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 8 クラブ見学

 兄のシアンから執行部の話を聞いた数日後、アスールはルシオと一緒に魔導具研究部の見学に来ていた。

 

 広い室内にはいくつもの作業スペースがある。

 数人でスペースを和気藹々(わきあいあい)とした雰囲気で利用している者たちもいれば、個人用の小さな作業台で一心不乱に何かを真剣に作っている者もいた。

 シアンは奥のテーブルで若い男の人と手に持った物について何やら熱心に話をしているようだ。


「兄上!」

「ああ、アスール。ルシオもよく来たね」


 シアンは持っていた物をハンカチで包んでポケットにしまうと、アスールたちに今まで一緒に話をしていた人物を紹介してくれた。


「こちらは魔導具研究部顧問のクレランス先生。去年まで魔導士団の研究員をされていて、今年この学院に来られたんだよ。魔導石加工の専門家だ」

「シアン殿下の弟君のアスール殿下ですね。お噂はかねがね。そちらはバルマー君だね。お二人は今日は見学だけですか?」

「はい」

「そう。何かあれば遠慮なく聞いて下さい。では、ごゆっくり」

「「ありがとうございます」」


 クレランス先生が行ってしまうとルシオが喋り出した。


「シアン殿下は今、何の研究をされているのですか?」

「今? 今は研究というよりはご機嫌取りのプレゼントを作成中かな。ほら、これ」


 シアンはポケットからハンカチを取り出した。ハンカチをひろげると小さな花の飾りのついたペンダントが出てきた。シアンはそれをハンカチごと机の上にそっと置いた。


「ローザにね」


 ルシオは興味津々といった表情でそのペンダントを覗き込んでいる。


「可愛いですね。……薔薇ですか?」

「そうだよ」

「ここで作っているということは、もしかするとこれも魔導具なのですか?」

「そう。ここの魔導石にちょっとした効果を付与してあるんだ。どんな効果かは教えてあげられないけどね」

「へええ。こういうのも作れるんだ。アスール、見てよ。すごく綺麗だよ」

「そうだね」


 室内を歩いて、シアンは二人を他のメンバーにも紹介してくれた。


「数人でチームを組んで魔導具を開発しているグループもあるんだよ。例えば彼らとか」

「僕たちは孵卵器を開発中なんだ。火と風の属性を上手く利用することで親鳥を失ったホルクの卵を人工的に効率よく孵すことを最終目標にしてるんだ」

「ホルクって飼育室の卵ですか?」

「違うよ。あそこの卵は親鳥がちゃんといるだろ? 僕たちが孵したいのは密猟者によって巣から盗まれた卵だよ。密猟者を見つけて卵を取り返せても、無事に人の手で孵化させることができる卵は思った以上に少ないんだ」

「そうなんですね」

「ここは個人やグループでそれぞれのテーマを持って何かを研究したり制作してるクラブだね。難しいことや分からないことは先輩や先生、時には魔法師団の人が来てくれるから、気軽に相談したら良いよ」

「分かりました」




「いろいろなことを考えている人がいるんですね」


 一通り見せてもらい終えると、ルシオが感心したように呟いた。


「そうだよ。彼らが必要とする物が自分たちの想像もしないような物だったりして、時々本当に驚かされるよ。そんな物何に使うの? って思うような物も、その人にとってはすごく重要だったり、逆に僕らが欲しいと思う物を、それって何の意味があるの? って言われたこともある」


 シアンは何かを思い出したのだろう、クスッと笑った。


「学院にいると、人は暮らす場所、その地位や立場によって生活は様々なんだと実感させられるよ。狭い貴族社会の中にいるだけでは見えないことが沢山ある。別に魔導具研究部でなくても良いんだ。この学院の五年間で、可能な限り多くの友人を作ることを君たちにもお勧めするよ。出来れば貴族ではない友人をね」




「アスール、どう思った?」


 東寮に戻る途中でルシオがアスールに尋ねた。


「ん? 魔導具研究部のこと? 僕は入ろうかと思ってるよ」

「ああ、それもそうなんだけど。僕が聞きたかったのは君の兄上、シアン殿下が言っていたことについて。自分たち以外の立場とか生活とかなんて、僕は今まで意識して考えたことなんてほとんど無かったな……」

「そうだね。君だけじゃない、僕だって同じさ。兄上は凄いよ。本当にいろいろなことを考えていると思う。教会のお手伝いだってそうだよね」

「ああ、確かに」

「あのさ、ルシオ」

「何?」

「僕、まだ学院に入学してから一人も新しい友人が出来ていないんだよね……。君は?」

「あーー。友人って呼べるレベルだと…‥どうだろう。今まで顔を見たことある程度の人が、会えば少し話すくらいになったで良いなら、数人いる」

「それって貴族? 平民? それともどっちも?」

「……まだ貴族だけ」

「そっか……。兄上には、身分に関係無く沢山友人がいるみたいなんだ。最初は王子だからって理由で近づいて来る人もいるだろうけど、それだけじゃなくて、いつかお互いの存在を認め合える友人を作りたいな」

「そうだね」

「でも、友人を作るって……どうすればいいんだろう? とりあえず明日、違う席に座ってみるとか?」

「それは多分マティアスに却下されると思うよ」

「どうして?」

「あの席はマティアス的には君を守るのに最適な席と思ってるはずだからね」

「学院内にいるのに守るって……」

「仕方ないよ。マティアスはあのディールス侯爵の甥だよ。一緒に剣の鍛錬を始めたあの日から、彼は君を主人(あるじ)と決めたんだと僕は思っているよ」

主人(あるじ)?」

「そう、主人(あるじ)! 僕だってそうさ。それも、マティアスなんかよりずっとずっと小さな頃からだからね」


 ルシオは真面目な顔でアスールを見た。


「アスール、君が進む道に、僕たちは共にあるよ。僕の父親やマティアスの伯父上がそうであったように」

「でも、父上と違って僕はこの国の王にはならないよ……。王になるのに相応しいのはシアン兄上だ。僕はそう思ってる」

「そうかもね。でも、そんなことは関係無いだろ? 元々、王の側近になりたくて君と一緒にいるわけじゃ無いんだから。そんなこと、君だって分かってるでしょ?」

「ありがとう。ルシオ」

「よし。じゃあこれからどうやってずっと付き合える友人を増やしていくか、一緒に考えよう!」

「そうだね」

「あっ!」

「どうしたの?」

「ほら、あそこ! あれってマティアスじゃない?」

「そうかも。丁度剣術クラブも終わったんじゃないの?」

「かもね。おーーーーーーーーーい! マティアーーーーース!」

「ちょ、ちょっとルシオ……皆な見てるよ!」

「平気だって。って、不味い。マティアス、怒ってるかも……」



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