デッキに出てきた人々が皆同じ方向を見つめ、溜息を漏らす。


「ああ、本当に美しい街だ……」

「でしょうともさ! 俺はヴィスタル以上に綺麗な街なんか見たこたぁありゃしませんぜ」


 街の奥にひと際美しく豪奢な建物が見える。おそらくあれが王宮だろう。


「我らが国王のカルロ様は、もちろん王様としても素晴らしいお方なのは間違いねぇんでさ。でももし仮にあの方が王族でなく、商売人としてお生まれになっていたとしても、絶対に一国を築ける程の才覚をお持ちのお方ですぜぇ」


 いかにも人の良さそうなその船員は得意そうに話を続ける。


「先代の父王フェルナンド様。ああ、もちろん今もお元気でご存命だよ。そのフェルナンド王の時代だってこの国は素晴らしく豊かだったことは言うまでもねぇんだが、カルロ様が王位にお就きになってからってぇもの、カルロ様はこの国で採れる石ころを素晴らしく見事な宝石に変えちまう “神の技” を振るわれてさぁ。そりゃもう、国中、民の一人一人に至るまで、みーんなを幸せにしちまったんさぁ。まぁ、”神” ってぇのは大袈裟すぎなんだが、そん位すんごいお方だってぇことだよ」


 確かに、それは有名な話だ。



       ー  *  ー  *  ー  *  ー



 ここで少しだけ、あくまでも私の知る範囲になるのだが “魔導石” と “魔力” の関係について話をしよう。

 一般的によく知られ、広く利用されている魔導石は、火、風、水、氷、それから雷。これら五種類だろうか。


 分かりやすい “火” を例に説明する。

 この大陸に暮らす人々は、その質、量の差こそあれ、皆魔力を持って生まれてくる。火の魔導石は火の属性魔力を持つ人間が、自身の魔力を特定の鉱石(クリュリム)に注ぎ込む事により作られる。

 そして、その火魔導石(火石)をセットすることで魔導ランプや魔導コンロといった “魔導具” は利用可能となるのだ。

 魔導石は、蓄積された魔力を使い切れば空の鉱石(クリュリム)に戻り、当然だが魔導具の動きは止まる。再度魔力を注ぎ込めば、その魔導石は再び使用可能になる。

 基本的には余程扱いが悪く無い限り、魔導石(クリュリム)は魔力さえ補えば半永続的に利用できる優れものと言えるだろう。


 強い魔力を有すれば、当然強い力を持つ魔導石を作ることが出来る。

 だが例え魔力の弱い者であったとしても、魔導ランプや簡易型の魔導コンロなどに使用するような小さめの魔導石に魔力を満たすことは十分可能だ。

 もしも五人家族の全員がそれぞれ別の属性持ちだった場合には、生活に必要な最低限の魔導石の入手を他に頼らずに済むということだ。極端な話、一人で五属性持ちの場合は一人暮らしでも特に不自由は無いとも言える。



 もともとクリスタリアは貴重な “鉱石” や “貴石” を多く産出する鉱山を所有することで広く知られていた。魔力を持つ者であれば魔導石を作ることは可能なのだから、魔導石を生産しているのは当然ながらこの国だけではない。

 しかし、クリスタリアほどその元となる鉱石(クリュリム)の産出量が桁外れに多い鉱山を多数所有する国はない。つまりはそういうことだ。

 必然的にクリスタリアは良質の魔導石を多量に他国に輸出できることになる。



 だが、クリスタリアの皇太子はその()()だけで満足しなかった。

 魔導石には成り得ない為、当時は『美しいだけでほとんど価値など無い』と見なされていた “貴石” にも目を向けたのだ。

 『カラーストーン』とも呼ばれるそれらの貴石は、魔導石にこそなりえなかったが、それぞれに独特の色合いと美しい輝きを放つ。

 それらの貴石を繊細な形に加工し、より美しく磨き上げることの出来る職人たちを皇太子は国を挙げて育成した。そしてその技術に見合うだけの地位を彼らに与えたのだ。

 彼らが見事に加工した石は “宝石” と名を変える。そして、その出来栄えに値する価格をつけ輸出することで、職人たちにも、それからもちろん国にも莫大な利をもたらしたのだ。

 当時、皇太子は若干十八歳だったと聞く。

 こうして生み出されることとなった宝石たちは、その美しい輝きと共にカルロ皇太子の名をも各国に広く知らしめることとなった。




「まず石を切り出す。それを加工する。それからそいつで商売をする。するってぇと国も民も潤うってことさ。兄さん方も恋人への土産にどうだい?」


 船員はご機嫌に話し続ける。陽気な彼の周りに段々と人が集まり出し、それに気を良くしたらしい船員の声が更に調子付く。


「美しい宝石と言えば、このクリスタリア国ヴィスタルの “何にも代えがたい素晴らしい宝石” ってぇのを皆さんはご存知ですかい?」

「なんだいそれは? 是非教えてほしいねえ。私らでも旅の土産に買えるもんかい?」


 いかにも興味深そうに、最前列で船員の話を聞いていた恰幅のいい中年の女性が、船員に声をかけた。


「土産? それは無理な相談ってぇもんだよ。()()って言うのはあくまでも例え話でさぁ。まぁ、つまりは王家のお子たちのことなんだよ。三人の王子様と、それから、同じく三人の姫様さね。王子様は……」




 その話好きな船員によると、この国の現王カルロ・クリスタリアには六人の子どもたちが居るという。


(私がこれまで他国を旅して得てきた情報とこの国の民の話。果たしてどれ程の差異があるのか……。これはなかなかに興味深いな)

お読みいただき、ありがとうございます。

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